第146話 メイドたち

「無理をせず、もう少しお休みになられては?」


「本当にもう大丈夫です。私が眠っていたのはどれくらいですか?」


「それほど時間は経っておりません。2、30分程度ですし」




 ダエスタはいまだ心配そうな表情だ。無理もない。気丈に振る舞っているノアリアだが、確かに顔色があまり良くないのも確かだからだ。




 ……これじゃ、ラジエが来てもしっかり対話できるかどうか不安だな。……仕方ねえ。




「……えと、そこのあんた?」


「へ? わ、私ですか?」




 俺は近くにいるメイドに声をかけた。




「コイツを姫さんに飲ませてやれ」




 俺は誰にもバレないように《ボックス》から取り出した瓶をテーブルの上に置く。




「……これは何でしょうか?」


「《世界樹のエキス》だ」


「へぇ、世界樹の……せ、《世界樹のエキス》ゥゥゥッ!?」




 目を丸くして大声を張り上げたメイド。当然その様子にギョッとした周りの者たちが、こちらに意識を向けてくる。




「いきなり叫ぶとは何事だ、トリア!」




 真っ先に注意をしたのはダエスタだ。




「あ、す、すみませんダエスタさん! で、でもこれ……」


「ん? その瓶がどうしたというのだ?」


「その……ボーチ様がノアリア様にと」


「は? ボーチ、どういうことだ?」


「姫さんは疲れてんだろ? だったらコイツを飲めばすぐに良くなる」


「……いや、さすがに得体の知れないものをノアリア様のお口に入れるわけがないだろうが」


「あ、あのダエスタさん?」


「む? どうしたトリア?」


「そのですね……ボーチ様が仰るには、これは……《世界樹のエキス》だと」


「……え? は? せ、《世界樹のエキス》って、あの《世界樹のエキス》か?」


「らしいんですけど……」


「バカな。《世界樹のエキス》といえば市場にも滅多に出回らない薬だぞ? かの《エリクシル》には劣るものの、万能薬とも称されるほどの代物だ。オークションでは1000万の値がつくこともあるというのに」




 え? マジで? これ……200万なんだけどなぁ。




「言っておくけど本物だぞ」


「し、信じられない! それに毒の可能性だってある!」




 コイツ……まだ俺がノアリアを害するとでも思っているのか?




「なら試しに誰かが一口飲んでみればいいだろ?」


「あ、はーい! じゃああたし! あたしが飲んでみたいでーす!」




 もう一人のメイドが楽しそうに目を輝かせながら立候補した。




「アリシア? 危険かもしれないのだぞ?」


「えー、多分大丈夫ですよぉ」


「何でそう言い切れる?」


「う~んとぉ…………女の勘?」




 アリシアはどこか天然な感じだが、まさか解答も曖昧なものだった。


 そのため問い質したダエスタはガクッと肩を落とす。




「それにぃ、もしこれが本物なら、ラッキーですもん! ほら、《世界樹のエキス》って、若返りの効果もあるっていうじゃないですかぁ」


「……お前はまだ若いだろうが」




 確かに二十歳くらいなので、そこまで歳を気にする必要もないように思える。




「もう、ダエスタ先輩は分かってませんねぇ。女は何歳になっても若く見られたいものですよぉ。ってことで、頂きますねー」


「あ、おいこら!」




 ダエスタの制止を無視し、アリシアと呼ばれたメイドは瓶を手に取り、その蓋を開けてグビッと飲んだ。




「…………んぐっ!? けほっ、けほっ、けほっ!」




 アリシアが急に咳き込み始めた。




「やはり毒か! だから言ったのだ! すぐに吐け、アリシア!」


「あ、い、いいえ! ダイジョブ……です……けほ。ちょっと勢いよく飲み過ぎて気管に入っちゃっただけなのでぇ」




 一瞬俺も焦ったぞ。マジでそのままダエスタに斬りかかられると思ってしまった。




 するとアリシアの身体から淡い発光現象が起きる。




「ん? おおー! 何かすっごく元気が湧いてきましたぁ!」


「……本当なのか、アリシア?」


「はい! それにほら、ここ最近の睡眠不足で荒れていたお肌がこ~んなにツルツルに!?」


「え、嘘、本当? ちょっと私にも見せてくださいアリシアさん」




 アリシアが自分の顔を見せつけるようにしていると、興味を持ったのかトリアが彼女に近づいていく。




「……本当ね。まるで赤ちゃんのような肌だわ。こんなにプニプニで張りがあるなんて」


「えへへ~。それにどことなくおっぱいも膨らんだような!」




 何故かノアリアが、「えっ!?」と、胸を張るアリシアの慎ましやかな部分を凝視する。




「……いや、さすがに豊胸の効果はないぞ」


「ええっ!?」


「……何だ……」




 アリシアは俺の言葉に驚愕し、ノアリアはどこか残念そうな声音を漏らした。




 どちらかというとスレンダーなアリシアとノアリア。やはり胸を大きくしたいということなのだろうか?




「うぅ……ボーチ様!」




 いきなり涙目でアリシアが詰め寄ってきたので、思わず後ずさりしながら「な、何だ?」と聞いてしまった。




「おっぱいを大きくする薬とか売ってないんですかぁ?」


「もうアリシアさん、いきなり失礼ですよ? それにそんな都合の良い薬はないと思いますけど」


「トリアの言う通りだ。というより別に胸など気にせずともよいだろ?」


「そうですよねぇ。大きければすぐに肩が凝りますし、普段の生活でも邪魔になったりしますから」




 豊満なボディを持つダエスタとトリアの巨乳あるある。それを聞きながら、ノアリアとアリシア二人が悔しそうにプルプルと震えている。






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