第135話 財宝確保
「す、すげぇ……!?」
「ほっほ、これで儂が嘘を言ってなかったことが証明できたじゃろ?」
「あ、ああ……」
「これだけの報酬があれば、お主もやる気を出してくれるのではないかのう?」
もちろんだ。というよりここまでの莫大な財宝が眠っているとは思っていなかった。
宰相ヴォダラ……一体どれだけの贅沢をしていたのか、これを見れば圧政に喘いでいた者たちは卒倒してしまうことだろう。
このすべては民の血税によって蓄えられたもののはずだ。何年も、何十年も、そうして搾取し続けてきたもの。
本来ならば圧政に苦しんできた者たちに返すのが筋なのだろうが、幸か不幸か、その民はこの世界にはいない。
「これ全部もらってもいいのか?」
「き、貴様! 言うに事欠いて全部とは何事だ!」
ああ、やっぱさすがに欲張り過ぎたかな。
「冗談だよ冗談。ここにはあんたたちの生活資金だって含まれてんだろ? そこまで鬼じゃねえよ」
それに今後、商売として頂くつもりだし別に急ぐ必要もない。
「性質の悪い冗談は止めろ!」
「ほっほ、落ち着くんじゃダエスタ。商人相手にカッとなると、足元を見られてしまうだけじゃぞ?」
さすがは元商人、分かってらっしゃる。
「けど爺さん、ニケを奪取して外に逃げるとして、これだけの財宝をどうやって運ぶつもりだ?」
それこそ引っ越し用のトラックが必要になるほどだし。
「無論馬車で運ぶ予定じゃが、それ以外にも良い方法はあるのかのう?」
「馬車といっても、そこまで運ぶのにどんだけ時間がかかるか分かったもんじゃねえし」
この長い道程を、財宝を分けて運ぶには相当な労力が必要になる。聞いた限りでは、仲間はあまりいない。
となれば一日二日で終わるような作業じゃない。
「そうじゃのう。最初はここから必要最低限だけを運ぶつもりじゃったし」
「そいつは勿体なさ過ぎだろ。せっかくだから全部頂けばいい。金は幾らあったってあり過ぎるってことはねえんだからな」
「ならどうする? 儂らはできるだけ早く救出作戦を実行させ、この帝都から去りたいんじゃがのう」
「……俺を信用してくれるってんならすぐに解決できる問題だ」
「ほう? まさかお主、これだけの財宝を一気に運ぶ手段でも持ち得ているのかのう?」
「まあな。そういう能力も持ってるんで」
ラジエがジ~ッと俺を見つめてくる。恐らくスキルを使って真偽を確かめているのだろう。
「……どうやら本当のようじゃが、お主のスキルというのは《変化》ではなかったのか?」
「あん? 誰がいつそんなこと言ったよ」
「お主は『ガーブル』に変化しておったし、お主自身が会議室で価値のなくなった金品を、価値あるものに変えることができると言っておったじゃろうが。だからあらゆるものを変化させることができるスキルではと考えたのじゃが……」
「残念、そいつは見当違いだ」
「…………ふぅ。どうやらそれも本当みたいじゃな。しかし会議室での発言に嘘はなかった。金品を価値あるものに変えられ、ここにある財宝を一気に運ぶことのできるスキルとは……どういったものなんじゃ?」
「まあ、見てな」
説明するより実際に見せた方が早いしな。
俺は財宝に触れ、そのすべてを《ボックス》に収納した。
「「――っ!?」」
当然一瞬のうちに、その場から財宝が消失したことで愕然とするラジエとダエスタ。
「い、一体何が……! おい貴様、財宝をどこへやった!?」
「慌てるなって。今取り出すからよ」
今度は財宝を《ボックス》から取り出した。
すると再び同じ場所に財宝が出現したのである。
「お、驚いたわい……! 差し詰め《収納》のスキルといったところかのう?」
「惜しいが、違うな。そもそもこの力は、俺のスキルの副産物みてえなもんだし」
「ふ、副産物? これだけの力が副産物じゃと? ……お主は一体何者なんじゃ?」
「ちょっと変わり過ぎた地球人だ」
「「…………」」
俺をまるで珍獣でも見るような目で見てくる。
二人の反応はおかしくはない。俺だって逆の立場なら混乱するだろうからな。
「けどこれで財宝を運べることが分かったろ?」
「う、うむ。なら運ぶ仕事はお主に任せるとしよう」
「あ、けど運び賃もくれよな?」
「……ちゃっかりしとるのう。さすがとでも言っておこうか」
「取れるところから確実に取る。それが商人ってもんなんだろ?」
「ほっほっほ、その通りじゃて。ではさっそく財宝を持って帰るとしよう。お主のお蔭で、作戦を早めることもできた。ノアリア様もお喜びになってくださるじゃろうしな」
「しかし貴様! バレないからといって、財宝をちょろまかすなよ?」
あらら、やっぱり注意されてしまったな。
まああれだけの財宝だし、少しくらいネコババしてもバレないだろうけど。
「こちとら信用を売る仕事だぞ? 長い付き合いになりそうな奴には誠実であるさ」
「……どうでもいい奴には?」
「策を弄して問答無用で根こそぎ奪う?」
「くっ、やはり商人は悪魔の申し子だ!」
本当にダエスタの奴、商人が嫌いみたいだな。
ラジエも苦笑交じりにダエスタを見て「ほれ、行くぞ」と言っている。
こうして俺たちは、財宝のすべてを手にしたまま、例の隠れ家へと戻ったのであった。
「――それは真ですか!?」
隠れ家に帰ってきて、ラジエが財宝の件を伝えたところ、ノアリアが満面の笑みを見せて手を叩く。
実際に財宝をどうやって運んでいるのか見せてほしいと言われたので、収納と取り出しを見せてやると、これまた面白そうに喜ぶ。
そんな姿は年相応の娘にしか見えず、何とも微笑ましさを感じる。
そしてひとしきり穏やかなムードを楽しんだあと、ノアリアは深呼吸をしてから真面目な空気を醸し出す。
「これならすぐにでも作戦を実行できそうですね」
「はい、殿下。儂もこれから宮殿へと戻り、再度ニケ様の居所を確認して参ります」
「お願いします。……ボーチ様、早ければ明日の深夜に作戦を決行致したいと思っておりますが、問題ありませんでしょうか?」
「普通そんな短期間で安住の地を用意しろってのが無理難題なんだけどな」
「や、やはり急過ぎ……でしょうか?」
申し訳なさそうに目を潤ませてくる。
そしてその背後から、ダエスタの殺気が迸ってきた。ノアリアを泣かせたら殺すと言わんばかりに。
「言ったろ、普通ならってな。けど俺は普通の商人じゃねえ。安住の地? そんなもん、すぐにでも用意できる」
だって海に無人島を購入するだけだしな。これまでの依頼と何ら変わりない。一時間もかからず終わるような仕事だ。
すると俺の言葉を受けたノアリアが、花が咲いたような笑顔を浮かべる。
きっと男なら、その顔を見たら一気に恋に落ちてしまうほどの魅力的だった。
ただ俺は良い笑顔だとは思うが、それ以上の感情を呼び起こす器官が壊れているので、彼女にグラつきはしないが。
それからラジエは宮殿へ向かい、俺はこの隠れ家で一晩過ごすことになった。
ダエスタに客間を案内され、狭くも広くもない部屋の中にあったベッドに横たわる。
「……ふぅ。まさか一転してこんなことになるとはなぁ」
帝国と商談ができると思い勇んでやってきた。途中で遭遇したゼーヴのお蔭もあって、帝国を制圧した連合軍のトップであるドラギア王と対面することができ、悪くない感触をもらうこともできたのである。
だがその帰りに、まさか別口から依頼が飛び込んでくるとはさすがに思わなかった。
〝殿、帝国との商談についてはどうされるのですかな?〟
シキが当然気になっているであろうことを聞いてきた。
〝さて……どうしたもんか〟
別にまだ契約を交わしたわけではないので、こちらから反故にすることも可能だ。
あまり乗り気ではない者たちもいるそうだし、身の安全のためにも商談は中止という名目で断ることもできる。
ただ……。
〝……勿体ねえのは確かなんだよなぁ〟
ドラギア王たちと契約することができれば、大きな利益になることは確かだ。
だからできれば友好関係を結んでおく方が良いのだが……。
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