第154話 スキルか使い魔か
イオルに特別報酬を与えた日の夜。
俺は改めてニケ救出作戦で得た報酬を確認していた。
ほとんどが武具やアーティファクトであり、一体どれをそのまま《ボックス》に保管し、どれを売却して金に換えるが考えていたのだ。
「う~む、コレとコレは効果的に被ってるから売るだろ。それにこの武器も俺は使えねえから売る。あ、これはシキにでも装備させるか? こっちはソルに与えるのもいいな」
こんな感じで選別していき、不意にあるモノに視線を置く。
「問題はコレ……だよなぁ」
ソレは初見で確認してからずっと気になっていた代物だった。
一見して、顔ほどの大きさのルービックキューブみたいな形をした物体である。ただ色合いは白と黒の二色。
何かのアーティファクトだと思っていたが、不思議なのは《ボックス》に入れても説明が出ないこと、〝SHOP〟に売ってないこと、また売却できないという異常性だ。
この世のどんなものでも、《ボックス》さえ入れてしまえば売却することができた。たとえその価値が0円でも。つまりそこらに落ちている石や小枝なども売れてしまう。
しかしコレだけは《ボックス》には入れられるが、その価値や用途何もかもが不明だったのだ。
「一体こいつは何なんだろうな? 宝物庫にあったってことは、ヴォダルが保管していたものってことで、それなりの価値があると思うんだが」
それに売却できないというのは一体どういうことなのか分からない。また今回獲得したものも、すべて〝SHOP〟に売られているが、コレだけは存在しないのだ。
「検索をかけても引っかからねえ。どうしたもんか……」
普通に燃えないゴミに出してやろうかと思うが、どうも手放さない方が良いような気もする。こればかりは勘でしかないが。
「名前は――《ギア》か」
一体どんな使用目的があって、ヴォダラが懐に収めていたのか分からない。
一応イズにも聞いてみたが、彼女も知らないとのことだった。もちろんソルたちにも確かめたが、全員同じ意見だったのである。
「ま、訳分からんが、一応保管しておくか。さて、これで大分換金もできたしOKだな。ククク、マジで今回の依頼は実入りがデカかったわ」
報酬は二百億以上。
そのうち換金したものを上乗せして、現在の残高は――125憶。
マジで凄くね? もう一生遊んで暮らせるし。
しかも億の価値を持つアーティファクトやら武具などもたんまり手に入った。これで戦力も大きくアップすることができたのである。
「これだけの金があれば、使いようによっちゃSランクのモンスターに襲われても撃退することだってできる」
Sランクの『使い魔』を購入してもいいし、対抗できるような武具を購入してもいい。またスキルを買い漁って取得し、俺の生存率を高めてもいい。
ああくそ、何をすればいいのか選択があり過ぎて困るぜ!
思わず緩む頬。こんな嬉しい悩みならいくらでも大歓迎だ。
「スキルか、《使い魔》か、武器か……マジでどうすっかなぁ」
「殿、何やら悩まれているご様子ですが?」
影からぬぅ~っと出てきたシキが言葉をかけてくる。
「……お、そっか。シキをレベルアップさせるって手もあるよなぁ」
「は?」
「ああいや、こっちの話だ。けどなぁ……」
シキは現在Aランク。レベルアップさせるには、《レベルアップリンⅢ》が必要になる。しかしこれが百億もするのだ。たった一度で一気に資産が飛んでしまう。
その見返りは十分に期待できるのだろうが、やはり少し躊躇する。
ああ、いかんな。これが大金を突然手にした奴の臆病さだ。せっかく手に入れたものを手放すことに恐怖を抱いてしまい、ちょっとでも消費することが嫌になる。これではまともな購入ができなくなるのだ。
「そうだなぁ……手数を増やすのもあり……か?」
「手数? もしやまた新たな『使い魔』を?」
「おう。ヨーフェルやイオルが加入して戦力アップはしたが、戦闘に特化した『使い魔』はソルとシキくらいだからな」
それだとこの先、もしかしたら手が回らなくなってくる可能性が高い。世界の変貌速度が上がったように、それに合わせてこちらも『使い魔』の戦力も上げておいた方が良いかもしれない。
「となると、Aランクか……Sランクか?」
「Sランクを購入されるのですか!? お言葉ですが、Sランクのほとんどは巨大生物といっても過言ではありません。常に控えさせるのは難しいのでは?」
「そうなんだよなぁ。売られてるSランクの『使い魔』を確認してるけど、どれも俺が住んでる家よりもでけえんだよ」
しかも最低限がそれだ。大きいものでは、前に見たクラウドホエールのような規格外の巨躯を誇っている。さすがにアレを護衛としていつも傍に置いておくのはちょっと……な。
だからシキをSランクにするという案が一番平和的かもしれない。体格はそう変わらないだろうし、最強クラスの護衛を手にできることもなるし。
ただそれだとやはり護衛の数は増えない。ソルは戦闘より情報収集に回すことの方が多いし、できればシキのような身近に置いておけるような護衛がほしい。
「となるとやっぱAランクが手頃かねぇ」
俺はAランクモンスターのリストに目を通していく。
見た目も大事だが、能力がやはり肝になってくるだろう。
「……よし、コイツにするか」
「もう決定されたのですか?」
「ああ、多分コイツならシキとも連携が取れると思うしな」
「それは楽しみですな」
さっそく俺は、普通じゃ考えられない9億という金を注ぎ込んでAランクモンスターを購入した。
そして《ボックス》から取り出すと、そいつは目の前に現れる。
藤色の和服を纏い、腰には左右それぞれ三本ずつ刀を携えており、人のように見えるが、六本の腕に頭部から伸び出ている角のようなもの。明らかに人間ではない。
そいつは俺を見ると、嬉しそうに破顔した。
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