第186話 様子見

〝カザ、聞こえるか?〟


〝大将、どうしたでござるかな? こちらは特別変わったことなどないでござるが〟


〝そうか。引き続き周囲の警戒を頼むな。俺はしばらくここで厄介になることにした〟


〝ほほう。何やら面白そうなことになってきたでござるな〟


〝こらカザ! 何が面白いものか! 殿をこのような地下室に閉じ込めおって……! 殿の御命令があれば、すぐにでも奴らを始末するというのに!〟


〝まあまあシキ殿、大将が大丈夫だって言うならよいではござらんか〟


〝しかしな……〟


〝我らの使命は大将の行いを支えること。それに大将のことでござる。何かお考えあってのことでござろう〟


〝むぅ……〟




 やはりシキはどうも堅苦しい。というか真面目過ぎだ。カザのような柔軟性を少しは持ってもらいたい。




〝心配してくれてありがとうな、シキ。けどカザの言うように、何が起こっても結果的に死なない対処はできてるし問題ないぞ〟




 シキたちにも無論 《リスポーンタグ》のことは伝えてある。ただそれでも主である俺が傷つけられたり殺されるのが嫌なのだろう。本当に喜ばしい忠誠心だ。




〝それより大将、これからどうするでござるか?〟


〝どうやらこっちにスキル持ちがいるようでな。そいつのスキルを確認してから立ち去るつもりだ〟


〝ほほう。人間にとは、また珍しいでござるな〟




 そういえばカザには崩原や流堂について教えていなかった。




〝だからとりあえず様子見を続ける。あの凛羽って女と接触する必要があるしな〟




 俺は一応〝SHOP〟を開き、新しく加わったスキルが無いか確かめてみた。




 無い……か。やっぱ接触しただけじゃ手に入れられそうにないな。




 どんなスキルを持っているか俺自身が見極める必要があるのだ。




「にしても小百合さん……大分変わったな。あの人が生きていたことを明人さんが知ると喜ぶだろうが……」




 明人というのは、以前世話になっていた福沢家の長男で、俺を田中家へ連れて行った人物だ。あの人も田中家壊滅の知らせを聞いて酷く落ち込んでいた。




 親友の弥一さんや子供たちはもう戻ってこないが、小百合さんが無事だったことを知れば、きっと喜ぶはずだが、まさか彼女が男性排斥を謳った『乙女新生教』の教祖だと知るとどうなることか。




 ……考えても仕方ない。小百合さんには小百合さんの人生があり、他人がとやかく言うことじゃない。ただもし明人さんに会うことがあったら、一応無事だったということだけは伝えてやろう。




「……そういや資料室、結構デカかったよな」




 ちょっと暇潰しに目を通してみようと思い、扉を開き幾つもの本棚に収められている書物を確認していく。




「へぇ、まるで小さな図書館だな。結構品揃えが豊富だ」




 俺は書物を手に取って、パラパラを捲っていく。




「そういや、お袋も本が好きだったな」




 親父はあまり読書は好きではなかったが、お袋は逆だった。豪放磊落な親父とは違い、物静かで時間があれば本を読んでいたような記憶がある。小さい頃、いろんな本を読み聞かせてもらっていた。




 親父曰く、何でもお袋は良い所のお嬢様だったらしく、駆け落ちして一緒になったのだという。




「まさかあの二人にそんなロマンティックな物語があるなんて思わなかったけどなぁ」




 親父は自分が納得できないことは絶対にしない人だったし、自分がやりたいことは誰に咎められても貫くような豪傑だった。




 多分親父はお袋に惚れて、その想いを貫き通したんだろう。たとえ周りに反対されても、お袋と一緒になることを選んだ。




 お袋も親父と結婚することができて幸せだったはずだ。いつも楽しそうに笑っていたし。




 ただたまに来る手紙を読んでは、少し物寂しそうにしていた気もする。あれはもしかしたら実家から届いた手紙だったのかもしれない。




「ほんと……人に歴史あり、だよな」




 そこへ背後に誰かの気配を感じた。




「――歴史が何よ?」




 振り向くと、そこには俺に噛みついてきた釈迦原桂華が立っていた。


 ただし俺と彼女との間には五メートル以上もの距離が開いている。




「おや、君は……」


「ちょっと、そっからこっちに来ないでよね! 来たら……撃ち抜くから」




 とは言うものの、銃は構えていない。取り上げられたのだろうか?




「何か俺に用かい?」


「用がなけりゃ、アンタなんかと喋りに来ないわよ」




 ま、そりゃそうか。大体彼女が来た理由には想像がつくが……。




「……凛羽」




 釈迦原が声をかけると、本棚の陰から俺が助けた女性が姿を見せる。


 寝ている時も思ったが、結構身長が高い。俺よりも。百八十センチメートルは超えていると思う。




「あ、あのケイちゃん……やっぱりその……わたし……」


「何よ! 凛羽が礼を言いたいって言ったから来たんでしょ! いつまでもウジウジしてない!」




 やはり凛羽関連のことでやってきたらしい。話の流れから、俺に礼を言いに来たらしいが。




「で、でもその…………はぅぅぅぅ」




 何故か凛羽が、俺の顔を見ると真っ赤な顔をして俯く。




「ちょっと、何でそんなに真っ赤になってんのよ! もしかして体調悪いの? 部屋に帰る?」


「うぅ……だ、大丈夫だよぉぉ……」




 まるで姉妹のような関係に見えるが、見た目はまったく似ていない。意外にも釈迦原がお姉さんタイプってことか? ただ姉妹という線もあるかもしれない。




「……もしかして姉妹なのかな?」


「はあ? 違うわよ! アタシと凛羽は幼馴染よ! この子は小さい頃から男が苦手でね、それにアタシの件があったから尚更……って、アタシのことはいいわ」




 凛羽からは釈迦原のような敵意は感じない。元々男が苦手ということと、親友の釈迦原がこの教団にいるから一緒にいるってことなのだろうか?


 ただそれだけじゃなく、釈迦原が過去に経験した件が関わっているようだが……。








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