第167話 ゼーヴ、捕縛

「じゃあニケ殿下をハクメンが奪取したってか? 何のために? 『ガーブル』だぜ?」


「それが気になる点だな。商人とはいえ『ガーブル』。普通はドラギア側に立っていておかしくない存在だ。しかし奴が引き起こしたと仮定すると、ドラギアの意思とは明らかに反する」




 そりゃそうだ。ドラギア王は帝国の血を根絶やしにするつもりだ。いや、帝国だけじゃない。すべての『ヒュロン』を、この帝都から排除すると豪語している。




 また戦争の火種になりかねないニケ殿下を、いつまでもドラギア王が幽閉しているわけもない。恐らくだが近いうちに公開処刑でもしていたはずだ。その矢先の奪還劇。




「ハクメンが何者かの命令に従って動いていたとしたら、ゼーヴ、お前は何者だと思う?」


「そうは言ってもなぁ。ニケ殿下を欲してる奴なんて、先代……というかヴォダラの息がかかった奴らくらいじゃねえの?」


「ふむ。今更奴が帝王の血を欲するとは思えないが……」




 すると突然、扉がノックも無しに勢いよく開く。




 そこからゾロゾロと『ガーブル』の兵士たちが入ってくる。




「お、おい! 何だ何だいきなり!?」




 俺は兵士たちに囲まれ、しかも武器も突きつけられている。




 そして扉から現れたのは、ドラギア王の側近でもあるヨーセンだった。




「ゼーヴ、抵抗せずに大人しく我々に従ってもらおう」


「! ……おうこらヨーセン、一体何のつもりだ? 冗談でもタチ悪いぜ?」


「身分を弁えたらどうだ、冒険者? 私は王代行として任務を全うしているのだ」


「王……代行だと? じゃあ何か? これはドラギア王が命じたってわけか? 理由は?」


「貴様にはニケ殿下拉致事件の容疑がかけられている」


「な、何だと!? 俺がニケ殿下を攫ったってのか!」




 あまりにも突拍子もない容疑に唖然としていると、




「少し待って頂きたい、ヨーセン殿」




 ジュラフが間に割って入ってきた。




「何かな、ジュラフ殿?」


「何故彼にそのような容疑がかけられてる?」


「そこの男がハクメンと繋がっているからだ」


「は? ゼーヴがハクメンと? ……まさかニケ殿下を拉致したのがハクメンだとでも?」


「こちらはそのように考えている。ただし無論ハクメン一人ではないがな。そこの冒険者と……ラジエ卿も容疑者だ」


「ラジエ卿までも!?」




 ジュラフが声を荒らげた。無理もない。またも予想だにしない名前が挙がったのだからだ。




「……ほう、お主は知らぬのか? ラジエ卿はニケ殿下をお生みになったシュラン様の元教育係だ」




 俺はそんな繋がりがあったのかと驚いたが、思ったよりジュラフは驚いていない。




「おいジュラフ、まさかお前……知ってたのか?」


「……まあな」




 やはりシュランって人とジュラフの間には、強い繋がりがあったように思えてならない。




「ふむ。やはり貴殿も怪しいなジュラフ殿。しかし今は、貴殿よりそこの冒険者だ。素直にお縄についてもらおう」


「はあ? ふざけんじゃねえぞ? ドラギア王に直接問い質す! そこをどきやがれ!」


「抵抗すれば実力行使も許可すると言われている」


「上等じゃねえか! おめえらみてえな連中が、俺の自由を奪えると思ったら大間違いだぜ!」


「ふっ、武器も無しに粋がるでないわ、冒険者風情が」




 確かに今、ここには俺の愛剣はないが、そんなものなくとも兵士ごとき一掃することなんてわけはない。




 ヨーセンは冒険者を嫌っているようだが、冒険者は毎日毎日モンスターと命をかけて戦う猛者だ。舐めてもらっちゃ困る。




「……よせ、ゼーヴ」


「!? 何で止めんだよ、ジュラフ!」


「お前は何も悪くないのだろ? ならすぐに容疑だって晴れる。俺もドラギア王に直談判するつもりだ。だがここで暴れたら、むしろお前が犯人の一人だって認めているようなものだぞ」


「……!」


「安心しろ。すぐに助け出してやる」


「っ…………わーったよ」




 俺は身構えを解き、両手を上にする。




 すると兵士たちが背後から襲い掛かり、俺を床に組み伏せた。




「乱暴なことをするな! ゼーヴは大人しくしているだろうがっ!」


「こちらは臆病でしてな。これでも温情をかけているつもりだ」




 どこが温情だ。ったく、痛えなぁ。




 けど我慢する。きっとジュラフが何とかしてくれると信じているからだ。




 いつも厄介事が舞い込んできた時、ジュラフが相棒として俺を導いてくれていた。だから今度も絶対に大丈夫だという信頼感がある。




 俺は「頼んだぜ」と言うと、ジュラフもまた力強く頷きを見せてくれた。


 そうして俺は兵士たちに連れられ、地下の牢獄にぶち込まれてしまったのである。








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