第96話 エルフ
「シキ、今すぐ円条のもとへ向かい、俺の言葉を奴に聞かせてくれ」
「しかし護衛が……」
「ソルが傍にいるし大丈夫だ。頼む」
「……承知致しました」
すると瞬く間に、第四倉庫から円条がいる第三倉庫に移動したシキは、皆がエルフに注目している間に、影に潜りながら移動し、円条の背後へとつく。
シキが小声で話しかけ、円条がこちらの思惑を察知した顔を浮かべる。
そしてシキを通じて、エルフから話を聞き出すことを指示した。
「……おほん! えーそちらのお嬢さん?」
円条が話しかけると、エルフが「え?」と円条へと顔を向ける。
「僕は――ユーリ。あなたは?」
自分を差しながら名前を口にする円条。そして最後に手をエルフに向けて尋ねた。
「ユ、ユーリ? 名前……だよな? ……私はヨーフェル! ヨーフェル・サンブラウン!」
「……ヨーフェル・サンブラウン?」
「!? そうだ! ヨーフェルだ! もしかして話が通じているのか!?」
円条と会話ができていると思ったのか、ヨーフェルと名乗ったエルフは嬉しそうに破顔する。
円条は少し待っていてほしいというジェスチャーをヨーフェルにすると、その意味が通じたのか彼女もコクコクと頷きを見せた。
「大鷹さん、彼女、ヨーフェじゃなくて、ヨーフェルって名前らしいですよ」
「円条……お前さん、その子の言ってること分かるのか?」
「聞き取るくらいなら。まあ喋れはしないですけどね」
あくまでもヨーフェルの言葉を聞いて、その意味をシキを通じて円条に教えているだけだからな。
「さすがは世界を股にかける商人だな。やっぱここに連れてきて正解だぜ。それで? 彼女は何者なんだよ?」
「あーこっちからの質問は難しいですよ。言ったでしょ。喋れないって」
「あ……そっか。じゃあどうすんだ?」
「ご安心を。言語学に精通している方に伝手がありますので。よろしければ彼女をその方のところに連れていってあげても構いませんが?」
「おお、そりゃ助かる! ……けどタダじゃねえんだろ?」
「あはは、もちろん仲介料は……と言いたいところですが、この前もお世話になりましたし、サービスしておきますよ。けれど武器はいろいろ買ってくださいね」
「わーったよ。ていうか元々はそれが目的だったしな。ほれ、これがリストだ」
円条は手渡されたリストに視線を落とす。
俺はそれを見て、問題なく提供できる代物だと判断する。
「それでは三日後のこの時刻にまたここで。お金も忘れないでくださいよ?」
「へいへい。えっと……じゃあその子を任せてもいいんだな?」
「問題ありませんよ。……てか、そんなに簡単に信じてもいいんですか、僕のこと?」
「お前さんは変人だが、クズじゃねえだろ?」
「いやいや、武器商人なんてロクな人種じゃありませんよ?」
「そう言えるお前さんだからこそ信用すんだよ。それにその子を引き取っても、俺らじゃどうしようもできねえしな。ただ彼女のことが分かったら教えてほしい」
「……分かりました。ではまた三日後に」
そう言うと、大鷹さんたちは倉庫から出ていく。
その様子を不安気にオロオロとしながら見守っていたヨーフェルだったが、
「――安心めされ」
突然影から姿を現したシキに「ひゃあっ!?」と驚きを見せるヨーフェル。
俺も何故いきなりシキが声をかけたのか分からず同じように驚いていた。
「確かヨーフェル殿と申したな。言葉が通じぬのは不安であろう。しかし安心めされるがよい。我が主はお主の言葉を理解されている」
「!? ほ、本当か!?」
「うむ。ただここにいるのは主ではない。いわゆる影武者というやつだ。案内する故、この者についていってもらいたい」
「わ、分かった!」
…………いや待て待て待て。
〝おいシキ、どういうことだ! お前と会話ができてるじゃねえか、その子!〟
〝はぁ。それがしには彼女の言葉が理解できますので〟
〝は? そうなの? だったら何で言わねえんだよ〟
〝申し訳ございませぬ。聞かれなかったものでしたから。それに殿ならば、何かしらの手段を講じて意思疎通ができるようになさるとも思っていたので〟
まあ確かに、わざわざシキが通訳するというのも時間の無駄だし、結局は《翻訳ピアス》を購入していたと思うが……。
〝まあいいか。けど何でお前には通じるんだ? 会話もできるし〟
〝それは恐らくそれがしが異世界の存在だからでございましょう。そちらにいるソルにも聞いてみてくだされ〟
そう言われたのでソルにヨーフェルの言葉が通じるかどうか聞いてみると、ソルもシキと同じく言葉が分かると返って来た。
なるほど。つまり異世界出身の奴らは、翻訳しなくても元々話が通じるということか。まあよく考えたらそれは普通のことか。
けど気になることがある。
〝何で俺とは意思疎通ができたんだろうな、お前たちと〟
〝むぅ……それは恐らく『使い魔』だからではないでしょうか?〟
購入時、人語を話せるというオプションがあるからラッキー程度にしか思わなかったが、あれは『使い魔』補正とでもいうべき特性だったのだろう。
俺という日本人に合わせて、日本語を理解し日本語を話せるようになった。そう考えて間違いなさそうだ。何とも便利な仕様ではあるが。
〝なるほどな。まあとにかく、そのヨーフェルと話がしたい。一応誰にも見られないように警戒しながら俺のとこに来てくれ〟
そうシキに命じると、言葉が分かる彼はヨーフェルを誘導し第三倉庫へと連れてきてくれた。
俺は目前に立つエルフを、思わず見入ってしまっていた。
モニター越しでも美形であることは分かっていたが、こうして直接見るとまた各段の美しさだ。
それこそ本当にゲームからそのままエルフが飛び出てきたような感じ。
しかも女性としても魅力的で、顔立ちだけではなく豊満な胸にくびれた腰。すらりと長いモデルのような足を持つ彼女は、まるで神が手ずから造り上げた芸術品のように思えた。
「……あ、あの……」
「! ……ああ、申し訳ない」
俺が沈黙したまま彼女を見つめていたので、どうやら不安にさせてしまったようだ。
「初めまして、ですね。俺は坊地日呂といいます」
「!? 言葉が……分かる!? わ、私はヨーフェル! ヨーフェル・サンブラウンっていう!」
「ヨーフェルさん……でいいですか?」
「別に呼び捨ていい。敬語も必要ないぞ」
「……じゃあ俺のことも好きに呼んでくれヨーフェル」
「う、うむ……えと……ボーチ?」
あ、そこで苗字をチョイスなのね。まあ別に構わないが。
「さて、君のことを聞かせてほしいんだけど。君は……こことは違う世界の住人なんじゃないのか?」
「…………多分」
「多分?」
「実は――」
彼女が言うには、いつものように住んでいた森で山菜を取っていた時、突然目の前が真っ白になったと思ったら、見知らぬ森の中に立っていたのだという。
当然慌てた彼女は、すぐに森から出ようとするが、出られず遭難していたところに大鷹さんたちと出会ったらしい。
「……君が住んでた森っていうのは?」
「【フェミルの森】――世界樹ユグドラシルの恩恵を受けた森だ」
うわぁ……まんまファンタジー用語が出てきたんだが。
「世界樹ユグドラシル……ね。少なくともそんな名前の木はこの世界には存在しないよ」
「あぁ、やっぱりそうなのだな……。見たことのない建物や乗り物ばかりだったから、もしかしたらって思ってはいたが……」
ここが地球で日本という国だと告げる。そしてヨーフェルが目にしたほとんどのものは、科学の発展により生まれた存在だということも教えた。
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