第89話 無人島購入

「……本、ですかな?」


「本、だな」


「……デカイですな」


「デカイ、な」




 取り出したる本は、普通の本と比べても別格に大きい。


 何といっても、縦三メートルに横幅が二メートルあるのだ。


 それが目の前でフワフワと宙に浮いているのだから不思議でしかない。




「ここに乗るんだ。ほら、シキも」


「しょ、承知」




 さすがのシキも、少し不安気な様子で本の上に乗った。


 あとは俺の意思で次第で、自在に空を飛行することができる。




 これが――《ジェットブック》。空飛ぶ本である。




「…………何故本なのですかな?」


「何でなんだろうな……」




 それはまったくもって俺にも分からない。まあとにかく、こうして空を自在に動き回れる移動手段が手に入っただけで俺は満足だが。


 ただ一億もしたので、結構な出費にはなった。




 しかしその気になれば、これは盾としても有効活用できるらしく、そう考えれば重宝できる代物だ。


 俺はそのまま本の上に腰を下ろすと、




「じゃあ飛ばすからな」




 そう言うと、シキは俺の後ろにピタリとつく。


 すると本が飛行を開始し、徐々に速度を上げていく。




 説明によると、その名の通りジェット機のような速度で進むことができる。しかも乗っている者は、風の影響などを受けない仕様になっているという不可思議アイテム。さすがはファンタジーとしか言いようがない。




 時速でいうと800キロから900キロくらいの速度だ。本来なら当然本の上から吹き飛ばされる速さである。


 耐えてても間違いなく息はできねえだろうし、髪の毛とか全部抜け落ちそうだよなぁ。




 それどころか皮膚全部が持っていかれるかもしれない。


 気が付けばスケルトン。嫌な死に方である。まあさすがにそんなことは起きないだろうが。




 俺はまったく風圧を受けずに、物凄い速度で小さくなっていく与那国島を後にする。




「これは方角的にはどちらへ向かっているのですか?」


「一応東だな。このまま南に行くとフィリピン方面だし、そこからできるだけ離れたい」


「……では最初からもっと東の方から出発した方が良かったのではありませぬか?」


「…………いや、ほら、せっかくだから沖縄に来てみたかったというか、な」




 正直勢いのままに来てしまったとしか言えない。


 確かに考えてみれば千葉とかそっち方面から出発した方が、確実に効率は良かった。




「ま、まあ滅多にできねえ空の旅だし。こういうのも良いじゃんか!」


「そうですな。それがしは殿が楽しければそれで満足なので」




 ああ、本当に良い奴。『使い魔』はマジで最高だわぁ。




 多分人間だったら、白い目で見られるようなところも、コイツやソルなら否定せずに温かい目で見てくれる。




 ……時々ツッコミが欲しい時もあるが、それは彼らの気質上仕方ないと諦めている。












 しばらくただただ東へ突き進んでいたところ、周りにはもう何一つない真っ青な水平線だけが広がっている場所までやってきた。




「ここらでいいだろ。それじゃ購入した無人島を取り出すか」




 俺は《ボックス》を開き、無人島を取り出した。


 するとゲーム感覚みたいに、目の前にあたかも最初からあったかのように設置された。




「「おお~!」」




 思わず俺とシキは二人して感動の声を上げた。


 海岸線には白い砂浜や岩礁などがあり、草原エリアや森エリアなどがあって、実に開拓のし甲斐がある。




「それにしても結構な規模ですなぁ」


「まあな。大体六千坪だ」


「六千!? それはまた豪快な……」




 ただこれだけの規模で二億というのは安い方だった。




「いいないいな、何だかこうワクワクしてきたわ」




 まるで一国の王にでもなった気分だ。この島丸ごとが自分の領域だと思うと、やはり男心を十分に揺さぶってくる。




「まずは中を探検だな」




 ゆっくりと飛行しながら無人島を見て回っていく。


 森に入ると、見たこともない木々や草が茂っている。




 異世界の島を購入したということもあって、地球上には存在しえない植物ばかりだ。


 中にはリンゴに似た果実を実らせている木や、ヤシの実に似た木なども生えている。草や花もどれも図鑑では見たことがないものだらけ。




 さすがに六千坪となると広々としていて、どうせなら見晴らしの良い場所に自分の住む場所を作りたい。


 そういうことで、山のように高台になっている草原エリアへと足を踏み入れた。




「うん、こっからなら海も見えるし風も気持ち良い。ここに家を建てるか」


「家もご購入されたのですか?」


「いいや、家は――コレだ」




 それは以前ボックスに収納した元々住んでいた実家だった。




「何かすげえ違和感があるけど、まあ……俺の島だしいいだろ」




 無人島の草原にポツンと一軒家というのは、非常に不可思議な光景に見えるが、それもまた味があると思って良しとした。




「さて、あとはコレなんだがなぁ」




 そう口にしながら手にしているのはダンジョンコアである。


 ダンジョンを造りたい場所にコアを設置するだけでダンジョン化することができるらしい。




 しかし分かりやすい場所にコアを置くのは危険だ。外敵から容易に手が出せない場所に設置する必要がある。




「となると……やっぱりコアモンスターの方が良いかもなぁ」




 動けて身を守ることもできるモンスターの方が何かと都合が良い。




「えと……そういう場合どうすればいいんだっけ?」




 コアの説明を思い出しながら「ああそうだった」と声を上げ、コアをそのまま地面に置いた。


 すると目の前に〝コア設定を行いますか? YES OR NO〟と出たので、〝YES〟を押して指示通り進んでいく。






〝コアモンスターを設置しますか? YES OR NO〟






 当然〝YES〟を押すと、次にモンスターの選択肢がずらーっと出てきた。


 さすがにSランクはいなかったが、AランクからFランクまで幅広いモンスターを選択することができるようだ。




 しかし俺の目に留まったのは、あるモンスターである。


 そのモンスターにコアモンスターとして設定すると。




 ――ボボンッ!




 目の前にそいつが現れた。




「こ、こやつは……!?」




 反射的に警戒態勢を取るシキ。まあ仕方がないだろう。


 何せつい先日、命の奪い合いをした相手なのだから。




「グラララララ……」




 身の丈十メートルを有し、真っ黒なボディ、両手には二本の金棒を所持している。




 そう――ブラックオーガだ。




「コイツの実力は言うまでもねえしな。コアモンスターとして立派に仕事してくれるだろ」


「なるほど。確かにこやつなら申し分なさそうですな」




 攻防に優れた現段階で最強のコアモンスターである。


 しかしシキならもっと強いのではと思うだろうが、コアモンスターはダンジョンから離れることができない。




 彼にコアを与えたら、また新たに護衛役のモンスターを購入する必要があるのだ。それは少し勿体無い。






〝モンスターを設置しますか? YES OR NO〟






 次にダンジョン化した無人島に徘徊するモンスターを選択するようだ。


 俺は選択画面を見ながら、目の前に次々と選択したモンスターを出現させていく。




 ダンジョンモンスターは喋ることができないが、俺の言葉を理解することはできるらしい。




 なので……。




「よーし、お前らにはこれから無人島の開拓を行ってもらう。漁を行える環境作りや、畑作り、家作りなど様々だ。だがお前らにはそのノウハウはねえ。ということで――出て来い」




 俺は《ボックス》を開き、ある〝存在〟を取り出した。




 白煙とともに俺の前に出現したのは――。






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