第180話 教祖との対面
俺が何をしたと思わないでもないが、それでも彼女たちを責めるつもりもなかったりする。
何故なら、もし俺の考える通りならば、彼女たちの気持ちも少しは分かるからだ。
俺もまた信頼していた者たちや、期待していた者たちに裏切られた経験がある。
昨日まで仲良く話していた者たちが、こぞって掌を返してきたのだ。無視は当たり前、酷いのは悪の親玉と一緒になって俺を害してきたことである。
普通なら間違いなくトラウマものだ。実際にこのせいで、俺は人間に期待することは止めた。信頼ではなく一方的に利用することを覚えた。
これに当て嵌めれば、関係のない人間たちもまた「自分たちは何もしていないのに」と揃って口にすることだろう。
まあ、他の人間も王坂のように殺してやろうとまで俺は突出していないが。
人間不信ではあるが、圧倒的な殺意が芽生えることはなかった。
こればかりは俺の性格によるものか、はたまたそこまで酷い裏切りじゃなかったのか。
中には俺みたいに裏切られて、すべての人間を殺してやろうって思う奴もいるかもしれない。ただ実際にそんなことは不可能ではあるが。
そしてコイツらはすべての男に対して嫌悪感や殺意を持ち、この世から排除しようとしている。
さすがにそれは不可能だ。ダンジョン化のせいで大分人口は減ったといっても、それでも何十億とまだ男はいるだろう。
コイツらがどれだけいるといっても、すべての女性を懐に収めているわけじゃないだろうし、間違いなく男を絶滅させることはできない。
それこそ男だけにしか効果のない殺人ウィルスでもバラ撒かれなければ不可能である。
……そうだよな。多くの地球人がこれまで死んだと思うが、それを補うかのように次々と異世界人が現れてきてる。
不意にそんなことを思う。仮に地球人の誰もが死ななくて、地球と異世界が融合し一つとなった時のことを考える。
惑星としての大きさが変化しなかったとして、明らかに人口のキャパオーバーが発生するだろう。
異世界人が何人いるのか分からないが、百万や二百万どころではないのは確かだ。
数十億を超える人口が、一気に地球に増えたとしたらどうなるだろうか?
恐らくは住む土地を巡っての戦争が勃発する。食料事情だって困窮し、地球環境だって悪化していくことだろう。
そうなれば世界そのものが終焉を迎えてしまいかねない。
もし誰かの意図で地球と異世界を融合しようとしているならば、地球人を減らし、その分を異世界人で補うという手法を取った可能性が高い。
……いや、さすがに考え過ぎか。
俺は空想めいた考えを破棄する。
そこまでいけば、まるで神の所業だ。そんな大それたことを地球人や異世界人ができるとは思えない。
神、もしくは神の如き力を持つ存在でなければ。
そこへ車が停止し、降りるように言われる。
ようやく外が見えると思い降りてみて、ここがどういった場所かを知る。
目の前には大きな教会が存在感を示していた。
……なるほど。ここがコイツらの拠点ってわけだ。
青頭巾についてくるように言われ、そのまま目の前にある教会へと入って行く。
中はどこか厳かで神聖な空気に包まれていて、ここにいるだけで身が清められるような感覚を得る。
教会なんて初めて来るな。
写真などで見たことがあるように、綺麗に設置された長椅子が左右にずらりとある。その間には赤い絨毯が敷き詰められ突き当たりまで伸びていた。
そして突き当たりには祭壇が置かれ、その上には見るも鮮やかなステンドグラスがこちらを見下ろしている。
今までミサでも行っていたのかと思うほど、椅子には大勢の女性が座っていて、両手を組み祈りを捧げていた。
そんな女性たちを見つめている、祭壇の前に立つ人物に視線が向く。
その人物は全身を純白に包んでいて、奇妙な白い面で顔まで覆っている。また右手には錫杖のようなものを握り、首からは十字架を下げていた。
……アイツが教祖か?
面の人物が俺たちに気づいたようで、錫杖で床を突き、シャリンシャリンと小気味良い音が響かせると、祈りを捧げていた者たちが揃って顔を上げた。
静寂が支配する中、面の人物から「さあ、こちらへ」という声が発せられる。
……ん? 今の声……どこかで……。
面のせいでくぐもった声音ではあったが、何となく聞き覚えがあるような声だと感じた。
また青頭巾が先導し、俺は真っ赤な道をゆっくりと進んでいく。
椅子に座っている者たちも、やはり全員が悪感情を持った眼差しをぶつけてくる。
どうもかなりの勢力みたいだな。女だらけということもあって圧倒される。
女子学校に単身乗り込んだ気分だろうか。喜ぶ奴もいるかもしれないが、これだけの女子の視線に晒されると居たたまれなくなる。
祭壇へと近づいていくと、青頭巾に立ち止まるように言われる。
すると左側からも同じ青頭巾を有する女性が現れ、二人で面の人物の左右に控えた。
俺と面の人物との間は五メートルほどだろうか。これも俺が何かしようとすれば、対処できる距離ということだろう。
「――よく来てくださいましたね」
そこへ面の人物から俺に向けて発言された。
……やっぱこの声、どっかで聞いたことあるな。
聞く度に確信を得ていくが、一体誰の声だったのかすぐには思い出せない。ということはそれほど会話をした相手ではないとは思うのだが……。
俺が若干顔をしかめていると、くすっと面の奥から笑い声が漏れたことに気づく。
そして――。
「やはりこのままではお気づきになりませんか――鳥本さん」
その言葉は、やはり知人に対してのものだった。
すると面の人物が、そっとその白面を顔から取り除いた。
「――っ!? あ、あなたは――」
俺はそこに立っていた人物の正体を知ることとなった。
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