第176話 ギアの存在

「フ、フクロウ? いや、ソニックオウルか? 何でこんなとこに?」


「知ってるのか、ゼーヴ?」


「ああ。大人しいモンスターだ。けどちょっと毛色が違う感じだが……」




 ソルはレベルアップして進化しているので、少し見た目が一般的のソニックオウルとは違うのは当然だ。


 するとソルが、翼を広げアッチへ行けという指示を出す。




「……もしかして向こうに行けって言ってるのか?」




 ゼーヴがそう尋ねると、ソルはコクコクと頷く。




「は? いやだが兵に見つかったら……」


「いや、さっき上で声が聞こえた。まさかおめえさんが兵をどうにかしちまったのか?」




 またもゼーヴの言葉にソルが頷く。




「ありがてえ。おいジュラフ、今のうちなら逃げられそうだぜ」


「おいおい、モンスターを信じるのか?」


「違えよ。俺の耳を信じろ」


「! ……はぁ。見つかったら酒を驕らせるからな」


「そん時は樽一杯ご馳走してやらぁ」




 二人は立ち上がり、一応周りを警戒しながらではあるが、そのまま山から下りていった。


 その後姿を見ていたソルから、無事に二人を離脱させた報告を聞く。




 俺はソルに「よくやった」と言って、そのまま都市の監視を続けるように指示を出した。


 ソルに命じて、外壁の兵士たちを無力化させたのは当然俺である。




 ゼーヴには、ハクメンがこの都市に入る時に世話になったし、ドラギアと対面している時も説明の後押しをしてもらった。


 軽い借りではあるが、一応返しておこうと、ソルに動いてもらったのだ。




 しかしここまで。あとはゼーヴとジュラフに任せる。彼らが今後、どのような動きするのか知らないが、あとは俺の知ったことではないから。




「にしてもいろいろ収穫はあったな」




 モニターを切って、俺はベッドの上で仰向けになる。




「あのヴォダラという輩、確かに只者ではありませぬな」


「で、ござるな。しかし拙者は、その後ろに控えていた者が気になったでござるが」




 シキもカザが、それぞれ感想を述べた。シキの言う通り、ヴォダラはまだ実力を隠している、あれだけの力を持っているのだ。追い詰められても逃げ遂せたはずだ。




 あるいは最初から逃亡が目的だったのかもしれない。奴がその気なら防衛くらいはできたような気がしたからだ。




 それとカザの気になるローブの人物。アレが本当に『呪導師』だとするなら、どういった存在なのかモニター越しじゃ分からなかった。


 本当にただそこに佇んでいるだけの存在だったからだ。




 そしてもう一つ、ヴォダラが求めていた地下遺跡に眠る宝。




 アイツが《ギア》を欲していたのは明らか。わざわざ逃亡したにもかかわらず、ここへ戻ってきて手に入れようとしたのだから、やはり重要なものであることは確か。




「けどできればヴォダラみてえな厄介者は、こっちの世界には来ないでほしかったけどな」




 異世界でずっと王様を気取ってもらいたかった。当然関わり合いになりたくない存在だし。


 だが奴が欲している《ギア》を俺が所持していることがバレたら、確実に目を付けられてしまう。




 こっちに来なかったということは、《ギア》がどこにあるか正確な位置は掴めないようなので安心かもしれない。




 それとも今のうちにこの《ギア》を地下遺跡に戻しておいた方が良いだろうか……?




 ただ捨てるくらいなら売りたい。ヴォダラほどの人物が求めるほどの代物なのだ。きっと高値で売れるはず。


 今は売れないようになっているが、何とかして売る方法があるかもしれないのだ。




 《ショップ》スキルは、時間とともにアップデートしてできることが増えている。もう少し待てば、《ギア》を売ることだってできるようになるかもしれない。




 そうでなくとも、《ギア》がどういったものなのか、鑑定できる商品が出てくる可能性だってある。




 ……もう少しだけ待ってみるか。




 幸いヴォダラは俺が《ギア》を持っていることは知らないし、この場所だってそう簡単に見つけられはしないだろう。


 ならこの時間を利用して、いろいろ対策を練っておけば良い。




 俺は今後の方策を決めるために、イズたちを集めて話し合うことにしたのであった。








     ※








「――よし、できたぞ! アイカ、確認願いたい!」




 やり切ったという表情を浮かべながら、座っていた椅子から立ち上がるのはニケくんだ。その両手には一冊の本――日本語の書き取りテキストがあった。




 そんなニケくんに近づいて、テキストを受け取って確認し始めるお姉ちゃん。




「……ん、凄いわニケくん! ミスが一つもないじゃない!」




 お姉ちゃんに褒められたニケくんは、嬉しそうに笑っている。


 現在、わたしとお姉ちゃんは、絶海の孤島と呼べる場所に住んでいた。




 ここにわたしたちを連れて来た坊地くんによると、日本の南西に位置する海の上らしい。


 わたしが坊地くんの力になりたいと言ったことから始まった、この孤島生活。




 意外にも快適で、気候も穏やかだし、自給自足ができる環境も整っているし、何よりもモンスターに悩まされることがないので、安心して妹のまひなも遊ばせておくことができる。




 まあそれでも、完全にモンスターがやってこないとも限らないようなので、ニケくんお付きのメイドさんがいつも気を配ってくれているが。




 このニケくんと、彼のお姉さんのノアリアさん。そしてラジエというお爺ちゃんだが、三人とも異世界出身で、特にニケくんとノアリアさんは身分が非常に高いという話を聞いた。




 そのため最初はわたしもお姉ちゃんも、ニケ様やノアリア様と呼んでいたが、この世界において身分など意味はなく、それに今は日本語を教えてくれる先生ということで、気軽に呼んでほしいと言われたので、ニケくんやノアリアさんと呼ぶようになった。




 毎日二、三時間程度ではあるが、こうしてニケくんたちが住んでいる屋敷で、日本語の勉強を行っているのだ。




「わたくしもできましたわ。コイネさん、ご確認お願い致します」




 座って勉強していても絵になるほど美しいノアリアさんが、ニケくんと同じようにわたしにテキストを見せてきた。






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