第108話 またもスキル持ちが現れた

「あ、でも異世界から来たんだったら、これからヨーフェルさんたちはどうするのかな?」


「コイツらは俺が引き取る。そういう約束でもあったからな。そうだよな、ヨーフェル?」


「ああ、その通りだ」




 ヨーフェルが頷く姿を見た十時が、続けて聞いてきた。




「一緒に坊地くんの家に住むの?」


「何だ? ダメなのか?」


「ダ、ダメじゃないよ! ダメじゃないけど……」




 チラチラと十時がヨーフェルを見ながら目を伏せる。




「だってそれって……同棲じゃ……。それに坊地くんって確かご両親がいないし……」




 何やらブツブツと言っているが聞き取れない。


 そこへ苦笑を浮かべた十時の姉が間に入ってくる。




「ねえ坊地くん、これは答えてくれないかもしれないけど、一応聞いておきたいの」


「? 何です?」


「……君のことは恋音からいろいろ聞いたわ。……学校でのことも」


「…………」


「あなたがどれだけ強い心を持つ子なのか。同じ人間として尊敬できるわ」




 一体何が言いたいんだろうか、この人は……?




「けれどだったら何故、イジめを黙って受け続けていたの? あなたほどの力があれば、人間なんてどうとだってできるんじゃないかしら?」


「ちょ、お姉ちゃん!?」


「あなたは黙ってなさい、恋音」


「っ……で、でも……」


「いいから、これはこの家を守る長女としても聞いておく必要があることなのよ」




 ……! なるほど、この人がずっと俺を警戒していた理由はそれか。




 当然の対応だろう。十時はともかく、この人とは初対面なのだ。いくら十時から俺の話を聞かされていても、実際に初めて俺を見たのは、俺が軽々とモンスターを殺すところだった。




 それに俺は自分で王坂――人間を殺したと言ったのだ。警戒するのも無理はない。むしろ警戒させるために言ったということもあるが。




「……簡単な話ですよ。学校に通っていた時には、俺にモンスターを倒せるような力なんてなかっただけですから」


「! ……じゃあこの数ヶ月で、あんなバケモノを倒せるようになったっていうの?」


「その通りです」


「それはさすがに誤魔化そうたって無理がないかしら?」


「事実ですよ。まあ、信じてもらわなくても結構ですが」




 俺と十時の姉は睨み合い、しばらく沈黙が続く。その間、十時はどうすればいいのか困惑し、ヨーフェルは静かに成り行きを見守っていた。


 すると先に十時の姉が溜息交じりに肩を竦めながら口を開く。




「仮にそれが真実だとして、あなたは普通の人間なのよね? その……実は異世界人だったとか」


「生粋の日本人ですよ。さっきも言ったように、少し前まではイジメられ続けていた情けない人間でしたね」


「な、情けなくなんてないよ! だって坊地くんは、どんなことをされても絶対に逃げたりしなかった! 一度だって学校を休んだりもしなかったもん! クラス中が……ううん、学校中が敵になっても、それでもたった一人で戦って……だから……っ」




 突然十時が興奮気味に俺を擁護し始めた。




「わたしは……坊地くんが何で急にモンスターを倒せる力を得たのかなんて分からない。でもそんなことどうでもいいの」


「恋音……」


「だって坊地くんが本当はどんなに優しい人か知ってるから。こんなこと言うと、きっと坊地くんは知った風なことを言うなって怒るかもしれないけど、わたしは坊地くんは信頼できる人だって思ってるから!」




 コイツもずいぶん言うようになったものだ。教室にいた時の、あのおどおどしていた十時はどこへ行ったのやら。こんなふうに自分の意見をハッキリ言えるような奴じゃなかったんだがな。




「……そうね、恋音ごめんなさい。それに坊地くんも」


「……いえ、守るべき妹のために警戒するのは当然でしょうから。それに俺は自ら人殺しだと言っていますしね」


「……ありがとう」




 何やら礼を言われたが、俺はただ本当のことを言っているに過ぎない。どんな理由があっても、他人であり、人殺しでもある人物を警戒するのは当然のことだ。




「だったら一つ聞いてもいいかしら?」




 まあ、質問は大体予想はついているが、俺は「何です?」と聞き返した。




「あなたはどうやって力を手に入れたの?」


「それを聞いてどうするんです?」


「私には家族を守る義務があるもの」




 なるほど。もし強くなる手段があるなら、何とか手にして十時たちを守りたいというわけか。




 さて、スキルについては教えてもいい。むしろ彼女たちがスキルを持っているのなら、その情報を得ることで購入できるようになるからだ。スキル一つだけでも高額だが、いずれば購入できるほどの財力が入れば、手数を増やすつもりではある。




 俺としてはスキルがコイツらにあってほしいが、さて……。




「……あなたたちに力があるか、それは簡単に調べることはできます」


「そうなの、坊地くん?」




 十時も興味があるようで尋ねてきた。




「ああ、調べる方法も簡単だ。たった一言――〝スキル〟と口にすればいい」


「「スキル……」」




 姉妹ともに同時にその言葉を口にした。




「どうだ? 目の前に変な文字が浮かび上がったか?」


「ううん、何もないよ?」


「私もね。スキルってあれよね? ゲームとかにあるような」




 くそ、どうやらこの二人にはなかったようだ。




「ええ、そうです。そのスキルを俺は持ってるんですよ」


「! ど、どんなのかな?」


「……身体能力が上がるスキルだ」




 俺の発言を受け、ヨーフェルの瞳が若干揺らいだが、どうやら積極的に俺の内情をバラそうとはしないでくれるらしい。




「身体能力……?」




 当然フワリとした能力なので、十時は少し分からなそうな感じで呟いていた。




「まあ、今の俺なら片手で岩を砕けるぞ」


「ええっ、凄い!?」


「この力があるからモンスターとも戦えるってわけだ」




 これなら不自然じゃないはずだ。実際にやってみせろって言われてもできることだしな。




「坊地くん、なら私たちにはスキルがないってことなのかしら?」


「恐らくは。以前俺以外にもスキル持ちがいました。そいつも俺と同じく、スキルと口にした直後に、目の前に『スキルを取得しました』的な文字が浮かび上がったらしいですから」


「なるほどね……私たちにはその力がないというわけね」




 悔しそうに下唇を噛んでいる。まあ今もスキル持ちの噂が立っていないところを見ると、やはりその数は少ないだろうし、仕方のないことなのかもしれない。




「……! もしかしてイオルちゃんの力もスキルなの?」




 俺は十時の質問に、ヨーフェルを見た。すると彼女はキョトンとして俺を見ているだけ。ああそうか、コイツには俺の言葉は通じるが、十時の言葉は分からないはずだ。




 俺がヨーフェルに十時の質問を教えてやると、「別に伝えても構わない」という許可をもらった。まあ、実際に被害に遭っている十時たちだし、説明の義務があるとでも律儀に思ったのかもしれない。




「ああそうだ。エルフっていうのは、ほとんどスキルを持ってるらしい。俺もつい最近初めて聞いたことだがな」




 答えてやると、十時は「そうなんだぁ」と少し羨ましそうにヨーフェルを見ていた。




「ねえねえ、すきるってなぁに~?」




 そこへイオルと遊んでいたまひなが近づいてきた。しかしすぐにピタリと止まって、ジ~ッと目の前を凝視し、そこには何もないはずなのに手で触ろうとする仕草を見せる。




「ど、どうかしたの、まひな?」




 代表して十時が、不可思議な行為をするまひなに問いかけた。




「えっとね、ここにね、なにかういてうの」


「浮いてる? ……! い、今まひなってスキルって言ったよね、お姉ちゃん!」


「え、ええ……! まさか!? ま、まひな、あなたの目の前に字が浮かんでるの?」


「じ~? うん、よめないけど……」




 ……コイツは驚いた。まさかまひながスキル持ちだったとは。




 いや、そういえばまひなは《翻訳ピアス》無しで、エルフであるイオルと意思疎通ができていた。あれがスキルの力だとしたら納得できる。






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