第152話 特別報酬の話

「そいつの名は――《地指揮棒ちしきぼう》」


「ちしき……棒? 知識棒? もしかして何かしらの知識を授けてくれる力を持つのか?」


「知識じゃねえよ。大地の地が頭についた指揮棒のことだ」


「地……指揮棒」


「その先端を大地に向けてみな」


「う、うむ! ……お?」


「どうされたのですかな、ニケ様?」




 ニケが大地を見て目を丸くしたことが気になったようで、ラジエが尋ねた。他の者たちも同様に説明が欲しそうに見ている。




「今、お前の目にはマス目に区切られた大地が映ってるはずだ」


「……う、うむ。確かにそのように映っておる」


「そのマス目の一つに意識を集中させ、先端を合わせてみろ」




 ニケが恐らく言われた通りにしたのだろう。また「お!」と変化を見たような顔をした。




「先端を向けた部分が赤くなったのが分かるか?」


「うむ! 赤くなっておる!」


「よし。じゃあ今度は、赤くなっている部分が盛り上がるイメージをしながら棒を上げろ」


「――えいっ!」




 ニケが、素早く《地指揮棒》を上に持ち上げた直後、ニケの視線の先にある地面の一部が四角柱の形で天高く盛り上がったのである。




「「「「おお~!」」」」




 それを見ていた者たちは、一様に奇妙に盛り上がった地面を見上げながら声を上げた。




「こ、これを余がしたのか?」


「そうだ。その《地指揮棒》は、大地を操ることができる」


「大地を……」


「今のは一つのマス目を意識したが、複数のマス目を同時に操作することもできる。とはいっても、こればかりは要練習にはなるけどな」




 この《地指揮棒》、持つ者が使おうとすると、まず大地にマス目状の線が入っているように見えるのだ。




 そして棒の先端をマス目の一部に向けて意識をすると赤く光る。それが操れる合図のようなものだ。


 そのまま先端をスライドさせていくと、赤く光る部分を増やすことが可能になり、同時に操れる範囲を広げられる。




 あとはイメージだ。今みたいに突然隆起させることもできるし、逆に沈下させることだって可能だ。




 また大地の状態を泥や固い岩盤のようなものへと変化させることだってできる。つまり操作次第で、如何様にも扱えることができる便利な代物なのだ。 




 ただこのアーティファクト、扱う者を選ぶようで、コントロールが非常に難しい。俺も何度か使ってみたが、どうも俺には合わないのか、上手く使いこなすことができなかった。




 この練習に時間を費やせば、いずれ使いこなせるようになるだろうが、その時間がもったいないし、それなら他にもまだ有効なアーティファクトもあるので断念したのだ。




 幸い今の様子だと、ニケには結構合っている様子だし、練習時間も十分あるだろう。使いこなせば、自分の身も他人も守ることができるようになるし、今の彼にはピッタリの武器であろう。




「どうだ? 使いこなすには修練が必要になるが……お前がその気なら、それを売ってやってもいいぞ?」


「買う! 買ってもよいな、ラジエ!」


「え、ええ。ニケ様がお選びになられるのでしたら、儂には是非もありませぬよ」


「やったー!」




 嬉しそうに《地指揮棒》を握りしめながら飛び跳ねるニケ。こういうところは年相応に思える。




「さっそく練習してくる! ボーチ、感謝するぞ!」


「あっ、お待ちくださいニケ様ぁ!」


「そうですよぉ~!」




 トリアとアリシアが、喜び勇んで走り去って行くニケのあとを追っていく。どうやら彼女たちが護衛として傍についているようだ。




 ノアリアも、そんな弟の姿を微笑ましそうに見つめながら、傍にダエスタとキリエを控え、ゆっくりとニケを追っていった。




「本当に良かったのか? あのアーティファクト、結構な際物じゃと思うたがのう」


「まあ、な。けど……アイツの気持ちも分かるには分かるしな」




 守られてばかりなんて嫌だ。強くなりたい。そんなこと、男なら当然思うことだしな。




「それに……ちゃんと代金は支払ってもらうし」




 そう言いながら、右の手の平を上に向けてラジエに差し出す。




「……やれやれ、出費が激しいのう」




 俺はラジエからちゃんと対価を受け取り、今はもうここで俺のすることがなくなったので、ソルたちを連れて【幸芽島】へと戻ったのであった。
















 自宅に戻ってきた俺たちだが、俺以外の全員が熱い眼差しで俺を見つめていた。




「……えと、何だ? 一体お前ら……どうしたんだよ急に?」




 何でそんな物欲しそうな目つきをしているのか……。




「ぷぅ~! ご主人、忘れちゃダメなのですぅ!」


「そうですな。こればかりは気になって夜も眠れまいし」




 ソルに続けて、シキまでもが……。




「その通りですわ。まあ誰が選ばれるかなど最初から決まっているようなものですけれどね」


「む……自信満々だなイズ殿。しかし私は唯一敵を撃退しているしな」


「それをいうなら、ボクだって。いっぱいのひと……とじこめた」




 イズ、ヨーフェル、そしてイオルも負けじと言葉を尽くしてくる。




「えと……マジで何のことを言ってんだ?」


「「「「特別報酬ですっ!」」」」




 全員が口を揃えて言った。




「……! あ、ああ……なるほどな」




 そういやそんな話をした覚えがあった。すっかり忘れてたけど。


 確か今回のニケ救出作戦にて、最も活躍した者には特別報酬を与えると言っておいたのだ。








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