第114話 模擬戦

 ――一週間後。




 ヨーフェルの加入はとても大きく、彼女にはソルとともに下級と中級ダンジョンを狙って攻略してもらい、俺は虎門シイナとして依頼を受けての攻略を図ってきた。




 やはり二組で行動すると効率が良く、俺に依頼が無い場合でも、毎日ヨーフェルたちが《コアの欠片》を獲得してくれるので、プラス収支で終えることができる。




 また当初の予想通り、ただでさえ戦闘力の高いエルフなのに、《パーフェクトリング》などの身体能力をアップさせるアイテムを装着させているので、向かうところ敵なし状態になっていた。




 あのシキでさえ、全力を出さなければヨーフェルに負けかねないところまできているのだ。当然俺よりも断然に強い。




 上級ダンジョンに挑ませていいのだが、さすがに規模が大きいダンジョンは何が起こるか分からないので止めさせている。




 何はともあれ、この一週間での収支はかなりのものとなり、『平和の使徒』への商談も合わせて、二億を軽く超えた。


 現在、無人島にて小休止ということで羽を伸ばしている。




 しかし毎日の鍛錬は欠かせないと、今も目の前でヨーフェルがシキと模擬戦をしていた。




「――《爆手裏剣》!」




 シキが放つ強力な爆発属性を持つ手裏剣が、ヨーフェルのもとへと迫っていく。




「何の! しっ、しっ、しっ、しっ、しっ!」




 素早い動きで五本の矢を放つヨーフェル。


 矢は向かってきた手裏剣を撃ち抜き爆発を引き起こす。




 その直後に生まれた爆煙を切り裂きながらシキが、両腕の鎌を生やしヨーフェルに向かって疾走していく。


 弓使いというのは遠距離には強いが近距離には弱い。そのため間を詰められると、どうしても不利になるのが普通なのだが……。




「――《幻影分身》」




 刹那、ヨーフェルの身体が複数その場に出現する。その数――驚くことに三十。




「むむ! ならばこちらも!」




 分身ならシキも扱える。同じように三十体に分身し、それぞれが一人ずつヨーフェルと相対していく。


 鎌の一撃によって切り裂かれ消失していくヨーフェルだったが、おかしなことに地上に立っていた三十人すべのヨーフェルが消失したのである。




 するとシキがハッとなって頭上を見上げた。


 そこにはいつの間に跳躍していたのか、ヨーフェルが上空で弓を構えていたのである。




「――《千々雨ちぢざめ》!」




 矢を放った瞬間、まるで一本の矢から分裂したかのように、無数の矢が雨となって地上に立つシキへと襲い掛かった。




 これはヨーフェルが編み出した広域殲滅技だ。一撃だけでも強力なヨーフェルの放つ矢による無数連射。その渦中にあるものは一溜まりもないだろう。


 シキも感嘆するように目を見開くが、決して慌ててはいない様子。




 どうするのかと思いきや、




「――《土遁・土竜爪》」




 シキの両腕の鎌が、モグラの爪のように変化し、それを地面に突き刺し、一瞬にして土中へと潜ってしまった。




 うわぁ、あんなことまでできるようになったのかよ。もう何でもありだな……忍者って。




 そのうち水遁やら火遁やらも使うのだろう。俺としては頼もしいし、どんどんやれって思うが、敵になった者にとっちゃ理不尽な存在でしかない。




 ヨーフェルもさすがに全部回避されるとは思っていなかったのか、地上に降り立つまで驚愕の表情を浮かべていた。


 だがその隙をついて、シキが地面から出現する。




 それに反応してみせたヨーフェルだったが、シキの攻撃速度の方が速く、鎌を喉元へと突きつけられてしまった。




「っ…………まいった」




 ヨーフェルの降参宣言で模擬戦は終了した。


 俺とソルは、それを見ながらパチパチと拍手をする。




「すげえや。何だかファンタジー映画でも見てる感じだったぞ」


「マスター……いや、まだまだだ。シキには遠く及ばん」


「いや、お主は着実に力をつけている。それがしもウカウカとしてられん。それにソルには勝ち越しているではないか」




 そうなのだ。ソルとも模擬戦を行うのだが、ヨーフェルとの戦績ではソルは負けているのである。


 どうやらソルは幻術には弱いらしく、いつもヨーフェルの作り出す幻にしてやられてしまうのだ。




 以前山盛りのマッシュポテト(幻)を目の前に出された時なんて、ソルは成す術なく瞬殺されていた。


だって目の色を変えてマッシュポテトに食いついてたしなぁ。




 ソルの長所はその速度である。それなのに止まってしまっていたら、まったく持ち味は活かされない。


 欲望に忠実なソルの短所を見事についたヨーフェルの作戦勝ちというわけだ。




「ぷぅ~! ソルだって次は勝ってみせるのですぅ!」


「ああ、私もさらに精進しよう。マスターにもらったこの弓――《幻蒼弓げんそうきゅう》に恥じないためにもな」




 そう言いながら目の覚めるような蒼に彩られた弓を見せつけてくる。


 この弓は俺が買い与えたものだ。




 先に見せた《千々雨》という技も、この弓あってのものであり、実はあの無数の矢はすべて幻なのである。




 しかしただの幻というわけではなく、優れた幻術師が扱うと、幻を実体化させて攻撃することが可能になる優れモノなのだ。


 俺が使えば、矢を放ったところで相手にダメージは与えられない。何故なら幻なのだから。




 しかし《幻術》スキルを持つヨーフェルが扱うと、生む幻すべてを実体化させられるので無類の強さを発揮することができる。




 〝SHOP〟で、何かヨーフェルに見合う武器がないか探していたところ、彼女のために作られたようなこの弓が見つかったので購入したのだ。


 かなりの高額だったが、戦力アップの先行投資として彼女に買い与えた。




「そういえば先程からイズの姿が見えないが? ……それにイオルもどこへ」




 模擬戦を行う前は、二人は俺の傍に居た。だからいなくなった二人をヨーフェルは不思議に思ったのだろう。




「ああ、イズがイオルに手伝ってほしいことがあるって連れていったぞ」


「そうなのかマスター? イオルに手伝ってほしいこととは一体……」


「まあスキル関連だろうなぁ」


「なるほど。ちょうど鍛錬も一区切りしたし、イオルのもとへ行ってくる」


「じゃあ俺も様子を見に一緒に行くか」




 こうして皆で、イズとイオルがいる場所へと向かう。


 彼女たちがいるのは湖がある場所だ。




「――あら? 主様とその愉快なお仲間たちではございませんか」


「ぷぅ! 誰が愉快なんですかぁ!」




 やってきた俺たちを見て、相変わらずのイズ節が炸裂し、それにソルが不満の声を上げた。




「あ、失礼しましたわ。あなたはお仲間ではなく非常食でしたわね」


「ソルは食べ物じゃないですもん!」




 まあ……腹が減っても、さすがにソルを食べようとは思わねえかなぁ。




「もう! 何でイズはいっつも意地悪なこというんです!」


「わたくしはただ紛うことなき真実を口にしているだけですわよ?」


「ぷぅぅぅぅ~!」




 本当にこの二人は……。




 仲が良いように見える時もあるが、普段はこうやって衝突し合ってるのだから不思議だ。まあ何となくだがこういうやり取りを二人も楽しんでいるようにも思えるが。




「ところで主様、どうされましたか?」


「ああ、実はヨーフェルがイオルを気にしててな」


「そうでしたか。ヨーフェル殿、勝手にイオル殿をお借りして申し訳ありませんでしたわ」


「いや、あの子もここへ来て自分にできることをしたいと言っていたからな。きっと自分で納得してついてきたのだろう?」




 まだ5歳児なのだから、何も考えずに暮らしていればいいと思うが、姉であるヨーフェルが俺のために働いているのを見て、イオルも黙っていられないのかもしれない。




「それでイズ、イオルはどこだ?」


「あそこでございますわ、主様」




 イズが示した場所へ視線を巡らせると、そこには湖のほとりの地面をペタペタと触っているイオルがいた。






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