第184話 問答無用の治療

「い、今のは……鳥本さん?」


「ああ、気になさらないでください。俺にも少々特別な力があるだけですから」


「もしかしてあなたも神に選ばれた……いえ、もしや……」


「ところでそろそろ依頼を完了したいのですが? その子、死んでしまいますよ?」




 せっかく助けてやると決めた以上は、死なれては寝覚めが悪い。




「! お、お願いします!」


「ならコレを――」




 俺は《ボックス》に予め収納していた《エリクシル・ミニ》を取り出し、小百合さんに手渡した。


 小百合さんは「感謝します」と口にすると、すぐに青頭巾たちに手伝うように指示をする。




 青頭巾たちが、凛羽の上半身を起こす。そして小百合さんが、凛羽の口に《エリクシル・ミニ》を注ぎ込む。




「けほっ、けほっ」


「ああダメ。飲んでくれません!」




 おろおろし始める小百合さんと信者たち。




「はぁ、なら少々強引ですが口移しでもすればいいじゃないですか」


「で、ですが私たちは皆、神に身を捧げています。同性だからといってそのような不浄なことは……」




 この人、自分に子供がいたことを忘れてんじゃねえの?




 何だか役に入り込んでしまっている女優に見えてきたわ。




「早くしないと手遅れになってしまいますよ?」


「ああ、どうしましょう……!」




 ……イラ……ッ。




 これだけの人数がいて、助けたい者が目の前にいるというのに、いつまでも小さなことにこだわってんじゃねえぞコイツら!




「そこのあなた、あなたが小百合さんに代わってしてください!」




 俺が青頭巾に向けて言うが、小百合さんと同じように動揺を見せているだけで動いてくれない。


コイツらマジか……!




 その間にも、目の前に横たわる女性は苦しそうに咳き込んでいる。




「ああもう、文句は聞きませんからね!」


「な、何を!」




 俺は小百合さんから《エリクシル・ミニ》を奪い取ると、自分の口に含み、そして自分の口を凛羽のモノと重ね合わせた。


 その状況に息を飲み絶句している様子が広がっているが、そんなこと気にせずに俺は続ける。




 コクコク……とか細い喉を鳴らす音が聞こえてくる。




 そして凛羽から口を離すと、彼女の身体が淡く発光し始め、切断された部位から肉体が再生していく。




「「「「おおぉ~!」」」」




 普通では有り得ないその光景を見て、信者たちが揃って驚嘆の声を上げる。


 すべての怪我が完治したあと、凛羽が閉じていた瞼を震わせ、ゆっくりと上げていく。




「! ……凛羽?」


「……ぁ……さ……小百合……様?」


「ああ、良かった!」




 小百合さんが無事復活した凛羽を強く抱きしめる。


 その光景に信者たちも何故か拍手で参加して喜びを露わにしていた。




 どうやら仲間意識だけは本当に強いようだ。なら口移しぐらいしてやれよとも思うが。


 コイツらにとっては、それだけ規律というものが大事だってことだろうか。




「わ、わたしは……?」


「あなたは任務の途中でモンスターに襲われたんです。覚えていませんか?」


「……! ケイちゃんは……? 釈迦原桂華は無事ですか!?」


「安心してください。あの子はあなたのお蔭で無事に帰って来ていますから」


「そう……ですか。……あれ? でもわたし……どうして……? 腕と足が……治ってる?」




 自分の腕と足が大怪我を負ったことは知っているらしい。だったら当然驚愕するだろう。何せ失ったはずのものが復元され、痛みすら感じないのだから。




「この方があなたを治してくれたのですよ」


「この方って……! お、男の人……っ!?」




 俺を見て明らかに怯えを見せる凛羽。ただ感じるのは怯えのみだ。他の信者や釈迦原のような敵意や殺意は感じられない。




「大丈夫ですよ。この方は『再生師』と言って、あなたの腕と足を再生してくれたんです」


「再生……師? わたしの腕と足を……この人が?」




 どうやって? というような表情をするが、小百合さんは少し気まずそうだ。


 まあ治療とはいえ、男に触れられただけでなく、口移しされたなんて簡単に言えないだろう。




「あなたと同じような力を俺も持っているということですよ」


「! あなたも……スキルを?」


「そう捉えて頂いて結構ですよ」




 嘘じゃないし、治療に関してはこれ以上突っ込まれないようにしておこう。




「では小百合さん、俺はこのへんで」




 踵を返して教会から出て行こうとしたが、目の前に青頭巾たちが立ち塞がる。




「……さて、もう俺に用はないと思われますがね? どういうことでしょうか、小百合さん?」




 彼女たちが動くのは、すべて小百合さんの指示だと判断し、彼女に視線を向けた。


 すると小百合さんは、真剣な面持ちで静かに口を開く。




「やはりあなたは男でありながら神に選ばれし者でしたね」


「やれやれ、また神……ですか」


「これほどのお力をお持ちなのですから当然です。鳥本さん、どうか今後も私どもの力になっては頂けませんか」




 なるほど。最初から俺を懐に収めるつもりだったか。


 まあ致命傷や不治の病ですら一瞬で治す手段を持っているのだから、当然誰だって手に入れたがると思うが。




「断ればどうされますか?」


「あなたは男です。それで理解されるはずです」




 つまりは容赦なく殺す、と。




 俺はボリボリを頭をかきながら溜息を漏らす。




〝殿、どうされますか? この者たちを始末することもできますが?〟


〝そうだな。せっかく助けた命もあるが、俺を殺そうとするのであれば容赦はしない。だが少し待ってくれ〟




 俺はシキに待機命令を出すと、再び小百合さんとの対話を始める。






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