第173話 災害の登場
「へっ……やなこった。むざむざと殺されるわけにはいかねえんだよ」
「……ここで逃げれば、本当に賊扱いとされてしまうぞ?」
「おいおい、オウザ。俺のこの姿を見ろよ。もう十分賊認定されちまってんだよ」
「王は別にお前を殺すつもりなどないはずだ」
「ふざけてんのか? 俺の拷問担当官はあのグリベアだったんだぜ?」
「!? ……まさか」
「信じれねえかもしれねえけどよぉ、王は……あの人は俺を殺すつもりだった」
「っ……そんなバカなことがあるはず……」
それまで威風堂々とした佇まいであったオウザだったが、明らかに動揺を見せる。ドラギアが、ゼーヴを殺そうとしていたことなど微塵も信じていなかったようだ。
「ちっ、んなこたどうだっていいんだよ! ゼーヴ、てめえはもう敵なんだろ? だったら……殺られても文句ねえよな?」
「お前にそんなことできるのか? あんまデケエことは言わねえ方が良いぜ、泣き虫猿」
「っ!? ……上等だぁ」
タンヴはすでにやる気満々のようで、殺気に満ち満ちた顔つきを浮かべている。
「待てタンヴ、殺す必要はない」
「はあ? アイツはもう賊なんだぞ! いや、俺らを裏切ったただのクズだ!」
「それでも何かしらの情報を持っている可能性がある以上は捕縛が優先だ。あくまでも最終決定権は王にある」
「けっ、んなこと知るかよ! これは千載一遇のチャンスなんだ! このおれっちの方が、あんな色ボケ狼より優れてるってことを証明してやる!」
タンヴがゼーヴに飛び掛かろうとしたその時だった。
その場にいる者たち全員が、顔色を変えたのである。
「な、何だこの気配は!?」
タンヴも、殺気を引っ込め戸惑いの色が強い。
「この気配……いや、まさか……しかし……っ」
オウザは勘づいているようだが、他の者たちも同様に周りをキョロキョロとして、何かを探すように視線を動かしている。
「……どうしたってんだ?」
俺はモニター越しなので、彼らが何を感じているかは分からない。
〝ご主人! 聞こえるですか、ご主人!〟
〝ソルか! どうした? 何があった?〟
〝実は宮殿……いいえ、都市の下から得体の知れないオーラを感じるです!〟
〝オーラ? どういうことだ?〟
〝分かりませんです。ただ……とても嫌な……怖い感じがするです〟
ソルが怖がるなんて余程だ。一体何が起きているのだろうか?
都市の下には地下通路が広がっていたはず。そこには地下遺跡があることも確認している。
だが実際に俺が行った時には、そんな嫌な気配なんてしなかった。
〝ご主人! 宮殿の正門近くから何かが……!〟
俺はモニターを切り替える。事前にソルに《カメラマーカー》を、宮殿の敷地内のあちこちに設置してもらっていたのだ。
つまりは監視カメラ状態になっている。
「……これは!?」
正門に近い場所の光景をモニターが映し出す。
すると正門の頭上に、黒い渦のようなものが出現していたのだ。
そこへ渦に気づいた他の者たちが集まって来る。ゼーヴやオウザたちもだ。
そして宮殿からドラギアまで姿を見せる。ドラギアは脱獄したゼーヴの姿を見て険しい顔つきを浮かべるが、すぐに渦へと焦点を合わせ、
「この禍々しいまでのオーラ……! まさかとは思ったが……」
オウザ同様に渦の正体に気づいているような言葉を発した。
皆が見守る中、渦の中からズズズズズ……と、二人の人物が姿を現す。
一人は素顔すら分からない、ローブで全身を覆い隠した人物だ。男か女かも分からない。そんな人物の前にいるのが、血のように真っ赤な外套を着用した鷹のように鋭い目をした男。
その二人を見て、その場にいる者たち全員が息を飲んだ。
「やはり……やはり貴様だったか――――ヴォダラッ!」
ドラギアの叫び。
それを受け、空に浮かぶ男が「ククク」と低く唸るように喉を鳴らすと、まるで懐かしむような目で眼下に広がる宮殿を見回すと口を開く。
「何やらずいぶんと様変わりしたものだな。植物のペイントか? これは貴様の趣味かな、ドラギア?」
「ヴォダラ……よくもここへ顔を出せたものだな」
どうやらあの男が、帝国を裏で牛耳っていた宰相のヴォダラで間違いないらしい。
ということは、一緒にいるローブの人物こそ『呪導師』なのだろうか?
「……嫌な目をしてやがんな」
俺は奴の目を見て思い当たることがあった。
ヴォダラのあの目は、王坂や流堂と同じ。
自分が世界の中心であり支配者だと勘違いし、すべての者を見下しているそんな堕ちた瞳。
俺がこの世で最も嫌いな目である。
するとそこへ、一瞬の隙を突くようにタンヴがヴォダラの背後に飛んだ。
「――死にやがれっ!」
タンヴにしてみれば、油断を突いたつもりなのだろう。
しかし――ズゥゥゥゥゥンッ!
突如タンヴが、頭上から何かに押さえつけられるかのように真っ直ぐ地上へ落下して、そのまま地面に激突してしまう。
「うがはぁっ!?」
誰もが目を丸くする。何故ならヴォダラや『呪導師』らしき人物も、身動き一つしていなかったのだ。
それなのに明らかに攻撃を受けてしまっている。
しかもタンヴだが、まだ意識があるというのに起き上がる素振りを見せない。必死で立ち上がろうとしているが、身体が言うことを聞いていないような感じだ。
「ふん、他愛も無い。しょせんは猿よ」
俺はそこで見た。ヴォダラの右手の中指に嵌められた黒い指輪だけが鈍く輝いているのを。
直後、タンヴの身体がさらに地面に押し付けられたようになり、タンヴごと地面が沈み込んでクレーターを生み出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます