第67話 崩原の力
ソルからの情報だと、流堂勢力は、やはり幾つかの部隊に分けて、迷宮化した建物へと突き進んでいるようだ。
流堂は手下に持って来させたのだろう、黒塗りの椅子に腰かけてティーパーティと洒落込んでいる。
まず本命のコアモンスターが見つかるまでは動くつもりなどなさそうだ。
まさに人海戦術。圧倒的な数がいればこそなせる戦法である。
実際に俺たちと比べると一目瞭然の人数差だ。
一部隊に振り分けられているのは約五十人ほど。そんな集団が五つもある。
迷宮化した建物は全部で五つなので、それらで調査しようという魂胆だ。
しかも全員が何かしらの武器を持っている。中には銃を携えている者たちもだ。
恐らくはモンスター相手にどう戦うのかを流堂から教授されているのだろう。
モンスターを発見すると、即座に銃持ちの連中が前線に立って発砲し、それで殺せるならOK。
しかしダメでも、まずは足を狙い機動力を奪ったあとに、今度は大型の武器(斧やハンマー)などで頭蓋を打ち砕いていく。それでも勝てそうにない相手だと、数人が囮となってモンスターを引き寄せ、その場から遠ざけたのち、残った者たちが攻略を進めていく。
流れるような動きを見ると、相当訓練させられたことが伝わってくる。
俺はソルから情報を聞き出しながら、彼らの手腕に少し感嘆していた。
ただの物量押しで来ると思いきや、できる限り最善の動きを手下たちにさせている。弱い人間たちでも、何とか戦っていけるやり方に違いない。
流堂……崩原をハメた件といい、今回の攻略方法といい、力に狂ったただのバカじゃなさそうだ。少なくとも、あの王坂よりは厄介な人物ではある。
〝……ソル、もう殲滅に動いていて?〟
〝いえ、今から行うつもりなのです〟
〝一旦中断しなさい〟
〝……? 中断なのです?〟
〝ええ。どうせなら奴らを利用するわ。コアモンスターを発見したところで、すぐに討伐できるような相手ではないはずよ。本命を見つけたら、すぐに情報が流堂と行くのは間違いないでしょうから、その時に動きなさい〟
〝つまり奴らにコアモンスターの居所を掴んでもらうってことなのですね〟
〝そうよ。卑怯な手段でこちらの情報を奪われたのだもの。だったらこちらもやり返すのみよ〟
俺はそう判断し、その考えを崩原にも伝えた。
「けどよぉ、それだと確実にアイツの後追いになりゃしねえか? 先に攻略されちまうかも」
「安心しなさい。その時はソルにもついて行ってもらうから。もし危ないようなら、ソルに流堂を足止めさせれば問題ないわ」
「あーなるほどなぁ。……黒いな、お前さん」
「その程度の策は当然行うべきよ。悪一文字を背負っているくせに、少し真っ直ぐ過ぎないかしら?」
「うぐっ……うっせえな!」
そもそも見た目は確かに怖そうなイメージがあるものの、言動はまったくといっていいほど悪に寄っていない。元々そういう気質などまったくないのだろう。
チャケが言っていたように、悪を背負っているのは、過去に犯した自分の罪――恋人を死なせてしまったことと、親友を変えてしまった事実に起因しているのだ。
そうして悪を背負うことで、自分は決して報われて良い人間じゃないと戒めているのかもしれない。
「じゃあそれまで俺らは何しとくんだ?」
「……待機ね」
「……暇なんだけど」
「我慢しなさいな。それとも無駄に体力を削る方が良いのかしら?」
「……わーったよ」
「結構。ただ待機といっても――」
俺が視線を向けた先から、ラミアと呼ばれるDランクのモンスターが、こちらに感づき二体迫ってきた。
「――こういう輩はやってくるのだけれど。……シキ」
俺の影から飛び出てきたシキ。
その動きはまさに神速の如し。一瞬にしてラミア二体の脇を通過して、奴らの背後に渡ったかと思いきや、ラミアたちの身体が真っ二つに切断された。
「す、すげえ……!?」
「……ですね。ていうか才斗さん、あんなモンスターを従えてる虎門は、もっと強いんじゃ……」
崩原とチャケがそれぞれ愕然とした表情で俺とシキを見ている。
「残念だけれど、私はそこまで強くないわよ。ただ――」
そこへ真っ二つにされたはずのラミアの一体が、上半身だけで跳び跳ねて俺へと向かってきていた。
――ズシュッ!
俺は愛刀――《桜波姫》を抜き、迫って来ていたラミアを縦に分断してやった。
「――この程度なら、私でもわけはないけれどね」
「「…………」」
どうやら俺の強さもまた想定外だったようで、崩原たちは唖然としてしまっている。
「姫、お見事でございます。しかし仕留め切れていなかったようで申し訳ございませぬ」
「ふふ、問題ないわよ。それにいつでも殺せるように身構えていたでしょう?」
俺が刀を抜かなければ、即座にシキが動いていたのは明白だ。ただ俺が動いたことによって、その動きを尊重してくれただけの話。
「しかし身体を真っ二つにされてもまだ生きているなんて。驚くべき生命力だわ」
「はい。ですが次はこうはいきませぬ。二度と立ち上がれないように細切れにすれば良いだけですので」
本当に怖いほど頼もしい《使い魔》である。これからも存分に働いてもらおう。
「お前さんら……特にシキってのはレベルが違うみてえだな」
今の動きで、シキがどれほどのものか理解できたのだろう。到底人が何の武器もなく戦える相手ではない。たとえ銃弾でも見切って回避できる反射速度もあり、身体の硬度だって人間とは比べ物にならないのだ。
「それに虎門も強え。これは俺も負けてられねえな」
自分の拳と拳を突き合わせてやる気を見せる崩原。そういえばコイツの強さはどの程度のものだろうか。
ケンカは強そうだから、人間の中ではそこそこ力のある奴だと思うが。
「そういやあ、まだお前さんにも教えてなかったけどよぉ。俺たちばっか驚くのもあれだし、今度は逆にお前さんをビックリさせてやっからな」
驚く? さすがにソルやシキの存在を超えられるような事実は持っていないだろう。
それでも何かしらの自信が見えるので、少し興味は湧いた。
「ちょうどいい。あそこでウロついてる豚のバケモンを始末してやっからよ」
彼の視線の先にいるのはオークだ。しかもただのオークではなく、その上位種のブルーオークである。全身が青色で、普通のオークと比べて一回り大きいのが特徴だ。ちなみにランクはD。
「あれはゴブリンや普通のオークよりも強いわ。もしかして一人でやるつもり?」
ラミアと同等の強さを持っている上、単純な力においては人間を圧倒する。見たところ崩原は武器らしいものは持っていない。まさか素手で相手をするというのだろうか。
「あったりめえだ。ケンカってのは基本タイマン! まあ見てろ」
そう言いながら威風堂々とした様子でブルーオークの方へ近づいていく。
「……仕方ないわね。シキ、いつでも援護できるようにしておきなさい」
「はっ、仰せのままに」
シキが警戒しているなら、最悪なことにはならないだろう。
それにしても、あの自信は一体どこから来るのか……。
そして崩原の接近にブルーオークもまた気づいたようで、その手に持っている斧を強く握りしめると、鼻息荒くしながら崩原へと駆け寄ってきた。
体格はブルーオークの方が二倍以上も上。まともに接近戦など普通はできないが……。
それでも崩原は臆することもなく、どういうわけかスタンスを広げ相手の攻撃を受け止めるような仕草をする。
おいおい、まさか避けねえつもりじゃねえよな!?
いくらなんでもそれは無茶だ。さすがの俺でも、まともにブルーオークの攻撃を素手で受けるなんて無理だし。
「ギギィィィッ!」
ブルーオークが、右手に持った斧を振り被り、崩原の頭上へと振り下ろす。
咄嗟にシキが奴の腕を切断しようと動くが――。
「――《第一衝撃・
その場で空手の型を見せるように、綺麗な正拳突きを繰り出した崩原。しかしリーチは足らず、拳がまったく届いていないので、第三者から見ればとてもマヌケに見えてしまう。
――だが。
「グギャァァァッ!?」
突如、ブルーオークがその場から吹き飛んだのである。
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