第54話 崩原才斗という人間
「なるほど。そのすべてに流堂が関わってると」
「調べてみた結果、奴の下にいた連中が吐いたからな」
実は今、崩原たちが拠点としているこの場所も、その流堂の手下たちが住人たちを襲って奪ったあとに奪還したものらしい。
元々ここは崩原の知り合いの実家で、これもまた嫌がらせのように流堂が動いたのだと確信しているとのこと。
そしてその時に捕らえた連中から流堂のことを聞き出したのだという。
天川がこの家も奪ったって言ってたから、てっきり問答無用で他人から奪い取ったんだと思ってたが、どうやら違ったらしい。あくまでもコイツらの言葉を信じるならば、だが。
ただ信憑性はあると思う。
何故ならある疑問がそれで解決するからだ。
それは先程不思議に思った、ラブホテルから拠点を移した件についてである。
あそこにいた『イノチシラズ』のメンバーやリーダーは、コイツらではなく、『イノチシラズ』を騙っている連中――つまりは流堂だという場合だ。
だとすれば辻褄が合い、コイツらの言っていることが正しいことも分かる。
無論まだ推測の域からは出ないが。
「つまり昨今恐れられている『イノチシラズ』のやっていることは、本物ではなく、君たちは一切関与してないと、そういうわけかい?」
「ああ、少なくとも俺はコイツらにそんな腐った指示なんて出してねえ」
傍に立っている男たちも深く頷きを見せる。
しかしまさか、『イノチシラズ』の偽物がいるなんてなぁ。
じゃあ高須たちはともかく、いつかのアイツらはどっちだったんだ?
警察を騙って攫おうとしてきた連中のことだ。アイツらは、崩原に命令されたと言っていたが。
とりあえずいろいろ聞き出してみるか。それに一番気になることもある。
「……君たちの周囲の事情は理解しました。それが事実かどうかは一先ず置いておくことにしよう」
「……ま、すぐに信じちゃくれねえだろうな」
崩原も俺の発言には予想がついていたようだ。傍にいる連中は凄く悔しそうではあるが。
「ただだからこそさっさと聞きたい。何故俺を連れてきたんだ? 今の話と何ら繋がりが見えないんだが?」
「……袴姿の刀使い」
! ……もしかしてコイツ……。
「知ってるよな? 別名モンスターハンターと呼ばれてる女のことだ」
「何故知ってると?」
「この前、一緒にいるところを仲間が確認してる」
……そうか。恐らく岸本さんにター介たちを届けた時だ。もしくはその前に、岸本さんに虎門を紹介した時か。
その光景を見られていたというわけだ。
「なるほど。つまり俺を御所望というわけじゃなく、虎門さんを……ということだね?」
「いいや。お前にも用はあった」
するとまたも座りながらではあるが頭を軽く下げてきた。
「すまんかった」
「……は? 何が、かな?」
マジで分からなかったので、つい目を丸くしてしまう。
「高須たちがお前に迷惑をかけたことだ」
「さっきの連行に関してなら、もう謝罪は受けたけど」
「違う。大学内でのことだ。これだけ言えば、お前なら分かるよな?」
「……ああ、なるほど」
そういえばそんなことがあった。程度にしか記憶していない。どうでもいいような出来事だったから。
「アイツらはまだ若過ぎて、エネルギーが有り余ってんだよ。それに『イノチシラズ』に入って間もねえし、自分が大きくなってるって勘違いもしてる。だからバカみてえに力を振りかざそうとしちまう」
「躾がなってないね」
「まったくだ。アイツらのトップとして……悪かった」
さてさて、これが心からの謝罪なのかどうか……。
崩原と話していると、悪一文字を背負っているくせに、どうも悪党という感じは一切しない。
仲間のしでかした過ちを認め、ちゃんと頭まで下げられるくらいの人物だ。
正直こういうコミュニティの上に立っている奴らなんて、嫌みな奴で絶対に受け入れられないと思っていたが、崩原に関しては別段そんな感情は浮かばない。
ただ今までの話に嘘が無いとも言えない。
俺を騙して何かを企てようとしている可能性だって十二分に考えられるからだ。
虎門のことを知っているならなおさらだ。
彼女の力を利用するか、あるいは見目麗しい女性として懐に入れたいだけか。
まだ崩原の言うことを信じるには早計過ぎる気がする。
「……分かった。謝罪は受け取る」
「! そっか! いや、アイツらにはガッツリ仕置きしとくからよ! 脅迫についてもな! まあ、アイツらはまだガキだってことで、それで許してやってくれや!」
別に俺的にもうどうでもいいことだし問題ない。
今更アイツらに謝ってもらいたいとも思わないし。それに一応ケジメとしてトップの謝罪もあった。
これ以上、俺から何かを要求することはない。
「それで? 俺に関する用事はそれだけかい?」
「ああそうだ」
「だったら次は虎門さんのことだね」
すると真っ直ぐ俺の目を見つめながら、「直で言うが」と前置きして、崩原が続きを言う。
「――袴姿の刀使いを紹介しちゃくれねえか?」
そう頼み込んできた。
実際そういうことだと思っていたので驚きはない。しかし気になるのはその理由だ。
「……理由を聞いても?」
「当然だろうな。今度俺ら『イノチシラズ』は、あるダンジョンを攻略するために動く」
「ダンジョンを?」
「そうだ。規模も広く、そこにいる怪物どもも強力な奴ばっかだ」
「何でわざわざそんな無謀な挑戦を?」
小規模のダンジョンならともかく、大規模とダンジョンとなると、武器を売ってやった『平和の使徒』でさえ攻略はほぼ不可能に近いだろう。
それこそ自衛隊の全戦力を注ぎ込む必要があると思う。何せそういうダンジョンには、Bランク以上のモンスターしか生息していないからだ。
もしSランクが一体でもいたら、国が総力を結集しなければ討伐も難しいだろう。
「なぁに、そこを攻略して俺らの拠点にするためだ。これからもっと人が増えるだろうしな。でけえ拠点が必要になるってだけだ」
理由としてはおかしくはないが……。
ただ何となくしっくりこない感じがする。広い拠点なら、他にもあるはずだ。わざわざ危険を冒
おか
してまで強力なモンスターがいる場所を選ぶ必要がない。
……まあ、コイツらの思惑はどうでもいい。要は俺にとってメリットがあるかないかだ。
「なるほど。つまり攻略のための戦力として、虎門さんの力が必要だと?」
「ああ。たった一人で多くのモンスターを殺し、それにダンジョンも幾つか攻略してるって話だ。手を組んでも申し分ねえ」
「女性だけど、そういうのは気にしないのかい?」
「はんっ、思春期のガキじゃねえんだ。女だろうが男だろうが、今必要なのは強え奴。ただそれだけだ」
「…………一つ言っておくことがあるけど」
「何だ?」
「虎門さんは無報酬で働く人じゃない。俺と虎門さんが一緒にいるところを見たと言ったけど、近くには依頼者もいたはずだ。その依頼者もまた、相応の対価を支払うことで虎門さんの力を借りた。まさかタダで彼女を利用しようというつもりではないだろうね?」
「んなわけねえだろ。こちとら仕事にはそれに見合った報酬は必ず用意してる。それは他人だろうが身内だろうが関係ねえ。袴姿の刀使いが、ちゃんと仕事をしてくれんなら、もちろん対価だって用意してやらぁ」
一応言質は取ったものの、こういう相手に口約束だけではどうも信じられない。
まあ、あとは虎門として交渉した方が良いか。
「了解した。虎門さんと連絡を取って、君たちが会いたがっていることを伝えよう」
「おお、やってくれるか」
「ああ。だけど彼女は一癖も二癖ある人物だ。それに……強い。あまり機嫌を損なわないようにした方が良いよ」
「忠告として受け取っておくぜ。こっちも無駄に敵を作るつもりはねえしな。そういうのは流堂だけでたくさんだ」
余程その流堂に手を焼いているようだ。
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