第56話 流堂の情報
「なぁんだ。バレてたのかよ。なら話は早ぇ。……てめえも殺されたくなかったら、さっさと吐きやがれ」
――ビンゴ。
どうやら崩原の言っていたことはほぼほぼ真実だったらしい。
少なくともコイツらは『イノチシラズ』ではないだろう。あのラブホテルにいたリーダーとやらの指示で動く暴徒で間違いない。
そしてその暴徒のリーダーこそ……。
――――流堂刃一、か。
恐らく見知らぬ俺が崩原と接触したことで、その調査に来たというわけだろう。
動きが早いことから、普段からあの家はコイツらに見張られていた可能性が高い。
やはりそれだけ流堂は、崩原を意識しているようだ。
しかしどうしたものか……。
ここは住宅街だ。さすがにここで戦うのは、街の美観を損なう。
いやまあ、別に損なっても俺はどうでもいいんだが。
ただあまり鳥本が戦う姿を誰かに見られるのも何だから……。
「……俺に語らせたかったら捕まえてみることだね」
俺はそこから大きく跳躍し、建物の塀の上に乗ると、細い足場を伝ってコイツらの脇を通過する。
そして通過したところで塀から降り、そのまま奴らが追ってこられる速度で駆け出す。
「ちっ! 逃がすなぁっ!」
案の定、奴らが後ろから追ってくる。バイクが通りにくい細道を選び、俺はある場所まで辿り着いた。
「――もう逃げられねえぞ、クソ野郎が」
そこは河川敷にある、橋の下。
ここなら何が起きても周りからは俺の姿を見られることはない。
今度こそ俺を逃がさないためか、バイクから降りた連中も、武器を持って俺を取り囲む。
さて、始めるか。
「逃げられねえのは、お前らなんだがな」
「はあ? 何言って――」
「――ぐがぁぁっ!?」
突如、連中の一人が、血を吐いて前のめりに倒れてしまう。
「お、おい! どうした!?」
「……! し、死んでやがるっ!?」
倒れた奴の腹部には、大きな穴がポッカリと開いていて、そこからは大量の血液が流れ出していた。
無論ソルの仕業だが、コイツらに彼女の飛ぶ姿が見えるわけがない。
そうして、見えない敵に次々と殺されていく愚者たち。
「……ソル、ストップだ」
残り二人になったところで、俺はソルに待ったをかけると、ソルが俺の右肩にチョコンと乗った。
「な、なななな何だよこれぇぇっ!?」
「嘘だろぉっ! コイツら全員死んでやがるじゃねえかぁっ!?」
残った二人は、いまだ何が起きているのか理解できていない様子。
「どうしたんだい? 俺を逃がさないんじゃなかったかな? これじゃ、すぐにでも逃げられそうだ」
「!? て、てめえが何かしやがったのかぁ!」
「ちょ、おい待て! 迂闊に飛び込むな!」
注意を受けたというのに、カッとなった一人が俺へと突撃してくる。
――ズシュッ!
直後、俺の目前に迫って来ていた男の身体が上半身と下半身とに別れた。
やったのは影から出現したシキである。
「……殿に触れられると思うな、下郎めが」
うん、やっぱカッコ良いわコイツってば。
「ヒィィィィィィィィッ!?」
残った最後の一人が、腰を抜かして悲鳴を上げる。
無理もない。十人はいたにもかかわらず、一瞬にして抹殺されたあげく、影からは見たこともないモンスターが出てきたのだから。
「――さて」
俺はただただ怯える男を冷たい目で見下ろす。
「お前からは聞きたいことがたんまりとある。……楽に死ねると思うなよ?」
あまりの恐怖で失禁した上に失神した男から、俺はラブホテルに住まうリーダーについての情報を得ることができたのであった。
ひょんなことから遭遇したヒャッハー連中の一人を優しく尋問したあと、鬼が待つであろう地獄へと旅立ってもらった。
バカみたいに悪事を働いていた奴らなので、今頃は閻魔大王にどの地獄へ落とすか采配されていることだろう。
かくいう俺も、死んだらきっと地獄行きではあろうが。
何せ理由はどうあれ、俺もまた多くの人間を死に追いやっているのだから。
まあそんな妄想はさておいて、俺は男から手に入れた情報を整理していた。
「やっぱラブホテルを拠点にしてるのは流堂だったか」
そして警察の恰好をして悪さを働いていたのも、流堂の手下で間違いないことも分かった。
どうやら流堂は、自分の勧誘を蹴った崩原に対し、子供みたいな嫌がらせをし続けているとのこと。
集めた手下たちに『イノチシラズ』を名乗らせ暴力を働く。そうすることで、本物の『イノチシラズ』の名声をどん底まで落とすつもりのようだ。
それは実際に上手くいき、今じゃ『イノチシラズ』は最低の暴徒集団となっている。
何故そこまで執拗に崩原を貶めるのか理由を尋ねてみたが、コイツは下っ端過ぎて知らなかった。
やはり幹部クラスじゃないと、詳しい二人の確執は分からないようだ。
とはいえ、崩原よりも明らかに性格が〝悪〟と位置づけられるのは、間違いなく流堂の方である。
情報では、犯して飽きた女は全員殺すか、手下たちに回しているらしい。他にもたとえ手下であろうとも、任務を失敗した人間に対しては厳しく、公開処刑なんかも普通に行っているとのこと。
それに気に入った建物があれば、問答無用で押し入り自分のものにする。まさに天上天下唯我独尊男というわけだ。
自分が世界の中心にいると心から信じている頭の痛い奴らしい。
「放置しておいても碌なことにならぬ気がしますな。殿のご命令があれば、それがしが成敗してきますが?」
「あ、ソルもそれやるですぅ!」
どうやら二人にとっても、流堂という人物は不愉快極まりないもののようだ。
「……とりあえず虎門としてもう一度崩原と会うからな。そこでまた流堂との話も聞けるかもしれねえ」
「よろしいのですか、殿?」
「ああ。それに崩原も、まだ俺に話してないことがある。……奴は近々ダンジョンを攻略すると言っていただろう?」
「確かにそのようなことを口にしておりましたな」
「奴は広い拠点が欲しいと言ってたが……果たしてあれは本音かどうか」
「ふむ。では殿はどのようなお考えで?」
「恐らくだが何かしら流堂と関わり合いがあるのではと思っている」
「なるほど……」
ただあくまでも勘に過ぎない。大体崩原がわざわざ他人に力を貸してもらうほどの案件なのだろうか。
いや、もし本当にダンジョン攻略だけを目的としていた場合、何故虎門なんだ? それこそ世間でも有名になってきた『平和の使徒』を抱き込むのも考えられるだろう。
こっちはたった一人なのだ。強くても数の多さには敵わないと考えるのが普通だ。なのに……。
「とにかく崩原にはまだ何かありそうだ。今後も油断しないように二人にも頼むぞ」
「もっちろんなのですぅ!」
「はっ! 殿の害になるすべてのモノをこの鎌で斬って捨てましょうぞ!」
頼もしい二人の返事を聞き、俺は満足してその場をあとにした。
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