第151話 力を求める者
「ボーチ! 今少しいいであろうか?」
「ん? 何か用か?」
「うむ……その……」
「男だろ。ハッキリとしろ」
「わ、分かっておる! じ、実はな……余はボーチのように強くなりたいのだ!」
「……は?」
「そなたがタンヴの攻撃をものともしなかったことは知っておる!」
「……タンヴ?」
「現在の『四天闘獣士』の一人じゃ。話に聞くと交戦したと聞いたぞ。ほれ、猿人がおったじゃろ?」
「……ああ、あの猿野郎か」
確かにニケを奪取して塔から出た直後に襲われた。
「あの時のボーチの動きは見事だった! 余もそなたのような強き者になりたい!」
「……その理由は?」
「…………もう無力に嘆くのは嫌なのだ」
両拳を振るわせて唇を噛み締めるニケ。
自分だけが何も知らず、知りたくとも力無くできなかった。
「もう誰も失いたくないのだ。……母上のように」
そうか。そうだったな。コイツは母親と離れ離れにさせられ、いつか会えると信じていたが、結局その想いは叶わなかった。
もし自分に力があったら、母親を救い出すことだってできたやもしれない。
すべて後になって知り、ただただ後悔するしかなかったのだ。
「お前はまあ九歳のガキだ。守ってもらって当然だろ?」
「そう……かもしれぬ。しかし余は……ラジエもノアリア姉さんも……この島にいる者たちを失いたくない! いずれまた災いが近づいて来るやもしれぬ! その時に、また守ってもらうだけの存在でいたくない! できるならば余も皆とともに戦いたいのだ!」
その時、ニケから得も言われぬオーラを感じた。
これはドラギア王と対面した時にも感じたもの。そして俺がハクメンとして異世界人たちを前にする時に身に着けるもの。
――覇気、か。
こんな幼くとも、やはり帝王の血筋というわけだろう。
あのノアリアでさえも僅かしか持ち得ない覇気を、まだ九歳の時点ですでにここまで……。
もしコイツが帝王として即位していたならば、きっと稀代の王になったのではと思わせるほどの才覚だ。
俺だけでなく、ラジエや、近づいてきたノアリアたちも気づいたのか、ニケを見て息を飲んでいる。
「……ニケ」
「何だ、ボーチ?」
「強さにもいろいろある。いくら剣を振るおうが、弓を撃とうが、今のお前じゃできることもたかが知れてる。それでもお前は武力を求めるのか?」
「武力……」
「鍛えたとしても、やはりものになるまでには時間がかかるし、鍛え上げた兵士には及ばないだろう」
「それは……そうかもしれぬな」
身体も育ちきっていない子供なのだから仕方ない。『ガーブル』のように生まれつき身体能力が高ければ話は違うだろうが、彼は俺と同じ人間――『ヒュロン』なのだ。
確かにそれでもファンタジーアイテムに頼れば、身体能力だって引き上げるくらいはできるが、この小さい身体にもリスクはある。
大きな力は、より大きな反動となって返ってくるからだ。
俺はそこそこ身体が出来上がっていることもあり、まだ反動には耐えられているが、コイツではそれも難しいだろう。
「強くなりたいなら、今のお前に見合った力を身に着けることを覚えろ」
「今の……余?」
「そうだ。誰だって無力なのは嫌だ。理不尽に奪われるのも、不条理に泣くのも勘弁だ。俺もかつて、お前みたいに自分の力の無さを嘆いたことがある」
「!? ボーチも……なのか?」
「ああ。けど運が良いことに、俺にはスキルという力があった。そのお蔭で、多少は強くなれたと思う」
多少どころではないと思うが、まあそれは良いとしよう。
「しかし余にはスキルなど……ない」
「ならばそれに取って代わるような力を身に着ければ良い」
「スキルに代わる力……?」
「ああ。『ヒュロン』ってのは、元々スキルや『ガーブル』に対抗するためにあるものを作り出した種族だって聞いたぞ」
「……! アーティファクトだな!」
イズ曰く、この見解は少し違うようだがな。
実際は古代アーティファクトを掘り当てた『ヒュロン』が、研究に研究を重ねて模倣したことから始まったとされているらしい。
まあ現代アーティファクトを創り出したという意味では間違いないだろうが。
「も、もしかしてボーチはアーティファクトもたくさん所持しておるのか!?」
「こちとら商人なんでね。客の求めるものは出来る限り提示できるつもりだ」
「……な、ならば今の余に相応しいアーティファクトを見繕ってほしい!」
とはいっても少々悩みどころではあるな。
今のニケに、単純に攻撃力の高いアーティファクトを与えたとことで、それを使いこなすのは難しい。やはり威力の高いものは、相応に反動があるからだ。
俺がたまに使用する《爆裂銃》でも、その反動でニケの身体が弾かれると思うし、一発撃つ度にそれでは情けない。まあ切り札にはできるかもしれないが。
それよりもニケは大切な誰かを守りたいという意思が強い。
ということは……。
「なら――コレなんてどうだ?」
俺は《ボックス》からあるモノを取り出し、ニケに渡す。
実はコレ、俺も何度か使ってみたことがあった代物だ。
「……棒?」
ニケの見解通り、間違いなく一本の棒だ。ただし先端に小さな青い球体がついた、長さ三十センチメートルほどの、魔法使いが持つ杖のような造形をしている。
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