第199話 介入
「才斗……さん?」
「お前は黙ってろ、チャケ」
「で、でも……」
「いいから。それにコレは俺のケジメである」
そう言うと、崩原が小百合さんたちの前に立ち、驚くことに両膝を地面につき、
「――すまねえ」
頭を下げて謝罪したのである。
その姿に、チャケや他の『イノチシラズ』のメンバーは驚愕した。
「どういう……おつもりですか?」
当然崩原の真意を問い質そうと小百合さんが尋ねた。
「アンタらの中に『イノチシラズ』の被害者がいるってんなら、それは間違いなく俺のせいだからな」
「さ、才斗さんそれは――」
「黙ってろって言っただろ、チャケ!」
「うっ……!?」
「言ったろ。これはケジメだ。俺は『イノチシラズ』の頭張ってんだ。なら……分かるだろ?」
「でも……でもよぉ……」
どうやら崩原には言い訳をするつもりなどまったくないようだ。
彼のせい……確かに流堂の暴走は、崩原に起因するが、奴がやったことまで全部背負う必要は俺はないと思う。
ただ元々崩原のもとにいたメンバーたちの中には、流堂に脅され仕方なく悪事に手を染めた連中もいただろう。そしてそういう者たちによって人生を壊された女性もこの中にいるかもしれない。
そう考えれば、崩原の組織した『イノチシラズ』が、まったく無関係ではないとも言える。だからこそ彼は下手に言い訳なんてするつもりはないのだろう。
それが組織のトップとしての誇りなのか、崩原という人間の矜持なのかは分からないが。
ただその姿には、ほんの少しだけだが男としてのカッコ良さを感じさせた。
崩原の素直な謝罪もそうだが、チャケとのやり取りに、何となく自分たちの経験を鑑みて齟齬が生まれたことに気づいた者たちは困惑気味の表情を浮かべる。
しかしそれでもやはり納得できない者もまた多い。
「あ、あなた謝っても、私の弟は帰ってこないわよっ!」
その中の一人が、怒りに任せてナイフを持ち崩原へと突っ込んできた。しかも崩原、今度は避ける素振りを見せない。
「才斗さんっ、危ねえ!」
チャケが叫ぶが、信者の動きの方が速かった。
そのまま突き出されたナイフが崩原の顔面に接近したその時、寸でのところでピタリと止まったのである。
「――――そこまでにしときましょう」
その場に現れた俺は、突き出された信者の腕を掴んで止めていた。
「!? お、お前何で……っ!?」
当然面識がある俺……というか鳥本健太郎の顔を見て、崩原が目を丸くする。チャケも同様だ。
「久しぶりだね、崩原さん。ここにいるのは……商売のためでして」
「しょ、商売?」
「まあ、その話はまたあとで。とりあえず、あなたも落ち着いてください」
「……!? は、離してっ!」
信者が身体を必死に動かし俺から逃れようとしたので、俺は素直に手を離してやった。
そして信者はそのまま距離を取って、俺を睨みつけてくる。
そんな信者には目もくれず、俺は小百合さんに話しかけた。
「小百合さん、いきなり割って入ってすみませんね」
「……お知り合いのようですが?」
「……比較的冷静ですね。あなたこそ、彼女のように取り乱してもおかしくはないんですけど。……もしかして彼があなたを傷つけた者たちではないことに気づいていましたか?」
そうだ。小百合さんの態度が変だった。
彼女も『イノチシラズ』と名乗る賊に襲撃を受けた者の一人なのだ。なら彼らが目の前に現れた以上、問答無用で復讐に走ってもおかしくないのに、彼女からは怒りの感情を感じなかった。
そして俺の言葉を聞き、信者たちも「え?」といった様子で小百合さんを見つめる。
「…………無関係、というわけではないですよね?」
小百合さんが絞り出した言葉がそれだった。
「まあ、俺も少しは事情を知っているのでね。確かに無関係というわけじゃないです。ただ彼は私の友人の知り合いで、殺されると困るんですよ」
無論虎門や、『死の武器商人』として活動する円条ユーリの商売相手という理由だ。せっかく稼ぎ口だというのに、ここで失うのは少し痛い。だから介入させてもらった。
「それに誤解で殺しをしたんじゃ、そっちの彼女も後悔してしまいますよ?」
俺が指を差したのは、さっき崩原に攻撃を仕掛けた信者だ。彼女も突然指を差され怪訝な表情を見せている。だけどすぐに目を吊り上げ、
「何を……何を誤解してるっていうのよ! 私の弟は、そいつらに殺されたのよ! しかも私の目の前で! そして私は……そいつらに……」
恐らく小百合さんと同じ経験をしたのだろう。涙を流しながら語る彼女に、そっと他の信者が寄り添う。
「気持ちは分かります。ですが殺すにしても、誤解したままじゃ意味がないでしょう?」
「だ、だから誤解ってどういうことなのよ!」
「この人たちは確かに『イノチシラズ』であり、そのリーダーがここにいる土下座がよく似合う人ですよ」
「てめえ……」
崩原がギロリと睨みつけてくる。場を和ませようとした俺の、ちょっとした冗談なのだが、どうも誰も笑ってくれないようだ。
「だ、だったら!」
「けれどあなたや他の信者たちを襲ったであろう『イノチシラズ』は、まったくもって別物です」
「!? ……ど、どういうことよそれ?」
泣いていた信者が問うてきたが、他の者たちも俺の言葉に聞き入っている様子だ。
※【報告】
明日、10月23日に『ショップスキル』の第一巻が発売されます!
【第一回集英社WEB小説大賞】の大賞受賞作品として、WEBとはまた違った設定なども盛り込んであるので、是非手に取って頂けたら嬉しいです!
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