第159話 再びの十時家
十時の自宅へと向かっていた際、《ジェットブック》から街を見下ろしていると、奇妙な光景を目にした。
それはガラの悪そうな男二人が、血相を変えて全力疾走している光景だ。
しかしその先は袋小路になっていて、男たちは壁に挟まれた状態で戸惑っていた。
そこへ驚くことにわらわらと何人もの女たちが、男の前に現れ完全に逃げ場を塞いだのである。
……何してやがんだ?
男たちの顔を見れば怯えているように見える。しかも女たちは、全員物騒な武器を手にしていた。
すると女たちが一斉に男たちへ突っ込み、躊躇なくその武器を振るったのである。
なっ……!?
致命傷を負ったのか、ぐったりとしている男たちを、わざわざ四つん這いの状態にさせると、あろうことか斧を持った女性が、男たちの首を落としたのである。
その光景は、まるで処刑そのもの。
あまりにも凄惨過ぎる行為に、思わず俺は言葉を失ってしまった。
幸いイオルは気づいていない様子。あんなものを子供には見せたくはない。
女たちは惨殺した男たちを放置して、ゾロゾロと同じ方向へ歩いて去って行く。
……何なんだアイツら? あの男たちに恨みでもあったってわけか?
見た目が小悪党な感じだったし、殺されても不思議じゃないことでもしたのだろうか……?
すると視線を少し伸ばした先に、また同じように男が一人、女たちに囲まれて処刑されている光景が視界に飛び込んできた。
今度の男は普通のサラリーマン風の中年男性ってところだった。そんなどこにでもいるような人物を、十人以上で取り囲んで殺害したのだ。
しばらくこの街に来なかった間に一体何が起こってやがんだ?
そこそこの期間、地方にいる異世界人たちとの商売に力を入れていて、元々商売していた街とはご無沙汰だったのだ。
「む? マスター、ずっと下ばかり見ているが、何かあったのか?」
「ん? ああいや、何でもねえよ」
ヨーフェルが声をかけてきたが、俺は軽く手を振って言う。何だか分からないが、ああいう連中には関わらない方が良いと判断したからだ。
そうして十時の自宅が見えてくると、目に見えてイオルがワクワクしているのが分かる。
余程まひなのことを気に入っているようだ。
ただ留守の可能性もないことはないので、そこを心配していたが……。
「――いーちゃんだぁ!」
十時家の庭に降り立つと、タイミング良くまひなと十時が花壇の手入れをしていたところで、イオルの存在に気づいたまひなが、嬉しそうに駆け寄ってきた。
ギュッと互いに抱きしめ合い再会を喜ぶ小さな二人。
「……いらっしゃい、坊地くん」
「……いきなり悪い。イオルがまーちゃんに会いたがってな」
十時もまた頬を緩めて俺たちを歓迎してくれた。
「ううん、坊地くんたちならいつでも大歓迎だよ! 良かったら中に入って!」
すでにイオルは、まひなに手を引かれ家の中へ入っている。
俺は十時に「ああ」と返事をして迎え入れてもらった。
リビングに通されると、キッチンから顔を見せた十時の姉である愛香と対面する。
「あら、まひなが騒がしいと思ったら坊地くんが来てたのね! ちょうど良かったわ。今紅茶を淹れたところだったのよ」
「あ、お構いなく。それと十時、これ」
一応世話になる代わりに、まひなが喜ぶような菓子類や缶詰などの食料を入れた袋を渡した。
「わぁ、いいのもらっても?」
「問題ない」
「うん、ありがと坊地くん! ねえお姉ちゃん、ほら見て!」
「まあ、悪いわね坊地くん。ありがたく頂いておくわ」
どうやら手土産には問題なかったようだ。
「ねえねえ、それなぁに?」
「ん? ほぉら、お兄ちゃんがまひなの好きなプリンを持ってきてくれたわよ」
「ほんとぉ! たべたいたべたぁい!」
「こーら、その前にちゃんとお礼を言わないといけないでしょ?」
十時の姉にそう言われ、まひながハッとなって俺のもとへ駆け寄ってきた。
「おにいちゃん! ありあとー!」
「ああ、たくさんあるからいっぱい食べな」
頭を撫でながら言ってやると、「うん! いーちゃんといっしょにたべう!」と言って、十時の姉のからプリンが入った器を受け取り、イオルと一緒に食べ始めた。
「あのプリン、市販品じゃないよね? もしかして誰かの手作り?」
「あ? 俺が作った」
「坊地くんが作ったの!?」
唖然とした様子で俺を見つめてくる十時。
「何だよ、そんなに意外か?」
「……料理できるんだね、坊地くん」
「ずっと一人暮らしだったしな。自然と自炊も上手くなる」
「わ、私もプリン頂いていい?」
「好きにしてくれ」
十時は姉からプリンを受け取って一口食べる。
すると衝撃を受けたような表情を浮かべ、プルプルと身体を震わせる。
「お、美味しい…………私が作るよりも……うぅ」
何だかショックを受けている様子だが、姉が「放っておいていいわよ」と言うので、それに従い放置してソファへと座らせてもらった。
イオルを見ると、まひなと仲良くプリンを食べさせ合っている。まるで小さな恋人たちのようだ。見ていてほんわかするほど微笑ましい。
ヨーフェルも楽しそうな弟を見て嬉しそうに頬を緩めている。
十時の姉が、「どうぞ」と紅茶を淹れてくれたので「すみません」と言って頂く。
そしてヨーフェルもまた、
「ドウモ、アリガトウ」
片言だが、確かに日本語で礼を言った。
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