第123話 異世界人との繋がり

「――お待たせ致しました、ハクメン様」


「うむ。答えを聞こうか」


「はい。我々『猿人一族』――あなた様と繋がりを持ちとうございます」




 全員が俺の前で跪いている。一族の決定に納得したのか、誰一人として不満顔をしていない。




「承知した。だが一つ言っておくことがある」


「はっ、何なりと」


「その畏まった態度は必要ない」


「し、しかし……」


「私はいち商売人として、貴殿らと商売をするだけの間柄だ。そこの立場の違いはあれど、身分の差など無い。故に貴殿らも同じ『ガーブル』と接するようにするがよい」


「……善処します」




 ちょっと難しい提案だったか。余程彼らの中で伝説は大きい存在らしい。 


 まあそこは徐々に慣れてもらえればいいか。




「では少しここで待っていろ」




 俺は何かあった時のために、ヨーフェルだけをこの場に残し、シキとともに一度【幸芽島】へと戻り、そこから《ジェットブック》でさらに東へと飛翔する。




 島が見えなくなったくらいのところで停止し、そこで新たに無人島を購入し、海の上に設置した。




 【幸芽島】よりかなり小さく、草木が生い茂り手入れの行き届いていない島ではあるが、十数人しかいない彼らが住むにはちょうど良いくらいだろう。




 俺はそこに木製のボート数台に、網や鉈、槍や斧などのサバイバルしていく上で必要になるであろう最低限のものを用意していく。




 そして再びセングたちが待つ秋田県へと向かい、今度は彼らと一緒に、《テレポートクリスタル》を使って無人島へ飛んだ。




「「「「――っ!?」」」」




 突如として絶海の孤島にやってきたものだから、全員が唖然として固まっている。




「ここが今日から貴殿らの拠点となり得る場所だ。未開拓の地ではあるが、貴殿らならば住みやすい地へと整えることができるだろう。そのために最低限の物資はこちらが用意しておいた」


「「「「おおぉぉ~っ!」」」」




 俺が用意したモノを見て、全員が感動したように声を上げた。




「こ、これほどの場所を用意してくださるなんて……! ハクメン様、感謝致します!」


「セングよ、これはいわば先行投資だ。これから存分に励んでもらいたい」




 俺は明日から彼らにしてもらうことを説明していく。


 女子供は、主に無人島での生活基盤作りだ。女性といえど、人間の男性よりも力は強いし頼もしいので、木を切ったり家を建てることだって苦にならない。




 そして男たちには、俺と一緒に日本へ向かいダンジョン攻略である。数日間、攻略に励み、その成果を持って無人島へと戻る。




 そこで回収した素材などを見て、俺との商談に入り、必要なものを得たり、この無人島などの先行投資した分の借金を返してもらう。




「委細承知しました。こちらはそれで何の問題もございません」


「うむ。では明日からよろしく頼むぞ。今日はこの日を祝福して、食材を用意させてもらった。数日分ある故、考えて口にするように」




 俺はそう言うと、《ジェットブック》に乗って、ヨーフェルたちと一緒に再び日本へと戻った。












 セングたちと同じような感じで、日本に現れた異世界人たちと接触をし、商売契約を結んでいく。


 向こうもこちらが衣食住を提供するということで、面白いように食いついてくる。




 ただすべての異世界人たちと交渉ができるわけじゃない。


 安い無人島を購入し与えているといっても、徐々に貯蓄は削られていっているのだ。




 俺は残金が二億を切ったところで、一旦異世界人たちとの交流をストップした。




「契約できたのは四つだけだったなぁ」




 俺は海の上で《ジェットブック》に揺られつつ、そんな言葉を漏らした。




「それでも初日にしては十分ではありませぬかな?」




 シキの言う通り、そこそこ優秀な結果を得られたかもしれない。何せ一つ一つが、結構なリターンになるような契約なのだ。


 会社なら一躍出世ものではなかろうか。




 永続的に高級マンションの家賃収入を得たようなものかもしれないし。




「けど大分資金が減ったなぁ。しばらくは節約して、俺も大型の依頼をこなさねえとな」




 福沢家や崩原才斗のような一気にガツンと入ってくるような依頼はここのところないのだ。


 異世界人たちと接触するために地方に出たのも良いきっかけだったし、これからはそちらにも手を伸ばしてみるのもいいかもしれない。




 どこかに俺しか解決できない案件で困ってる大金持ちがいないものか……。


 そう考えながら【幸芽島】へと帰ってきた。




 ソルやイズは、滞りなく商売が繁盛しそうだという話を聞いてともに喜んでくれる。




 そしてその日の夜、俺はベッドに横になりながら、やはり考えることは金をもっと稼ぐことだった。




 正直手段さえ選ばなければどうとでもなる。そこらにある家や建物を勝手に売却すればいいだけだ。それだけでたった一日で、俺の目指す目標まで一気に駆け上がることができるだろう。




 しかしそれはどうにも面白くないし、俺の美学にも反する。


 できれば自分の力で目標金額にまで達したい。とはいっても明確な金額という設定は今のとこと曖昧だ。




 金はどれだけあってもあり過ぎるわけじゃないからである。




 〝SHOP〟には、役に立つものが多過ぎて、いくら金があっても足りないのだ。




 平和な日本で暮らしていた時は、恐らく二億もあれば普通に問題なく暮らしていけただろう。


 しかし今、二億なんてすぐに消えてしまう。十億、百億あっても物足りない。




「……一兆、かぁ」




 想像もつかないほどの大金でしかないが、それだけあればこの不安も解消する程度にはなるだろう。


 ただこのとてつもない目標を設定したとして、一体どれだけの年数がかかるか分からない。




 それまでにさらに地球が異世界化して、そこら中にSランク、Aランクのモンスターが溢れ、この島にも襲い掛かってきたらと思うと怖くなる。


 やはりできるだけ早く資金を増やし、自衛力を高めなければならない。




「……俺の悠々自適なスローライフのためにも、明日も頑張らねえとな」




 俺は改めて決意を旨にし、そっと瞼を閉じた。
















 異世界人たちを数グループ取り込んでから、また幾ばくかの時が経った。


 この事業は思った以上に功を奏し、少なくなっていた資金もどんどん増えていき、俺の懐はウハウハな状態となる。




 戦闘が得意な『ガーブル』だけあって、集団戦で挑ませれば中級ダンジョンとて短期間で攻略してしまうのだから驚きだ。




 しかし当然ながら、何度か地球人との衝突もあった。


 見慣れない外見をした連中が、こぞってダンジョン攻略に勤しんでいるのだから噂になってもおかしくはない。




 俺が住んでいた街の周辺は、『平和の使徒』や『イノチシラズ』の縄張りのようになっているので、俺は『ガーブル』たちを地方に送りダンジョン攻略を指示したのだ。


 だがやはりそこにも『平和の使徒』のような組織が存在し、そういった連中に目を付けられてしまった。




 しかも『ガーブル』たちは相手と対話をすることができない。




 ちょうどダンジョン攻略時に、地方組織とぶつかり合って、もう少しで戦にまで発展しそうになったが、すんでのところで見回りのソルからの連絡を受け、俺がそちらへと飛んで、急いで彼らを回収して事を収めた。




 人間と戦わせても、元々の身体能力と俺が渡しているファンタジーアイテムのお蔭で負けることはないだろうが、ここで戦を勃発させてしまえば、もう完全に異世界人は敵という認識になってしまう。


 そういうのはこちらとしても不利益しか生まない。




 できれば俺は、地球人や『ヒュロン』とも利害関係でいいから繋がりを持っておきたいのだ。




 そして現在、そういった地方組織と上手く関係を結べるように接触を図り、異世界人たちは決して不利益になる存在じゃないことを伝えた。




 実際に地方組織では手が出せないダンジョンを、俺を筆頭に異世界人たちで構成されたパーティで攻略して見せたのである。


 地方組織にとって、ダンジョンやモンスターは忌むべきもの。故にそれらを排除してくれる俺たちを利用しようとしてくるはず。




 事実、俺たちの力を目の当たりにし、組織のトップが是非街の平和のために力を貸してほしいと要求してきた。


 しかし俺たちが行っているのは慈善事業ではない。あくまでも金稼ぎで、生活のために行っていることだ。




 ということでさっそく組織と商談に移った。


 これが俺の望んでいた流れだ。少し展開が思った以上に早過ぎたために焦ったし、もう少しですべてがオジャンになるところだったが、ギリギリ思惑通りに進んでくれたのである。




 こうして地方の組織とパイプを繋げ、彼らの依頼を受けてダンジョン攻略やモンスター討伐へと赴く。




 『ガーブル』たちには、攻略報酬はもちろんのこと、個人でも活躍した者には特別報酬という形で様々なものを提供する約束をしてやった。


 そのお蔭か、断然動きにも気迫が出て来て、より攻略の効率が上がったのである。




 そんな感じで、異世界人を取り込み、地方組織とパイプを繋げていきつつ、【幸芽島】の開拓も進めていく。


 気が付けば、あっという間に一ヶ月ほどが過ぎ、〝SHOP〟の残高が十億を超えていた。






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