第185話 地下の個室
「小百合さん、あなたは恩を仇で返すのは神の意思に反する行為だと言った。違いますか?」
「…………」
「都合が悪くなればだんまりですか? 俺は別にあなたたちの行いを咎めるつもりも否定するつもりもありません。男をこの世から排除したいなら、好きなだけ活動してくれればいい」
俺が淡々と彼女たちの行為を認めているような発言をしたのが予想外だったのか、信者たちも「何だコイツ?」的な目で見てくる。
「ただし俺に害を為すなら、全力を賭して抵抗しますよ。こう見えても俺は……強いですからね」
それはスキル持ちである凛羽がいることで説得力が生まれるだろう。
俺から敵意を感じ取ったのか、全員が立ち上がって武器を構える。
だがそこへ小百合さんが錫杖で床を叩き皆の注意を引く。
「ここで争うことは禁じます。それとも敬虔な信者であるあなたたちが、ここを血に染めるおつもりですか? 武器をお下げなさい」
やはり小百合さんは絶対なのか、信者たちが互いに顔を見合わせて渋々武器を下ろす。
「鳥本さん、どうしてもダメですか? あなたがいれば私たちも助かります。それに……こうして再び出会えたことは神のお導きに他なりません。ですからどうか……」
このまま問答無用で立ち去ることもできる。だが少し気になっていることだってある。
それは凛羽のスキルだ。できれば立ち去るにしても、彼女の力をこの目で見ておく必要がある。
殺されたところで保険もかけているし、その時は完全な敵として対応することもできる。
……なら情報収集も兼ねてしばらく様子を見るか。
「……仕方ないですね。ここは小百合さんの顔を立てておくことにしましょう」
「! 本当ですか! ああ……神よ、お導きに感謝致します」
「ですが小百合さん。あなたは俺のことを頼ってくれるようですが、他の方は難しいでしょう? それについてはどうされるおつもりなんです?」
「問題ありません。私が認めた者を傷つけるということは、神の意思に反するということです。そのような者は、ここには存在しません」
いやいや、今も普通に怖い視線をぶつけられているんですがそれは?
月の無い晩にでも暗殺されそうだし。
「お部屋を用意しております。どうぞ私についてきてください」
小百合さんが、青頭巾を伴って移動し始めるので、俺はその後ろについていくことにした。
〝よろしいのですか、殿?〟
〝お前は常に周囲を警戒しててくれ。なぁに、どう転んでも対処できるようにしてある〟
すでに多額の報酬はもらっているし、俺を殺すなら、あとでここを襲撃して金目の物をごっそり頂くだけだ。遠慮しなくて良いからそっちの方が楽だ。
教会を一旦出て、離れにある建物へと向かっていく。結構な規模の敷地で、他にもいろいろ建物がある。
周りを高い外壁で覆っていて、常に武器を持った信者たちが見回りをしているようだ。
建物に入ると、階段を下へと降りていく。
そこは資料室のようになっていて、奥に十畳ほどの部屋が備え付けられていた。
掃除も行き届いており、ベッドやクローゼットなどの家具も充実している。
ただ窓が無いので少々息苦しさを覚えるが。
ま、俺が逃げ出さないように、だろうな。けどここに来る時もそうだったが、ちゃんと電気があるんだな。
恐らくは自家発電システムを利用しているのだろうが。
「どうぞ、ここをお使いください。部屋の外にある資料は好きに利用してください。トイレも資料室にありますから」
「……外出したい時は?」
「階段には常に誰かを配置させていますので、その者に用件を伝えて頂ければ、その都度私が判断しますから」
つまりは小百合さんの許可がなければ空の下には出られないということらしい。
なるほどね。ニケよりはマシかもしれねえけど、こいつは軟禁と一緒だな。
〝殿、やはりここはすぐにでも離脱しましょう。殿をこのような場所に押し込もうとは……!〟
シキから怒りが伝わってくる。俺を第一に慕っている彼からしたら、この扱いに対しとてもじゃないが認められないものなのだろう。
ただ俺は別にこういう場所でも大して思うところはない。
ベッドもあるし資料室を好きに活用できる。元々アウトドアなタイプじゃない俺としては、そこまで嫌いな場所でもなかった。
それに出ようと思えばいつでも出られるし。
「食事は担当者に持って来させます。何かご入用のものがありましたら、お申しつけください」
俺が「分かりました」と言うと、小百合さんが、
「もっとお話したいことがありますが、少々片付けなければならない別件がございますので、また後程」
と言って、部屋から出て行った。
俺は密室状態になった部屋を改めて見回す。
……監視カメラとかあると思ってたんだけどな。
だがそれらしきものは見当たらない。壁や家具も調べてみたが、やはりカメラは発見できなかった。
資料室には存在したので、てっきりここも四六時中監視するつもりだと決めつけていたが、そこまではしないようだ。
「少々ツメが甘いな。俺だったら間違いなく監視するんだがな」
何せ女所帯の中でたった一人の男だ。しかも全員が嫌っている。いや、殺したいと思っているのだ。
そんな相手を監視しないなんて俺だったら考えられない。
そして恐らく俺のような考えを持つ女は多かっただろう。しかし小百合さんが監視を禁じた。
「やっぱ小百合さんはまだ……」
俺はある考えが浮かんだが、すぐに頭を振って「ま、どうでもいいことか」とベッドに腰かけた。
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