第155話 新たな使い魔・カザ

「おぉ~! あなた様が大将でござるな! 拙者を『使い魔』として召喚してくれるとはお目が高いでござるよ! 粉骨砕身! 全身全霊でお仕えするでござるっ!」


「お、おう……」




 何だか熱い奴が来てくれたもんだ。まあ『使い魔』の忠誠心は、今更疑うつもりはないので、どんな奴だろうと受け入れるつもりだが。




「これ、殿の御前だぞ。それに今は宵の刻。少しは静かにするがよい」


「む? おぉ、もしやお主も大将に仕えるサムライだな!」


「サ、サムライ? いや、それがしはどちらかというと忍なのだが」


「ほほう。つまりは草の者というわけか。拙者は誇り高きサムライでござる。これからよろしく頼むでござるな!」




 三本の腕をシキに向けて差し出すが、どの腕を取って握手すればいいかシキは悩んでいる様子だ。




「おほんっ、ちょっといいか?」


「おっと、これは失礼したでござるな大将」


「まあ別にいい。一応確認しておく。お前はAランクのカブトザムライでいいんだな?」


「無論! 拙者は大将の守り刀。大将の前に立ち塞がるすべての敵を斬り裂く所存でござるよ。ワッハッハ!」




 本当に明るい奴。……こういう奴も新鮮で良いかもな。




 今までいなかったタイプでもあるし、こういう性格なら他の連中とも仲良くやれるだろう。




「お前の名を――カザと名付ける」


「おぉ! さっそく名を与えてくださるとは、恐悦至極でござるよ!」


「良かったな、カザよ。それがしはシキ。殿の護衛役として、ともに精進していこうぞ」


「無論! 拙者たち二人がいれば、大将は天下人の道へまっしぐらでござるよ! ワッハッハ!」




 二人が握手を交わし、互いに笑みを合わせている。


 どうやら似た者同士気が合ったようだ。




 ただカザ、俺は別に天下人になるつもりねえからな。
















 ――翌日。




 新たに『使い魔』となったカザを紹介するために、モンスター含め、島にいる者全員を集めて紹介した。




 誰もが彼を歓迎してくれて、特に他の『使い魔』たちは、護衛役として俺の命を守ってくれる存在が増えたことを喜んでくれた。


 そんな中、目を光らせていたのはソルとヨーフェルである。




「ぷぅ~! カザと戦ってみたいのですぅ!」


「いやカザ殿、是非とも私とお手合わせを願いたい!」


「ほほう、ソル氏とヨーフェル氏でござったな。よかろう、お相手仕る!」




 確かにカザの実力を知ることができる良い機会だ。俺は彼女たちに許可を出し、模擬戦を行うことにした。




 しかしどちらを先に戦わせるか……。




 そう迷っていた時、驚くことをカザが言ってきた。




「二人同時で問題ござらぬよ」


「「!?」」




 さすがにその言葉にはムッときたのか、ソルとヨーフェルの闘士が燃え上がった。


 あれからずいぶんと、ソルもヨーフェルも実力を上げてきている。これまでの戦闘経験は伊達ではない。




 いくらAランクといえども、二人同時というのはさすがに無理だと思うが……。


 しかしカザは不敵な笑みを崩そうとはしない。


 対してソルたちは絶対に勝ってやるといったオーラを迸らせている。




「……分かった。じゃあ両者、一度離れろ」




 俺が立会人となり、両者が一定の距離を保つ。




 邪魔にならないところで、野次馬たちが観戦している。何となくブラックオーガも混ざりたいような雰囲気だが、この島……バトル気質の奴多過ぎじゃね?




「それでは――始めっ!」




 俺の合図と同時に、さっそくソルが、そのスピードを活かして、すぐさまカザの背後へと回って隙を突く。そのまま彼に向かって弾丸体当たりを食らわせようとするが……。




 ――キィィィンッ!




 驚いたことに、カザは身動き一つしなかった。




 ソルの動きを見切れなかったわけではない。確かに彼はソルの気配に気づいていた素振りを見せたからだ。その上で敢えて回避行動をしなかったのである。




 そしてソルの突撃をまともに背中から受けたのだが、まるで鋼同士がぶつかったような音が響いただけで、ソルの攻撃はカザの表情を痛みで歪めることすら叶わなかった。




「あいにく、拙者の身体が鋼鉄のごとき故」


「ぷぅっ!? ならこれで!」




 出た。ソルの十八番、火炎放射。


 しかしそれでもカザは一歩たりともその場を動きはしない。




 当然炎は彼を包み込んでしまい、モンスターたちにどよめきが走る。


 だが炎の中から現れたのは、まったくの無傷のカザであった。




「ワハハ、なかなか心地好い温度でござるなぁ」


「そ、そんなぁっ!?」




 さすがのソルも、火傷一つ追わせられなかったことにショックを受けているようだ。


 だがそこへ、今度はカザの死角から矢が放たれてきた。




「む?」




 僅かに身体を逸らし、飛んできた矢を回避してみせた。




「ふむ。良い腕でござる。それにその弓矢……かなりの業物と見たでござる」




 耐久性もさることながら、見極めも凄まじいものを持っている。


 カザは一目見て、この矢は避けるべき能力を有する代物だと見抜いたのだ。




 ヨーフェルに与えた《幻蒼弓》は、Sランクに対してもダメージを与えられる強度を持っている。故にさすがのカザも、まともに受けることはできなかったのだろう。


 しかしその見極めを目の当たりにしたヨーフェルの額から汗が流れる。




 恐らく油断を突けると思っていたからだろう。相手は自分たちを過小評価している。だから目に物を見せてやると攻撃したに違いない。


 なのにカザは確実に回避してみせた。余裕を持って、だ。




 それが意味しているのは、カザは正確にヨーフェルたちの実力を分析できているということ。そしてその上で、二人同時に相手しても問題ないと言った。


 つまりはそれだけの実力差があることに相違ならない。








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