第149話 莫大な報酬

「――は? 金貨だけでいい?」




 俺が用意した孤島にて、無事ニケとラジエたちが再会することができた。報酬などの話は、皆で休息を取った後でということで、朝を迎えてから行うことにしたのだ。




 そしてこれまた俺が用意した朝食を皆で食べ終わった直後、ラジエとノアリアから予想だににしないことを告げられたのである。




 それは此度の報酬で、宝物庫にあった財産のうち金貨以外を俺に対価として渡すというものだった。




「うむ。ノアリア様たちと話し合いそう決めたのだ」


「……爺さん、俺は別にそれでいいが、本当にいいのか? あとで返せって言っても無理だぞ?」


「最早我々には過ぎた財宝でもあるしのう。それに元々金貨だって半分程度を運べれば良いと思っていたんじゃ。それがお主のお蔭ですべてを得られる。これ以上ないほどの収穫じゃて」


「……爺さん、あんたなら金貨よりも価値の高いものがたくさんあるってことは分かってんだろ?」


「まあのう。財宝には様々なアーティファクトがあった。じゃがボーチよ、お主が用意してくれた安住の地にて、それらが必要とは思えんのじゃ。たとえモンスターが現れたとて、我らには優秀な護衛もおるしのう」




 メイドたちのことだろう。




「じゃあマジでいらねえってことだな?」


「うむ、持って行くがよい」




 これは嬉し過ぎる誤算だった。




 てっきり財宝の四分の一、あるいはもう少し下かと思っていたが、まさか三分の二以上もの価値がある財宝を手にできるとは。




 まあ金貨だけでも百億の価値はあるし、確かにこれから生きていくには問題ない。物資だって俺を利用すれば十分な資産だろうし。


 無意識に緩みそうになる頬。誰もいなければ大声で喜んでいるだろう。




 何せ一気に二百億の収入なのだ。とはいってもすべてを換金するわけじゃない。


 その多くはアーティファクトであり、所持していた方が何かと便利なものだってあるので、そこは今後を考え選別して換金する必要がある。




 それでも十分過ぎる対価を得ることができたのは明らかだ。




「して、これからじゃが、さっそくお主に頼みたいことがあるんじゃがのう」


「食料や医療品などの生活必需品だろ?」


「その通りじゃ。用立てることはできるかのう?」


「俺に用意できねえもんはねえよ。対価さえ払ってくれれば、欲しいものを何でも与えてやるぞ」


「ほっほっほ。本当にお主の力は儂の想像を超えておるわい。エルフやモンスターを従え、多くのアーティファクトも持ち、このように島まで簡単に用意し、敵地のど真ん中に突っ込んでも無傷で戻って来る。……一体幾つのスキルを持ってることやら」


「何言ってんだ? 俺にはたった一つのスキルしかねえぞ?」


「…………! 嘘は言うておらんのう。しかしだとしたら信じられん。一体どんなスキルを……いや、詮索は無用じゃな。お主は我らを救ってくれた恩人じゃ。改めて言うておきたい。本当に感謝しておる」




 ラジエが頭を下げてくる。




「あのな、礼はもういいって言ったろ。それに俺はメリットがあるからあんたと手を組んだだけだ。そしてあんたはちゃんと対価を払ってくれた。商売相手として信用できるし、今後も繋がりを得ておきたいと考えてる」




 百億を持っているお得意様だ。大事にしておきたいしな。




「そう言ってくれると助かるわい。ではさっそく商談といこうかのう」




 俺はラジエから、今後必要になる生活必需品のリストと、それにかかる費用について話し合った。




 さすがに相手は商人ということもあって、物の価値をこちらの都合の良いように跳ね上げることはできなかった。




 こういうところは本当に厄介なところだが、ラジエたちには十分に稼がせてもらったこともあり、こちらも幾分かは妥協したのである。とはいっても適正価格で販売したということだが。




 ただラジエたちは、家作りなどのサバイバル経験が無いと思われたが、アリシアやトリアは元々森の中に住んでいた狩猟民族だったらしく、そういう知識も豊富だった。


 故に道具さえあれば、あとは皆で力を合わせて何とかなるということらしい。




 それでもまともに大工仕事などができるのはメイドたちだけということもあって、ちゃんとした家が建てられるのも時間がかかる。


 そこでやはり家は俺から購入することを決めたようだ。




 幸い金は十分にあるので、全員で住むことができるそれなりの大きな家が欲しいと提案してきた。


 豪邸にもいろいろあるが、そこまで大勢で暮らすわけではないということから、最低限の広さを持つ家を購入したのである。




 とはいっても、一応元王族と大臣の居住地ということで、五億を費やしてかなりの豪邸を無人島に建てたのであった。




 本来土地代が高いのだが、ここは彼らが購入した土地でもあるので、建物だけの値段で購入することができるのだ。




 家というよりは、もう立派な屋敷であるが、異世界に住んでいた彼らにとっては馴染み深い造形の建物である。


 食糧庫には、俺から購入した大量の食材を詰め、他にも衣料品や衣類などもすべて揃う。




「ここが、これから余たちの第二の人生が始まるのだな」




 屋敷を見上げながら、ニケが感慨深そうに言葉を吐く。




「それにしてもボーチ様には本当に驚かされます。まさかこのような屋敷まで一瞬で建ててしまうなんて」


「ノアリア様の言う通りだな。貴様は本当に人間か」


「失礼な奴だな。そういうスキルを持ってるっていうことで納得しといてくれ」




 ただ俺がダエスタの立場なら、きっと同じような考えを持っただろうが。




「まあまあ、いいじゃないですかぁ。あたしとしては、宮殿も良かったですけど、こういうお屋敷でノアリア様たちのお世話をするのは楽しみですよぉ」


「そうですね。アリシアの言う通り、ここが私たちの新たな職場ですから、粉骨砕身、ご奉仕させて頂きます」




 アリシアもトリアも気に入ってくれたようだ。










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