第136話 特別報酬
〝救出作戦が成功したとして、必ずドラギアたちは誰の仕業か調べるだろうな。そして遅かれ早かれ、その場から姿を消したラジエが疑われるのも当然になる〟
〝でしょうな。ラジエ殿の立場からして、シュレンという女性を結び付けることも容易いこと。彼女の忘れ形見であるニケを救い出す動機は十二分にありますからな〟
〝ああ。んで、俺は……ていうかハクメンにラジエが接触したことは知られてるって考えた方が良いだろ?〟
何せ爺さんと会ったのは宮殿内だ。そこで誘われて馬車に乗った。
それを誰かが見ていた可能性は非常に高い。
その直後に救出作戦が起こり、ラジエが姿を消すのだから、ハクメンが何かしら関わっていると疑惑の目を向けられるのもおかしくはないのだ。
しかもラジエは元商人。商人同士の繋がりが元々あったのではと考える者も出てくるだろう。
〝どっちを取るか、でございましょうな〟
〝いいや、それはもう決めただろ。俺はラジエ側につく〟
〝それでよろしいので?〟
〝ドラギアたちとの商談は魅力的だ。けど、稼がせてもらうにも時間がかかる。それに比べて、こっちは一気に莫大な財を手に入れることができるんだぞ?〟
〝ハッハ、殿らしい答えですな〟
将来的に見込める金よりも、今すぐ手にできる金を優先したいのだ。
「そういや、一応調べておくか」
俺は〝SHOP〟を開き、《ボックス》に収納されている財宝の売却価格を確認してみることにした。
あれだけの財宝だ。億は絶対に超えるだろう。いや、もしかしたら十億くらいには……と思っていた俺は、あまりの衝撃に絶句してしまった。
〝どうかされましたか、殿?〟
〝…………〟
〝……殿?〟
シキの呼びかけにハッとして、俺は目を擦り、再度目の前に現れた額を見る。
――305億。
当然何度も何度も確かめてみたが、どう数えても305億という想像以上の数字が刻まれている。
〝シ、シキ……すげえぞ……! 驚くなよ? 売却価格は――305億だ〟
〝何と!? ユニークスキル二十個分ではありませぬか!?〟
つまり《ショップ》スキル二十個分。何それ、チートを通り越してバグか何かですか?
そうツッコんでしまうくらいの衝撃度だ。
「まさかここまでの価値があったとはな……。どうやら財宝の振り分けが確認できるみてえだし、見てみるか」
財宝には金貨だけではなく、様々なものがあった。
金貨自体は一万円程度の価値しかないが、それが約百万枚ほどある。これだけでも百億の価値で凄い。
あとは宝石や武具類なのだが……。
「どうもほとんどがアーティファクトの類らしいな。ただの宝石もあるが、どれも高価なもんばっかだ」
地球にも存在するルビーやサファイアなどもあるし、ファンタジー特有の鉱物もいろいろある。
〝価値の高い武器もございましたか?〟
〝ああ、《緋水龍の斧》や《魚王鱗の盾》なんか、揃ってどっちも七億だぞ。すげぇ……〟
他にも様々な効果的なエンチャントが施されているアクセサリーもあって、億は軽く超えているものばかり。
ランクでいえばAやSに位置付けされても遜色ない。
〝宰相の奴もまあ、よくもこれだけ貴重なもんを隠し持ってたな〟
〝帝国を裏で牛耳っていたような輩ですから、そういったものにも鼻が利くのでしょうな〟
中には民や商人、あるいは冒険者から無理矢理強奪した品とかもありそうだ。
そういうあくどいことを平気で行っていたらしい人物のようだから。
〝このうちの半分でもいいからもらえんかな?〟
〝どうでしょうか? そもそもラジエ殿たちは、これらの価値を正確に把握されているのでしょうか?〟
〝……ラジエの爺さんなら分かってんだろうよ〟
何せ《真贋視》のスキルを持っている人物だ。その目で見れば、物の価値など見抜くのもわけはないことだろう。
そうやって彼は商人として一気に成り上がってきたのだから。
〝半分はもらえなくても、三分の一……いや、四分の一でも報酬として受け取れればかなりの収入になるな〟
それでも70億以上。当然今までで最高額の報酬である。
〝救出作戦で活躍して依頼報酬を跳ね上げるってのはどうだ?〟
〝なるほど。ではニケを我々だけで助け出すというのは?〟
〝それいいな。ラジエたちは無傷でニケを手にできるし、そのまま俺が用意した無人島にでも移動させれば追手も来られないだろう〟
すべては俺一人の手柄。
これならば報酬を釣り上げることは容易にできるはず。
〝けどやるならいろいろ調べてからだな。宮殿内についてもよく知らんし、ニケの居場所も分からん〟
多少強引にニケを奪取しても問題ないが、時間をかけ過ぎるのはリスクが大きい。
まあ、捕まりそうになっても《テレポートクリスタル》を使えば、一瞬で逃亡を図ることができるし何とでもなるが。
「そうと決まったら時間との勝負だな。明日の夜までには片を付ける必要があるし」
俺はさっそく《コピードール》を使って、坊地日呂の成りすましを作ると、すぐに【幸芽島】へと飛んだ。
そこでイズたちを交えて、帝国で何があったのかを伝え、ニケ救出に関して俺たちが行うことを説明した。
「――なるほど。では主様、是非わたくしも連れていってくださいませ」
「イズを?」
「はい。わたくしの歌があれば、敵を簡単に無力化することも可能ですので」
なるほど。確かにイズの歌は支援能力に関しては抜きん出ているし、対象を眠らせたりすることもできる。
「そうだな。イズ殿と私の能力を駆使すれば、速やかに救出作戦を完遂させることが可能だろう」
そう言うのはヨーフェルだ。
彼女の《幻術》は、イズの歌と並行して使えば強力無比な武器となる。
ただでさえ現実のように錯覚させることができる彼女のスキルを、イズの歌の効果でより強化することで、宮殿内のすべての者たちに幻を見せることだってできるらしい。
「分かった。ソル、今日も朝から飛び回って疲れてるかもしれないが、もう一度調査を頼めるか?」
「ソルはいっつでもやる気満々なのですぅ! あ、でもぉ……頑張ったあと、ご褒美があればもっと頑張れるかも……です」
「ソル! あなたは何を厚かましいことを!」
などとイズが注意をするが……。
「はは、いいぞ。今回のこれまでで一番の大仕事だ。力を貸してくれた者全員に褒美を与えるつもりだからな。特に一番活躍した奴には特別報酬もつけよう」
「「「「!?」」」」
…………え?
俺が発言をした直後、ソルたちの様子が明らかに変わった。
「ご主人の特別報酬ぅ……」
「これは何が何でも殿のお役に立ち手に入れなくてはな……」
「残念ですが主様の特別報酬である結婚の約束はわたくしが頂きますわ」
「いいや、マスターに一番褒められるのは私に決まっている」
ゴゴゴゴゴゴゴと、背景に文字が見えるかのような威圧感を彼女たちが発している。
それとイズ、俺がいつ特別報酬が結婚の約束って言ったの?
するとそこでクイクイっと、服を引っ張られる感触を覚える。
振り向くと、そこにはイオルが立っていた。
「ヒロさま……ぼくもおてつだい……したい」
「え? イオルもか? いやぁ……危険かもしれねえしなぁ」
「……ダメ?」
目を潤ませて上目遣いという反則的行為をしてくる。
こんな弟が欲しかった……じゃなくて、どうしたものか……。
「さすがは私の弟だな。マスターの役に立ちたいというのは見上げた姿勢だ。マスターよ、不都合でなければイオルも参加させてやってはくれないか?」
「……いいのか?」
「うむ。この子もエルフだ。それに最近は、強くなりたいと言って、シキ殿に体術を習ってもいるしな」
へぇ、そうだったのか。そこはやっぱり男の子なんだな。姉のヨーフェルにいつまでも守ってもらうのは思うところがあるか。
「…………分かった」
「! ヒロさま、ほんと?」
「ああ。けど俺かヨーフェルの傍を離れないこと? いいな?」
「うん! ぼく、やくそくまもる! そしてヒロさまのやくにたつ!」
本当に良い子だ。必ず無事にこの島へ連れて戻って来ることにしよう。
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