第183話 またもスキル持ち
「凜羽はアタシを庇ったせいで……!」
青頭巾がまた注意しようとするが、小百合さんが視線だけを青頭巾に向けて押し留めた。
「凜羽は何か嫌な予感がするからさっさと出ようって言ってた。けどアタシは大丈夫だって……それでダンジョン化して……」
言葉を絞り出し、その最中に涙を流す釈迦原。傍にいる信者がそっと彼女の肩を抱いて慰めている。そしてそのまま教会から彼女を連れ出していく。
「彼女も決して悪い子じゃないんです。根はとても素直で優しい子」
男を問答無用で殺そうとしてるみたいだけどな。ま、男が俺にとって王坂だと思うと、その気持ちも理解できるが。
「自分のせいで友人が傷ついて瀕死の状態に陥ってしまった。それからずっとこの子のために何かをしなければと焦って……」
だからずっと気が立っている状態だとのこと。普段はあれほど感情的な子ではないという。
「にしてもこの傷でよくもまあ半月も生き永らえましたね」
普通なら三日もつかどうか。だって病院に行ってないのだから。
「それは……少々この子は特別な力を持っていまして、身体がとても丈夫なのです」
「特別な力?」
「……そうですね。もしかしたら鳥本さんならご存じかもしれません」
そして次に小百合さんから発せられた言葉に目を丸くしてしまった。
「スキル――という力をご存じですか?」
「! ……スキル、ですか?」
まさかここでその言葉を聞くことになるとは……。
これまで地球人では崩原才斗、流堂刃一、そして十時まひなの三人だけだった。少なくとも俺が会ってきた連中の中では。
まあこれだけの人数を集めてるんだ。スキル持ちがいてもおかしくはなかったが。
「その反応、やはりご存じなんですね」
しまったな。ついつい予想外の言葉に反応を顔に出してしまった。
「まあ……旅をしているといろいろな人と出会いますからね」
「この凜羽には、そのスキルという力が宿っており、そのお蔭か常人よりも身体が丈夫らしいのです」
確かに、崩原や流堂は、特に身体能力が高かった。
俺もスキルを持つ以前の俺と比べても、明らかに身体は頑丈になったし五感も鋭くなったと思う。
しかしそれだけでは、高ランクのモンスター相手ではどうしようもない。
この女がスキル持ちか。できれば今すぐに《鑑定鏡》で調べてみたいな。
それでまた〝SHOP〟で購入できるスキルが増える。
「つまりその恩恵のお蔭で、これまで耐えてこられたと」
「ええ。ですがそろそろ限界のようで。この子は神に選ばれた子です。失うわけにはいきません」
「だったらなおさら病院に行くべきだったのでは? 探せば女医だって捕まえられたでしょうに」
「……これだけの傷です。治療するにも技術が必要になります」
そりゃ大きな手術を施すことになるだろう。
「しかし現在、病院には患者が溢れていて、この子のような傷を負った者たちも多く、医者を選り好みできる状態ではありませんでした」
なるほど。男の医者だろうが女の医者だろうが、病院では手の空いた者たちから次々と新しい患者に当たっていく。
男が嫌だから女医にしてくれなどというワガママを聞いてはくれないだろう。少なくとも今の環境では。
「しかし命がかかってるんです。そこは男で我慢した方が良かったのでは? 死ぬよりかはマシでしょう」
「ここにいる者たちは、男の手にかかるくらいなら、このまま死にたいと口にするのです」
「この子がそう言ったと?」
「…………」
いや、言ってないのかよ。
……はぁ。どうもここにいる連中は、気の毒になるほど極端過ぎの傾向にあるようだ。
俺だって命がかかってたら王坂に……いや、アイツに助けられるくらいなら俺も死ぬか。あ、コイツらの気持ちが分かるわ。
「だったら俺が治しても良いんですかね……」
「あなたの場合は、この子に触れるわけではないでしょう?」
「それはまあ……」
何せ薬を渡すだけだし。
「だからこそあなたを探したのです。あなたならば、男でもこの子を治せる術を持っているはずだからと」
「ずいぶんとまあ買ってくれてるようですね。こんな怪し気な旅人のことを」
「ふふ、それはもう。何故ならあなたは絶望に打ちひしがれていた私を救って頂いた方なのですから」
その時、小百合さんが心から笑っていることに気づく。それまでどんよりと濁っていた瞳が、確かな光を宿していたからだ。
この人……もしかして……。
ある考えが浮かんだが、すぐに小百合さんの瞳から光が消失する。
「ですからどうか、この子をお救いください」
「……言ったでしょう。対価さえ払って頂ければ、それがどんな傷だろうが病だろうが完璧に治してみせますよ。それが『再生師』ですから」
するとそこへ先程青頭巾に言われて出て行った者たちが戻ってきた。
その手には黒いアタッシュケースのようなものを持っている。
そして俺の前でアタッシュケースを開いて見せた。
……へぇ。
思わず目を見開くことになったが、そこには指輪やネックレスなど、高価そうなアクセサリーが幾つも収納されていた。
「……鑑定しても?」
俺が尋ねると、「はい、どうぞ」と小百合さんから許可をもらったので、《鑑定鏡》を取り出し、さながら鑑定士のようにアクセサリーを手に取り確認し始める。
……本物のようだな。
しかも思った通り、かなりの価値があるアクセサリー類だ。
これなら十分に《エリクシル・ミニ》の購入価格を上回る。
「……いいでしょう。ではこれらは頂いても構いませんか?」
「どうぞ持っていってください」
「……ならありがたく」
アタッシュケースごと差し出されたので、それを受け取り《ボックス》に入れる。
すると突然消えたアタッシュケースを見て、全員がギョッとした。
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