第138話 四天闘獣士
「!? あんた……ここには多くの『ヒュロン』がいるんだぞ? 他国の代表者だって、民間人だって!」
「それが災いの種となるなら摘み取るだけだ」
「マジで……言ってんのか? それはただの虐殺だぞ?」
「無論だ。『ヒュロン』を生かせば、またこの帝国のような存在が……ヴォダラのような奴が生まれ出る。帝国の血は根絶やしにする。帝国に縋った者たちもすべてだ!」
「帝国の血……! 軟禁してるニケ王子も殺すつもりなのか? まだ九歳のガキだぜ?」
「それが『ガーブル』の平和のためなら、ワシは鬼にだってなろう」
「ドラギア王……っ」
二人がまさに一触即発しそうなその時だった。
突然扉がノックされ、
「ドラギア王っ! 至急お伝えしたいことがございますっ!」
何者かの緊迫した声が、室内へと届いた。
「ええい、何事だ!」
「失礼致します!」という声が響き、扉が開きドラギアの部下が現れた。
「報告します! 現在、この宮殿に襲撃をかけている者がございます!」
「「何っ!?」」
さすがに黙っていられなかったのか、ゼーヴも一緒に声を上げてしまった。
「……! ドラギア王っ、窓が!」
ゼーヴが窓を見るように促す。
すると窓の下から、何かが覆うように伸びてきて外の景色を奪ってしまった。
「い、一体何が起きているというのだ? 襲撃を受けておると言っておったな?」
「はっ、ただいま宮殿全部が、謎の植物によって覆われ扉や窓といった脱出口を塞いでしまっています!」
「植物だと?」
「多分スキルだな。これだけの力だ。そうとしか考えられねえ」
「だがゼーヴ、植物を操るスキルを持つ者など帝都にはいないはずだ」
「……でしょうね。これだけの力を帝国が隠し持っていたとは思えねえっす。だったらヴォダラが利用してるはずだし」
「その通りだ。そして逆もまた然り」
連合軍だって同様に、その者の力を借りたと言う。
「考えられるとするなら、我らが帝国を討ち倒したことを知り、第三者が隙をついて攻撃を仕掛けてきたということ」
「だったらさすがに一ヶ月も待たねえと思いますよ。俺だったら戦力が回復する前に奇襲をかけて、そのまま連合軍から帝国を奪い取りますしね」
「むぅ……確かに主の見解は正しいな。ならば帝国を奪い取ることが目的ではないと?」
「そこまでは何とも。実際に俺らは身動きを奪われてますしね」
「フン、このようなもの、ワシや主ならば如何様にも抜け出すことができよう」
「……! ちょっと待ってください! 何か聞こえてきます!」
ゼーヴが耳を澄ますように言うと、確かに彼らの耳にはどこかから場違いな声音が聞こえてくる。
「……歌? このような状況で誰が歌など……む! どうした急に倒れて?」
ドラギアが報告に来ていた部下が突然前のめりに倒れたので駆け寄って確かめてみた。
「……眠っている?」
部下には外敵損傷などはなく、それどころか気持ち良さそうな表情で寝ていたのである。
「おい、起きぬか! おい!」
ドラギアが頬を叩いて覚醒を促すが、部下は時折顔をしかめるものの起きはしない。
「この歌……ただの歌じゃねえっすね。これも恐らく……」
「敵の攻撃というわけか」
「とりあえずこの部屋から出ましょう」
ゼーヴが先導して、部屋から出て中央玄関の方へと向かうが、見回りの兵士や侍女たちが、先の部下のように倒れているのを確認した。
「やっぱどいつもこいつも眠っちまってやがる。それに出口もやっぱ植物で塞がれてんな。しかも中にも植物が侵入してきてる」
玄関を閉ざす大扉を破壊し、植物が壁や床を伝って伸びていた。
「しかし植物に歌……どれも珍しい力だな」
「感心してる暇はねえっすよ。どうやらこの歌には聞いた奴を眠らす効果があるみてえっすからね」
「だがワシらには効いておらぬぞ?」
「多分精神力が強い奴には効かねえんじゃねえっすか? その証拠に――おい、いるんだろ? さっさと出て来い!」
ゼーヴがそう言うと、天井から四つの影がサササッと降りてきて、ドラギア王の前に跪く。
「東のウラキオ」
「南のタンヴ」
「西のメイクーリ」
「北のオウザ」
それぞれが一人ずつ速やかに名乗り、
「「「「我ら『四天闘獣士』」、ここに参上致しました」」」
どうやら彼らこそ、ドラギアが治める【アグニドラ王国】が誇る最高戦力らしい。
「おぉ、主らも無事であったか」
「見ての通り、強者の枠組みに入ってる連中は、この歌の効果を跳ねのける力があるんじゃないですかね」
「そのようだな。オウザよ、周囲の状況はどうだ?」
オウザと呼ばれた獅子を擬人化させたような、歴戦の戦士のようなただならぬ風格を持つ『ガーブル』に、ドラギアが言葉を求めた。
「はっ、確認したところ宮殿内でも、主に人が集まっている建物に植物の襲撃が集中しているようです。そうだったな、ウラキオ?」
「…………」
「オウザさーん、ウラキオの奴、寝てるっすよー」
軽薄な感じで報告したのは、タンヴと名乗った猿を擬人化させたような男である。
対してウラキオというのは、羊を擬人化した少年で、今も頭をグラグラとさせながら鼻提灯を膨らませていた。しかも両腕には枕を抱いて。
「はぁ……すみません、ドラギア王。こら、ウラキオ! 良い加減起きないか! さもないとお前の枕コレクションを全部破棄させるぞ!」
「――はっ!? 何人足りとも僕の枕を傷つける奴は許さないもん!」
くわっと目を見開いて気迫を発するウラキオだが、自分を見つめている多くの視線に気づくと、枕で自分の顔を覆う。
「うぅ……そんなに見ないでほしい……もん」
そう言いながら照れ臭そうに皆に背を向ける。
「はぁ……ウラキオ、いいからさっさと報告するべきことをしろ」
「はぅ……オウザさん厳しいもん。でも……僕もお仕事だから……頑張らないといけないもん。あ、あのですね……僕が調べたところ、賊の目的は宮殿そのものでも、帝国を奪うことでもないかと思いますもん」
「ふむ。どういうことだ、ウラキオよ?」
「えっとですね、ある建物だけ植物の襲撃がないんですもん」
「ある建物? それはどこだ?」
「北東の【慈愛の塔】ですもん」
「【慈愛の塔】だと? 何故そのような場所だけ……! まさか賊の目的とやらは!?」
心当たりがあったようで、ドラギアが険しい顔つきになり、決定的な言葉を口にする。
「――――ニケ殿下か!?」
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