第88話 アップロード

「う~ん……う~ん…………う~ん」




 俺は今、福沢家で自身に与えられている部屋のベッドの上に座り込み、〝SHOP〟の画面を見て唸っていた。




「どうかされたのですかな、殿? 先程からずいぶんと悩まれているご様子ですが」


「シキ……まあな」




 俺の護衛役として購入した『使い魔』のシキが、心配そうに声をかけてきた。普段彼は俺の影の中に潜み、いつ何時でも俺を守れるように傍にいるのだが、今は外へと出てクナイやら手裏剣やらの手入れをしていたのだ。




 ちなみにもう一体の『使い魔』であるソルは、情報収集のために空の散歩である。




「何かまた新たな商売でも思いつかれましたかな?」


「いや、そういうんじゃねえよ。ほら、前にも言ったろ? 無人島を買って、そこで悠々自適に暮らすって」


「そういえば仰ってましたな」


「金も結構あるし、そろそろ本格的に引っ越しを考えようかって思ってな」


「つまりここを出て行かれるということですな。ということは無人島を購入すると」


「その無人島のことで悩んでるんだよ。どんな規模で、それにどこに無人島を設置すればいいのか……とかな」


「なるほど。しかし日本であることは間違いないのですよね?」


「それもなぁ……特にこだわりはねえんだわ」


「そうなのですか? しかしあまり遠くに設置すると、商売を続けるのに些か面倒ではありませんか? それとも今まで行ってきた商売は止めると?」


「いいや、金は幾らあってもいいからな。これまでみたいに積極的に商売を続けていくことは減るかもしれねえけど、お得意様とは繋がっておくつもりさ」




 悠々自適とはいっても、生活していくには金がかかるし、完全無欠の生活が保障できるまでは商売は続けるつもりだ。




「それについては便利なもんが……アップされたんだけどよ」


「あっぷ? あっぷとは何ですかな?」


「ああ、実はこの《ショップ》スキル、面白い設定があってな。時々それまでになかった商品がアップロードされてたりするんだよ。極めつけは……コレだな」




 俺はジッと画面を見つめ、思わずニヤリと笑みを浮かべる。


 そこには〝スキルの種〟と書かれているのだ。




 そして売りに出されているのは《衝撃》と《腐道》の二つ。


 今までスキルの欄など無かった。しかし最近確認してみると、新しい商品としてアップロードされていたのである。




「スキルまで購入できるとは、さすがは殿。感服致します」


「まあ、バカ高いけどな」




 《衝撃》は五億。《腐道》にいたっては十五億と信じられない額である。




 調べてみると《衝撃》は普通のスキル枠だが、《腐道》はユニークスキル枠なのだ。


 俺の《ショップ》と同じ枠。そりゃ高いわけである。




 スキルが増えるのは嬉しいが、さすがに今手を出せる金額じゃない。


 いずれ余裕が出たら購入を考えても良いが。




 しかしまだ二つだけしかアップされていない。このことから推察するに、恐らく俺が実際のこの目で見たスキルしかアップされないのではなかろうか。


 何せ先日の攻略直前までは、スキルのアップは存在していなかったのだから。




 ということは、これからもスキル持ちと出会うと、その都度アップされるというわけだ。これは楽しみになってきた。




「便利なものというのはスキルのことですかな?」


「いや、俺が言ってるのはこの――《テレポートクリスタル》。略してテレクリだな」


「テレクリ……なるほど」


「いや、今俺が初めて作ったんだけどな」


「…………なるほど」




 まるで前からあるかのように言ってしまったので、一応勘違いさせないように言っておいたが、何だか変な空気が流れたので咳払いをして続ける。




「これがあれば、どこにいても一度行ったことがある場所ならテレポート……つまり瞬間移動することができるんだよ」


「おお、ではどこに無人島を設置したとしても、商売をしたくなったらいつでも日本へ戻って来られると」


「そういうこと。だからあとは無人島の購入と設置場所なんだけどなぁ。特に設置場所だ。できれば波も気候も穏やかで、凶暴なモンスターがいない場所が良い。ほら、せっかく手に入れた無人島が壊されたりするのは嫌じゃんか」


「確かに。それに環境が激しいところでの生活は苦しいものですからな」




 となればやはり南方になるかな……。




「ただ環境で無人島が壊されたくないのであれば、先日手に入れた例のアレを使ってはいかがですか?」


「先日?」


「はい。――ダンジョンコアでございます」


「! ……コアか」


「ダンジョン化すれば、コアさえ破壊されなければダンジョンは壊滅致しません。壊れた場所があっても、時間を置けばすぐに修復するようですし、死んだモンスターがいてもリスポーンします」


「……それは確かに便利だな」




 失念していた。ダンジョンという存在は、コアさえ無事なら無敵なのだ。




「う~ん、できれば十億で売れるから、そっちでも良かったんだけどな。拠点の安全性を考えると、使っちまった方が賢いかもしれねえ」




 コアは十億という大金で売却することができるので、使ってしまうのはかなり心苦しいがシキの言う通り、ダンジョンを拠点とする考えは捨てがたいものだ。




「…………よし! ここはシキの提案に乗るとするか」


「よいのですか? それがしはただ思うままに口にしただけなのですが」


「はは、いいんだよ。お前の考えはきっと正しい。拠点を得られても脆かったら意味ねぇし。ダンジョンなら周囲の環境がどんだけ激しくても関係ねえだろ? ナイスアイデアだぞ、シキ」


「ありがたきお言葉。ではさっそく?」


「おう。大体の設置場所の候補はあるからな。今からそっちに向かう」


「ソルはどうされますか?」


「あー《念話》が届かねえってことは、結構遠くまで情報収集に行ってるってことだしな。……まあ、アイツにはあとで報告してやるってことで」


「分かりました。ですが南方へとどうやって向かわれるので?」


「それはさっきも言ってた……コレだ」




 俺は《ボックス》からサファイアのような輝きを持つ菱形の石を取り出す。




「むむ? それは……」


「――《テレポートクリスタル》。コイツを手に持って、一度行った場所を思い浮かべながら……」




 俺はそう言いながらシキの身体に触れて、




「……砕く」




 手に持っていた《テレポートクリスタル》を握り潰した。


 すると目に見えていた景色が一瞬で変化し、目の前には広大で青々とした海が広がる。




「こ、ここは……っ!?」




 シキが驚くのも無理はない。


 足元には白い砂浜に、振り返ると断崖絶壁が見える。




「驚いたろ? ここは沖縄の【与那国島】だ」


「よ、よなぐに?」


「日本の最西端の島だな」




 飛行機で那覇から約90分、石垣島からでも30分ほどかかる絶海の孤島である。




「もっとガキの頃にな、親父に連れてきてもらったことがあったんだよ。親父は旅好きでな。いろいろ連れ回されたっけなぁ」




 小さい頃、日本のいろいろなところに半ば強制で観光させられた。北は北海道から南は沖縄まで。ただ外国は無い。親父は日本語が通じないところは落ち着かないということで、一度も行った経験はなかった。




「まあそれでもこうしてあの経験があったから来ることができたんだけどな」


「はぁ……ここが沖縄。確かに聞いた話の通り、暑い場所ですな」




 シキが頭上に燦々と輝く太陽を見ながら溜息を零す。




「それで殿、このあとはどうされるのですか?」


「こっから登場するのも、新しくアップロードされた商品だな。……よっと、コレだ」




 俺が再度 《ボックス》から取り出したのは――。




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