第75話 凶悪な門番たち

「こっちなのです!」


 俺たちはソルのあとについていき、一つの穴へと突き進んで行く。

 待ち構えているモンスターは、ソルが一掃してくれるものの、さすがにダンジョンというのはそれだけじゃない。


 ――カチッ!


 踏み出した一歩が、ガクンと沈み込んだ。まるで何かのスイッチでも押したかのように。

 するとゴゴゴゴゴという音とともに目の前から巨大な岩が迫ってきた。


「ああくそっ、ベタな演出しやがってぇっ!」

「さ、ささささ才斗さん!? ど、どどどどどうするんですかぁ!?」

「チャケ、お前は後ろにいろ。あんな岩ごときこの俺が――」


 岩くらいなら俺のスキルを使えば何とかなると思った矢先、


「ぷぅぅぅぅっ!」


 疾風迅雷のような動きで、転がって来る巨岩に向かって突っ込むソル。


 あっさりと岩の中心を貫き反対方向へ飛び出ると、そのまま方向転換をして何度も何度も岩を貫いていく。

 そうして瞬く間に岩は穴だらけとなり、自重を支えられなくなって崩れてしまった。


「「…………」」


 いや、もう……何だかなぁ……。


 一瞬攻略はもうコイツ一匹で十分じゃね、と思ってしまった。


 ああいやいや、何を言ってんだ俺は!? これは俺と流堂の勝負なんだ! 俺が決着をつけねえと!


「す、すげえなソル、罠があってもお前には意味ねぇじゃねえか」

「ぷぅ! もっと褒めていいのですぅ!」


 実際ソルなら罠があったとしても自力で乗り越えることができるだろう。落とし穴にも落ちないだろうし、矢が飛んで来ても避けることができる。さっきの岩のような障害だってソルに通じない。


 いや、そもそも罠にかからないだろう。だって空飛んでるし……。赤外線センサーとか設置されていたら別ではあるが。


 ……ただ一つ気になっていることはある。


「? 何か神妙な顔つきですけど、どうかしたんですか才斗さん?」

「……いや、何でもねえよ」


 チャケにはそう言って誤魔化す。必要以上に不安にさせたくなかったからだ。

 気になっていること、それは流堂のゾンビたちを見かけないことである。


 ソル曰く、ここにも流堂の手下たちは入ったはずで、ゾンビ化したという情報も聞いていた。

 なのに今まで一人も遭遇していないのが気になったのだ。


 全員モンスターに殺されたのか、はたまた罠にでもかかってしまったのか。

 それくらいしか理由は思いつかなかったが、全員がこの短時間で消失しているという事実がどうも違和感しかなかった。


 ……まあ今は考えててもしょうがねえ。まずは目的地に辿り着かねえと話にならねえからな。


 そう判断し、先を急ぐことにしたのである。

 しばらく走ると、ソルから「もうすぐなのです!」という声とともに、穴の出口が見えてきた。


 そして出口を通過すると、そこには少し広々とした空間があった。

 同時に突き当たりには、今まで確認したことがないほど大きな赤い扉が存在感を示し、その両脇には二体のモンスターが立ち塞がっている。


「どうやら情報通り、あのモンスターどもが門番みてえだな」

「ですね。にしても……強そうです」


 チャケの言う通りだ。見た目からして、できれば近づきたくないほどの威圧感をしている。

 まずその体格。軽く五メートルくらいはある。一体は全身が青色をして腰布一枚身に着け、その手には巨大な金棒を握っていた。


 そしてもう一体は、見た目は同じだが全身は真っ赤な色に染め上がっている。

 二体とも総じて凶悪な顔をしていて、物語に出てくるような鬼に見えた。


 ソル曰く、ジャイアントオーガと呼ばれるBランクのモンスターらしい。しかもBランクの中でも極めて上位の強さを誇り、さすがのソルでも一人では相手を仕切れないとのこと。


「ソルでも無理となると才斗さん……俺はマジで足手纏いっすね」

「チャケはそこにいろ。アイツらは俺とソルでやる。いいか、ソル?」

「あなたの支援がソルの任務なのです。ただ……」

「ん? ただ何だ? 心配事か? アイツらを倒しゃ攻略終了なんだろ?」

「むぅ……」


 何やらソルには気になることがある様子。


「どうもあの二体のうちのどちらかがコアモンスターとは思えないのですよ」

「は? アイツらを倒したら、あの扉が開いて、その中にはコアがあるってことじゃねえのか?」

「それじゃコアモンスターとは言わないのです。コアモンスターとは、その名の通りコアそのものを身に宿したモンスターのことなのですよ」

「……じゃあ今回はコアモンスターじゃなくて、あの扉の奥にあるコアを破壊して攻略するパターンなんじゃねえの?」

「……しかしご主人の見解だと、こういう大規模なダンジョンの場合、必ずコアモンスターがいると」

「ならあれか。ゲームでもよくある、アイツらを倒したら真のラスボスが登場ってな感じか?」

「確かにそういうゲーム、ありますもんね。やっとボスを倒したと思ったらまだいたっていうパターン。回復薬使い過ぎてもう無いのにどうすんだっていう」


 そうそう。あるいはようやく倒したボスが変身するパターンとかな。あれもう卑怯じゃね? 変身して全回復してるってどういうことだって話だ。それまで受けていたダメージはどこにいったんだよ。


 ああいや、今はそんなゲームあるあるどうだっていいんだ。たとえ今俺たちが言ったような状況が起きたとしても、結局はまずあの二体を倒す必要があるのは確かだから。


「ソル、あっちの赤い方を任せてもいいか?」

「お一人で大丈夫なのです?」

「……ま、何とかなるだろ。こちとらスキル持ちだ。そうそう簡単に殺られはしねえよ」


 虎門が流堂たちを抑えている間に、できれば事を終えておきたい。

 俺とソルは、意を決して飛び出しジャイアントオーガに向かって突っ込んでいく。


 先に攻撃がヒットしたのはソルだ。弾丸のように飛行するソルは、そのまま赤いジャイアントオーガの腹を見事に貫いた。


「グガァァァァァァッ!?」


 当然激痛に顔を歪めながら声を上げる赤いジャイアントオーガ。ソルは奴が臨戦態勢に入る前に仕留めるつもりなのか、先程の巨岩と同じように体中に風穴を開けようと迫っていく。


 ――だが。


「グガァッ!」


 ソルの動きを捉えているのか、手に持った金棒を盾にしてソルの攻撃を防いだのである。

 金棒の強度を貫くことはできなかったようで、ソルはすぐさまジャイアントオーガから距離を取って睨み合う。


 大ダメージを受けたように見える赤いジャイアントオーガだったが、傷口が収縮して出血が止まる。

 再生……ではないが、恐らく全身が筋肉の塊なのだろう。筋肉を収縮させて血止めをしたのである。


 さすがはソルと同じBランクのモンスター。致命傷に思える一撃も、あっさりと耐えてみせた。

 すると赤いジャイアントオーガが、怒りの咆哮を上げながら金棒を振り回しソルを叩き落そうとし始める。


 的が小さく素早いソルは、なかなか捕まらないが、金棒の一振り一振りの威力が凄まじい。

 空振りをしても、その風圧だけで地面が軋み、攻撃が少しでも壁や地面に触れると大きな破壊を生んでいる。一撃でも受けたら人間など文字通りミンチになってしまうことだろう。


 そんな中、青いジャイアントオーガが、赤いジャイアントオーガの手助けに向かおうと歩み始めたその時、


「――《空破》!」


 俺が放った衝撃波が、青いジャイアントオーガの顔面に命中し、一瞬顔が跳ね上がった。

 だが大したダメージにはなっておらず、平然と攻撃した俺を睨みつけてくる。


「どこ行くつもりだ? お前の相手は――俺だ」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る