第134話 地下遺跡

「外にあるんじゃねえのか?」


「そんな目立つ場所には作られておらんよ。何のためにこの建物に潜伏してると思うとるんじゃ?」


「……! 地下通路への入口がこの建物内に?」




 ラジエがほっほっほと笑いながら扉の奥へと向かっていき、次に俺、ダエスタと続く。


 ダエスタは何かあったら即座に俺を斬るつもりなのだろう。怖い怖い。




 扉の奥は細い通路があり、左右に扉が一つずつあるが、そこには目もくれずに突き当たりへと歩く。


 ただの壁しかないが、床に敷かれている青い絨毯を剥がすと、その下には隠し扉があった。




 そこをダエスタが開くと、梯子が地下へと伸びているのが分かる。


 まずはラジエが降りていき、やはり次は俺、最後にダエスタだ。




 長い長い梯子を下っていき、ようやく地に足が着くと、まるで遺跡のような光景がそこには広がっていた。


 ただ土を掘り返したわけじゃなく、石を加工して作られた道や柱などが視界に飛び込んでくる。




「こんなもんが帝都の地下にあるなんてな。しかもどこか街っぽい造りだな」




 ほとんど風化してしまっているが、遠目には建物の名残が幾つも確認することができる。




「ここは【地下遺跡・ラグーニア】と呼ばれておる。元々帝都ができる遥か前、ここには【ラグーニア】の街があった。しかし大災害で滅び、その上に帝都が築かれたとされておるんじゃよ」


「へぇ、街の上に街を造ったってわけか」




 普通は一旦街があった土地を更地にして、そこに新しい街を築くだろう。わざわざ街を遺跡として遺し、その上に帝国のシンボルである都を造ったのは何故なのか。




 それほどまでにこの遺跡が大事だった? いや、ならこんな潰れそうな環境を作らないだろう。


 わざわざ石の壁や床、そして天井で遺跡を守るなら、外で保管することもできたはずだ。




 もし天井の強度が保てず帝都の重みに負けたら、そのまま潰れてしまいかねないのに。


 これじゃまるで隠すために帝都を建てたような感じだ。




「宝物庫はこっちじゃ」




 ラジエが先導し、そのあとについていく。




 壁には発光する宝石が一定間隔で備え付けられていて周りを照らしている。淡い光だが、月明りに照らされている地上程度には周囲を確認することができた。




「この遺跡には罠なども設置されておるからのう。無暗に物には触れんようにな」




 おいおい、そんな危険な場所なのかよ。まるでダンジョンじゃねえかそれじゃ……。




「モンスターもいるのか?」


「何だ、怖気づいたなら今すぐ帰ってもいいのだぞ?」




 後ろから明らかに挑発じみた言葉が飛んできた。




「悪いがお宝を目の前にして逃げ帰る商人じゃねえんで」


「……しょせんは金目当ての俗物か」


「これ、言い過ぎじゃぞダエスタ。それに金目当ての商人だったのは儂も同じじゃて」


「っ……口が過ぎました」




 どうもあまり商人という輩が好きではなさそうだ。このメイドさんは。


 何か商人にしてやられた過去でもあるのだろうか。あったとしてもそれを別の商人に八つ当たりをしないでもらいたいが。




「さっきの質問じゃがのう、ボーチよ」


「ん? ああ」


「この遺跡には確かにモンスターはおる。ただ普通ではないがのう」


「普通ではない?」


「うむ。……ほれ、噂をすれば、じゃ」




 足を止めたラジエが、ある場所を指差した。


 すると脇道をゆっくりと歩く蜘蛛のような存在がいたのである。


 ただし全身が鉄でできているような風貌で、歩き方もどことなく機械じみていた。




「……ロボット?」


「ほ? ろぼっととは何じゃ?」


「え? ああ……ああいう動く機械みたいな奴のことだ」




 ロボットの定義を詳しくは知らないが、そんな感じの説明でも別に間違ってはないはず。


 それにしても異世界の連中はロボットという言葉を知らないらしい。




「この世界ではアレをろぼっとというんじゃな。儂らは『オートマン』と呼んでおるぞ」




 そこはできれば『オートマタ』と呼んでほしかった。


 聞けば、蜘蛛型や人型、獣型など様々な『オートマン』がいるらしい。




 俺は《ショップ》スキルを使って、『オートマン』と検索してみた。


 すると今目の前にいるような『オートマン』だけでなく、確かにいろいろな形をした奴らがわんさか出てきたのである。




 ……へぇ、自動警備システムが組み込まれてるのか。こいつは使えるな……結構高いけど。




 敵と認識した対象を排除するまで攻撃をし続けてくれるらしく、これなら【幸芽島】に配置できるし、防衛力をさらに上げることも可能だ。




「む? 貴様、奇妙に手を動かして何をしている?」




 あ、ヤッベ。後ろにコイツいたんだっけ?




「ちょっと癖だ。緊張すると無意識に手が動くんだよ」


「…………」




 それが事実かどうか見定めるような目でダエスタが見てくる。


 ただラジエには、今の俺が嘘を言っていることはバレているかもしれないが。それでも何も言わないのは、俺が言いたくないことだと理解しての気遣いだろう。




「なあ爺さん、もしかして見つかったら襲い掛かってくるのか?」


「安心せえ。奴らが配置されている場所は把握しておる」


「つまり見つかったら襲い掛かってくるってことじゃねえか」


「たとえそうなっても、ダエスタが傍におるから大丈夫じゃ」


「は? このメイド、そんなに強えの?」


「当然。こやつはメイドの恰好をしておるが、れっきとした護衛騎士なんじゃからな」




 なるほど。道理で戦い慣れてそうな雰囲気を醸し出しているはずだ。




 異世界はこんな物騒なメイドが普通なのかって嘆きそうになったしな。




 ただ今の発言で、ダエスタがかなりの強さを持つ人物だということも分かった。


 先程確認したが、蜘蛛型の『オートマン』は、Dランク相当の力を持っているという記述があったのだ。




 ラジエのような足手纏いがいる中、それらに襲われても大丈夫ということは、ダエスタはCランク以上の実力があるということ。


 まあ俺はいざとなったらシキもいるし、Dランクくらいなら自分でもどうとでなるから別に構わんけどな。




「けど何であんな変わったモンスターがこんな場所にうろついてるんだ?」


「恐らくはこの遺跡を守るためじゃろうな。いや、正しくはここがまだ街だった時に、護衛をしていたのかもしれん」




 そんなに長い間……? 




 そう思ったが、機械ならそれも可能かもしれない。ただもしそうだとしたら、すでに崩壊した街を……守るべきものを失ったことを知らずに動き続けている奴らが、どこか憐れに思えてくる。


 どちらにしろ味方ではないのなら、こちらから進んで近づきたくはないが。




「ほれ、この先じゃ」




 結構歩いた先には、またも地下に向かう階段が設置されていて、そこをゆっくりと進んでいくと、その先には開けた空間があって、突き当たりには壁が確認できた。




 何もないと思われたが、よく見れば壁には絵が描かれている。まるでエジプトの壁画のようなもので、ところどころ剥げていて年代を感じた。


 白と黒の球体を、それぞれ両手に持った状態の悪魔らしき存在を描き、そいつと対立する側には、大勢のモンスターを従えた人間が描かれている。




 そしてその周りには、これまた多くの人間や獣人らしき者たちが横たわっているようだ。




「この壁画は?」


「さあのう。ただ分かっておることは、遥か昔に起きたことを示したものらしい」


「あの悪魔みてえなヤツと、対立している図式みたいだけどな」


「予想はできる。あの悪魔は恐らくは『呪導師』じゃろうのう」




 ……なるほど。




「つまりは『呪導師』を討ち倒すべく、世界に住む人々が力を合わせて戦っているってところか。にしては無事なのは人間――『ヒュロン』一人で、他はモンスターっぽいが」


「みたいじゃのう。まあ今は壁画の意味についてはどうでもええじゃろ」


「そういえば何でここに? 行き止まりみてえだけど」


「少し下がっておれ」




 ラジエが壁に触れて探るような手つきをすると、ゴトリ……と重々しい音とともに、壁の一部がスイッチみたいに凹んだ。




 すると壁画の中央を切断したような切り込みが入り、ゴゴゴゴゴゴゴと両開きの扉みたいに後ろへと開いていく。




 そしてその奥に見えた光景に、俺は思わず「おぉ……」と感嘆の溜息が零れ出た。


 何せそこには眩いほどの黄金や宝石、宝箱に武具らしきものが溢れ返っていたのだから。




 それはまるで文字通り金銀財宝で、目が眩むとはこのことだろう。


 ついつい目を擦って、これが夢や幻じゃないかと疑ってしまったほどだ。








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