第66話 攻略開始
「…………いまだに全部理解できたわけじゃねえが、つまりそいつらは味方ってことなんだな?」
「端的に言えばそういうことよ。そして……人間なんかより遥かに強い力を持っているわ」
「……ちなみにどの程度だ?」
「そうね……この子、ソルだけでもこの街の人間たちを殺し尽くすくらいはワケないわ」
その言葉に、愕然とした様子でソルを見つめる崩原。
見た目は小さなフクロウだし、その反応も納得だ。実際モンスターには見えないし、木の棒なんかで叩けば、すぐに殺せると思ってしまうだろう。
「ソル、見せてあげなさい」
「はいなのですっ!」
ソルが俺の肩から飛び上がると、そのままコンクリートの壁へと突っ込み、そのまま貫通させながら蛇行し、幾つもの穴を作り上げていく。
その様子を、またも絶句して崩原が見ている。
やっぱそうなるよなぁ。俺もいまだに、あのフワフワモコモコの身体をしたソルが、何であんなことができるのか不思議だもんな。
しかも穴の周りには無駄な破壊が一切ない。つまり一点に凝縮された力の凄さを目にしているということだ。
「ソル、最後よ!」
「ぷぅぅぅぅ~っ!」
俺の指示で、ソルが口から炎を噴き出す。それはコンクリートの壁を一瞬で包み込み、みるみる溶解させていった。
「ソル、見事な動きだったわ」
「えっへんなのですぅ!」
再度肩の上に戻ってきたソルは、褒めて褒めてと胸を張っている。
「どうかしら?」
「どうってお前! うちの壁に何てことすんだよ!」
「あ……失念していたわね」
「失念って……まあ別にいいけどよぉ」
いいのかよ。ちょっとやり過ぎた感があったので謝ったのに。
「ちなみに影の中にいるシキは、このソルでも敵わないほどの手練れよ」
「マジかよっ!? ……弾丸のようなスピードで飛ぶ上、火まで吹くフクロウに、そのフクロウすら勝てない忍者っぽい奴……マジでマジか……」
どうやら語彙力がなくなるくらいに驚愕しているようだ。
「あなたは運が良いわよ、崩原さん。向こうがどれだけの人を集めようが、こちらには一騎当千を上回る存在がいるんだもの。これでも――不安かしら?」
「! ……いいや、頼もしいぜ。なあチャケ!」
「はい! 彼女に声をかけて正解でしたね!」
これで崩原の士気は最大限に上がっただろう。裏切りのせいで落ち込んだテンションだって戻ったはず。
あとは実際に攻略に臨んでいくだけ。
「この仕事が終わったら、お前さんにはいろいろ聞きたいことができたぜ」
「あら、もしかして口説いているのかしら?」
「くどっ!? そ、そそそんなんじゃねえしっ! ただお前さんの一族とか、そういうことに興味があっただけだからな!」
うわぁ、反応が童貞くせぇ……。ていう俺もそうなんだけどさ。でもコイツほど素直というか単純じゃねえとは思う。
「それよりも話を進めてほしいのだけれど?」
「うっ……わーってるよ。俺らは残念ながら数は少ねえ。例の迷宮化した建物だっけか? 手分けして調べたいところだが、これ以上人員を割くのもリスクが高え」
それは言えてる。さっきも心配したように、一度入ったらなかなか出られないような場所だと困ってしまう。
「そこで俺らは全員で行動することにした。そうして一つ一つ怪しい建物を攻略していく。何か異論はあるか?」
チャケは「ありません」と即座に首を振った。二人の視線が俺へと向く。
「一つ提案なのだけれど、この子……ソルには流堂の動きを追ってもらうというのも良いと思うわ。もしくはそのままこの子に彼らを殲滅させるということもできるしね」
先に流堂を潰せば攻略もゆっくりすることができるし楽だ。
「…………そうだな。奴の手下どもなら好きにしてもらっても構わねえ。こっちとしちゃありがてえことだしよ。けど、流堂の奴にだけは手を出さないでくれるか?」
「理由は?」
「アイツとは俺自身が決着つけなきゃならねえんだ。いや、つけてえんだよ」
「甘いわね。そういう考えは足をすくわれるわよ?」
「かもしれねえ。でもこの勝負自体、アイツと俺の因縁が招いたことだ。全部お前さんにおんぶに抱っこじゃ、何ともカッコ悪いじゃねえか」
……くだらない価値観だな。
そう思うこともできる。勝負なのだから勝つために全力を尽くした方が良いに決まっている。
負ければすべてを失うならなおさらだ。
ただずっとライバルだった相手と自らの力で決着をつけたいという男心も分かる気がする。
「それで負けてもいいわけね?」
「はっ、負けねえよ。こっちにはお前さんだっている。俺を勝ちに導いてくれるんだろ?」
「女にビクトリーロードを作らせるわけね。まあいいわ。その分、報酬は上乗せさせてもらうから」
「ああ、幾らでも払ってやるよ。どうせこの世じゃ金なんか必要ねえしな」
それでも今後のことを考え、ある程度は金品も保管しているというのだから抜け目がない。さすがは組織のトップに立っている人物ということだろうか。
「そういうことよ、ソル。あなたは攻略が始まったら流堂のところへ飛び、彼の周りを排除していきなさい。そうね……ダンジョントラップに嵌まってしまったかのように見せられるならその方が良いわ」
「あん? それは何でだよ?」
「決まっているでしょう。何もかも思い通りにできると思い込んでいる男なのよ。きっとダンジョンを甘く見ているに違いない。この世には理不尽で不条理なことが起きることを突きつけてやるわ。本当の暴力がどんなものなのかを、ね。フフフフ……」
「こ、怖えよお前! つか、そんな性格だったんだな! 流堂みてえな奴に恨みでもあるのかよ!」
おっと、いけない。ついつい素が顔を覗かせてしまったようだ。
自分が世界の中心。弱者は挫き利用する者。見下すことしかできない輩を見ると、やはりどうも感情的になってしまいがちだ。
「ソル、頼むわね」
「畏まりましたなのです! ソルは、立派にお勤めを果たしてくるのですよぉ!」
打てば響くような返事をしたあと、ソルは超高速でその場から飛翔していった。
一応迷宮化した建物内には、俺の許可なく入るなと厳命しておく。いつでもこっちに戻って来られるようにである。
それと逐一奴らの情報を送ることも忘れないように伝えた。
これで常に流堂の動きは把握できる。
そして俺たちは、チャケが運転する車に乗り込み目的地へと急いだ。
攻略開始の十五分前、学校が見えてきた頃、さっそくソルから脳内を通して連絡が入った。
それは――。
「崩原さん、ソルからの情報よ。どうやら流堂はすでに攻略を開始したようよ」
「ちっ、やっぱ時間を守るような奴じゃなかったか。なら俺らもさっそく行動開始だ! てめえら、気合入れろよ!」
俺、シキ、崩原、チャケの四人は車から降りると、【王坂高等学校】の正門を潜って中へと入った。
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