第50話 発見
「――――これは確かに面倒なことになってるわね」
現在俺は、虎門の姿である住宅街へと来ていた。
すでに道路にも普通にモンスターは闊歩していて、その数もかなりになる。
理由としては簡単だ。あちらこちらにある建物が、ほとんどダンジョン化しているからだ。
こんな状況になっているにもかかわらず警察や自衛隊が手を回していないとは……。
恐らくこの地獄のような光景になっている場所が幾つもあるのだろう。
「もうミサイルとか落として爆撃した方が良いのかもしれないわ」
その方が、モンスターたちを一掃できて楽だろう。しかしその結果、街は綺麗に平らになってしまうだろうが。
「グオォォォォッ!」
俺を見つけたようで、槍を持ったオークが二体、俺に向かって突っ込んできた。
だがその瞬間、俺の影から飛び出たシキが、瞬く間にして二体を両手の鎌でもって瞬断したのである。
「ナイスよ、シキ」
「はっ、ありがたきお言葉です、姫」
幸い周りには人気もないので、見られることもないだろう。
まあ見られたとしても、モンスターを従える人間ということで、さらに話題性は上がるだろうが。ただそうなると「お前がモンスターどもを操ってる」とか何とか言われて面倒なことにもなりかねないが。
そうなったらなった時で、どうにでも対処できるので問題にすることもないか。
そこへ空からソルが戻ってきて俺の肩にチョコンと乗る。
「ご主人、例の家を先行調査してきましたです」
「そう。どうだったかしら?」
「やはりモンスターに占拠されていますです。それにその周りの家も、軒並みダンジョン化している様子で」
「なるほど。ならもういっそのこと、ダンジョン化してるところを全部攻略しようかしら? あ、いや、もしかしたらまた依頼があるかもしれないし勿体無いかもね」
せっかくの金になる仕事なのに、無料働きは面白くない。
「適当にモンスターを狩りながら目的地へ向かうわよ」
俺は、ソルとシキを連れて、道中にいるモンスターどもを討伐しながら一軒の家へと歩を進めていく。
特別俺が動かなくとも、二人が即座に狩ってくれるのでマジで楽だ。ここにいるモンスターも精々がFランク~Dランク程度の弱小なので、ソルたちの相手にもなっていない。
そしてあっという間に、目的地である岸本家へと到着した。
「この家に棲息しているモンスターはDランク以下なのです。コアは二階の東側にある和室に確認済みです!」
「いいわよソル、頼りになる情報よ」
さすがは優秀な調査役。コイツがいるから安全に行動することが可能なのだ。
「それで? 夫人の遺体とター介の存在は確認できたの?」
「夫人のものかどうかは分かりませんが、一階のキッチンで人間のものと思われる骨を幾つか発見したのです」
……やっぱ肉体は食われていたか。しかし骨が残っているのなら、せめてそれだけでも回収できれば、岸本さんも少しは報われるかもしれない。
「ター介の方は?」
「それが……申し訳ありませんですぅ」
「見つからなかった……か」
「はいなのです。不甲斐ないですぅ」
これは骨ごとモンスターの腹の中に収まってしまったか、あるいはこの家から逃亡したか、どちらかの可能性が非常に高くなってきた。
ダンジョン化して十日ほど経つと岸本さんから聞いた。飲まず食わずで十日だとしたら、たとえ生きていても瀕死状態かもしれない。
「とりあえずまずは攻略を優先。そのあとに捜索よ。ソル、モンスターを一掃。シキも私の護衛を主に、モンスターを刈り取りなさい」
「「はいなのですぅ! (はっ!)」」
家の中に足を踏み入れるとすぐにゴブリンとスライムの姿があった。それらをソルが一気に瞬殺し、そのまま中へと入っていく。
俺もシキを連れて、罠を探知できる《トラップウォッチ》を見ながら進んでいく。
小規模のダンジョンでもあるので、罠も大したことはないが、毒矢などのトラップは引っかかると面倒なので、やはり警戒は必要なのである。
それにしても……。
「姫に手を出させん!」
「ソルもお仕事をしっかりするですぅ!」
この二人のお蔭というか何というか……暇だ。
いや、安全に進めるという点で申し分ないのだが、いかんせん二人が強過ぎるので、拍子抜けしてしまうのである。
俺はそのまま二階へと上がり、ソルからの情報通りに和室がある部屋へと向かう。
そこにはすでにソルがいて、
「あ、もう番人も倒したのね……」
すでにコアを守るモンスターまでもその場にいなかった。
俺は和室の壁に埋め込まれているコアを発見し、まずはそれを刀で突き刺して破壊する。
するとこの家の中を包んでいた異様な空気感が変わり、モンスターの気配も同時に消失した。
これで攻略は成功だ。ゆっくりと散策することができる。
「ソル、シキ、あなたたちはター介を探してきなさい」
俺は一人でソルの情報に従い、まずはキッチンへと向かう。当然中は台風が通ったかのように荒らされており、そこかしこに血液のあとがビッシリとついていた。これは恐らく岸本さんの奥さんのだろう。
そしてその奥さんだが……。
「なるほど、これね……」
キッチンの奥の方に、確かに人間らしい骨が散乱していた。奥さんが着ていたであろう服の残骸もある。
また綺麗な骨というわけではなく、血肉などもついているのでニオイも腐臭がキツイ。
これは一旦火葬してやらないとダメだろうな。
俺はちょっと嫌だが、触れてから骨を《ボックス》へと収納した。
あとで庭かどこかで火を焚いて骨を突っ込もう。さすがにこの腐臭塗れの状態で岸本さんに渡すのは、周囲の人たちの問題もあって難しいだろうし。
あとはター介だが、骨らしきものもないので、やはりもうこの世には存在していないのかもしれない。
せめて外へ逃げていればあるいは……だが、外にも数多くのモンスターが棲息していることから、それもまた難しいような気もした。
まあ奥さんの骨だけでも回収できただけでマシかも……な。
「……ん?」
そこで俺は骨があった場所を見て目を細める。
どうやら床下収納になっているようだ。そこには普通食料品や災害時に使用するようなものが置かれている場合があるが……。
「……! まさか!」
俺はすぐさま地下収納を開けて中を確かめてみた。
そしてそこに在ったモノを見てギョッとなる。
穴が開いたペットボトルが二本あり、床がビッショリ濡れていた。そして明らかに衰弱し切っている犬が一匹。
しかしそれでも俺の顔を見ると、か細いが確かに「クゥン」と鳴いてみせた。
身体が濡れているせいか、ブルブルと震えているものの……。
「生きて……た? よ、よし、よく頑張ったわ、偉いわよ!」
俺は《鑑定鏡》でター介を見ると、栄養失調状態なのが分かった。幸い脱水症状には至っていない。まず間違いなく、一緒に保存されていた水が入ったペットボトルが役に立ったのだろう。
俺はすぐに〝SHOP〟に入り、『犬、栄養 即時回復』を検索ワードとしてかける。
するとヒットした商品――《栄養ポーション(犬用)》というのがあったので、それを購入して、ター介に飲ませてやった。
最初は嫌がっていたが、それでも無理矢理喉の奥へとポーションを流し込んでやると、震えも止まり、弱々しかった目つきも次第に強さを増していく。
本人も辛かった肉体が元に戻ったことにより困惑気味の様子だが、
「もう大丈夫よ。すぐに飼い主のもとへ送り届けてあげるわ」
そう言いながら撫でてやると、俺が敵じゃないと分かったのか、ペロペロと顔を舐めてきた。
「あはは、くすぐったいわよ」
子供と同じく動物は好きなので、できることなら死んでいる姿を見たくない。だからこうして無事な姿を確認できて本当に良かった。
それにしても十日間、こんな場所でよく生き残れたものだ。
でもどうやってこの中に隠れたっていうんだろうか?
しかも地下収納には、外側からロックがされていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます