第192話 教団での役目
「……あー何となく分かりますが、詳しく聞いても?」
「つまり鳥本さん、あなたのような我々に必要な能力を有した男性を、粛清対象から外すということです。ただし我々の害になると判断した場合……」
「執行猶予は消されて罰が下るってことですか」
正直、大声で何様のつもりだって叫びたいが……。
「まあ教団のことですし、俺にはあまり関係のないことですね」
「何故です? あなたは我々に手を貸してくれると約束してくださいました」
「俺は誰かに支配されるつもりはありません。俺が結ぶ契約は利害関係。あなた方に力を貸す代わりに、その分見返りを求めます」
「仲間に対価を求めるのですか?」
「勘違いしないで頂きたい。力になるとは言いましたが、奴隷になるなんて言ってませんよ」
「奴隷だなんて……私はそのようなつもりなど……」
「歯向かえば粛清され、教団の利となるためだけに見返りなく働かせる。それのどこが奴隷じゃないんです?」
ブラック企業でもさすがにそこまではやらないだろう。
「住む場所も食べるものだって用立てることができます。それが見返りとなりませんか?」
「いつ殺されるかもしれない恐怖を抱きながら生活する。そんな地獄を経験したあなたが言えるセリフなんですか?」
「っ…………鳥本さんの求める見返りとは何ですか?」
「昨日も言ったように、単純明快。金ですよ。もしくはそれに等しい価値あるもの」
「どうしてそのようなものが必要なのですか? 金銀財宝といえば確かに宝といえるでしょうが、それは平和な時代だった時のことです」
「……俺の薬には、その金銀財宝が必要になるんですよ」
「!? ……あの薬が?」
「ええ。あなたのような普通の人間には理解できないでしょうが、俺には財宝を薬にできる能力があるんですよ」
「……! まさかそれが鳥本さんのスキルということでしょうか?」
「いいえ。俺にはスキルなんてものはありませんよ」
「え?」
「これは俺の一族が元々有している異能ですから」
「異能……ですか?」
「生まれつき備わっている特別な能力。だからスキルなんかじゃありません。ただまあ……普通の人間のカテゴリーには入らないでしょうがね」
「あなたは一体……何者なんですか?」
「鳥本健太郎。それ以上でもそれ以下でもありませんよ。ただそういう力を持つ男とだけ認識してくれれば良いです」
スキルということにしても良かったが、以前福沢家では一族としての力を口にしていたので、せっかくなのでその設定を押してみた。
「財宝を薬にできる能力……信じられませんが、あのような薬が実在するのも確かです。そしてそれは鳥本さんしか持っていない。だから……信じます」
「どうも。ですから俺を利用したければ、相応の対価を用意してください。ならどんな怪我や病だって治してあげますよ。あなたや昨日の子のように、ね」
俺が微笑を浮かべながら言い放つと、しばらく沈黙が流れたのち、僅かに溜息を漏らした小百合さんが口を開く。
「……分かりました。できれば率先して力になって頂きたいところですが、今はその関係で妥協しておくことにしましょう。ですがあなたもいずれは神を信じる者となると信じております」
そんな日は絶対に来ないが、彼女が信じるのは勝手だろう。
「それで? 話は以上ですか?」
「いえ、ここからが本題です」
あ、まだ本題じゃなかったんだな。何となく遠回りな話をしている気もしてたけど。
「現在、ある組織と抗争中なのです」
「組織? もしかしてその戦争に参加しろとでも?」
「いえ、抗争自体はもうすぐ終結します。無論こちらの勝利で」
「では何故そのような話を?」
「勝利は確実なのですが、やはり無傷とはいかないものでした。前線基地では、今も多くの怪我人が存在します」
「なるほど。その者たちを治してほしいということですね?」
今度は当たっていたようで、小百合さんが首肯する。
「しかし抗争ですか、コミュニティ同士がぶつかるなんてのは良くあることでしょうが、ここも例外じゃないんですね」
「物資には限りがありますから。それを巡っての争いは後を絶ちません」
「戦をすることに神様とやらはお嘆きにならないんですかね?」
少し皮肉めいた言い方をしてみた。
「もちろん無暗な争いは望みません。ですが神は、生き抜くため、理念を守るために必要な争いまでは咎めることはされないでしょう」
何とも都合の良い神もいたもんだ。
「これから鳥本さんには、こちらに運ばれてくる怪我人たちを看て頂きたいのです」
「構いませんよ。ただ先程も言ったように……」
「薬作りには財宝が必要になる、ですね。承知しております。幸い宛てもありますし問題ありません。昨日のような貴金属類でも構わないのですよね?」
「ええ。鑑定はこちらでできますので、用立てて頂ければその都度鑑定して査定しますから」
「分かりました。……と、言っている傍から」
耳を澄ませると、この敷地内に車が何台も入ってくる音が聞こえてきた。
「恐らく前線基地から送られてきた怪我人たちが到着したようです。さっそくお願いできますか?」
俺がコクッと頷きを見せると、小百合さんが席を立って出入口の扉を開く。
そこでは言われた通り、青頭巾二人が待機していた。彼女たちの他にも、信者が一人そこにいて、小百合さんを見て恐縮するように頭を下げている。
「教祖様、たった今、朝峰たちが到着したという報せが」
どうやら頭を下げている信者は、ここに報告に来た者のようだ。
「ええ、存じ上げております。今すぐ参りましょう」
「! もしかしてその者も、ですか?」
青頭巾が俺を見て眉をひそめながら聞く。
「重傷者もいるのでしょう? 彼なら彼女たちを必要のない痛みから救うことができるのです」
「し、しかしこの者のことを知らない信者もおりますが」
それは確かに厄介だ。自分たちの巣の中に、見たことも無い男がいたらパニックになるかもしれない。
「私が直々に説明します」
「教祖様が直々に下へ? よろしいのですか?」
「問題ありません。案内をしてください」
「……畏まりました」
恭しく頭を下げた青頭巾たちが先導し、怪我人が運ばれた場所へと向かっていく。
俺も小百合さんの後ろについて歩く。
その間に、一応〝SHOP〟で回復関連のアイテムを複数購入しておいた。
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