第43話 新たな使い魔

 比較的平和な時間が過ぎ、田中家が滅んでから一週間が経っていた。

 丈一郎さん曰く、明人さんはいまだに消沈している様子だが、それでも患者を持つ立場でもあるので、仕事はきちんとこなしているとのこと。


 前に『死んだ者を生き返らせることはできないか?』と尋ねてきた明人さんに対し、その場にいた丈一郎さんは滅多に見せない怒りを露わにして叱りつけていた。

 明人さんの気持ちも分からないではないが、残念ながら死者蘇生できる代物は〝SHOP〟には存在しないのだ。


 ゾンビと化して一時的に復活させたりなどの、歪なものはあるものの、完全な人間として生還させる手段は無い。

 せめて死んで間もない状態だったら、《エリクシル》で何とかなったのだが。


 ただ明人さんの気持ちも分かる。それだけ心を許した友人だったのだろう。大切な人を失うのは誰にとっても辛いことだ。

 丈一郎さんも彼の想いが分かるこその叱咤だったはず。


 一緒に謝罪をしてきた丈一郎さんたちに「気にしないでください」と応じ、その場は穏便に終結を迎えた。


 そして現在、俺はまた新たな事業を開発しようと画策している。


 それは――――ダンジョン攻略請負人だ。


 文字通り、ダンジョンの攻略を旨とする仕事のこと。

 実際に自宅がダンジョン化して、にっちもさっちもいかない人たちが大勢いる。


 そんな人たちのために、攻略して自宅を取り戻す業務を行うのだ。

 前にそれで高額の時計を対価として頂いたことがある。家と天秤にかけるには低報酬だったが、これからはそれに見合ったものを要求することで、他の事業よりも結構稼げるのではと思う。


 ただこれも武器商人と同じでリスクが高い。無論モンスターと戦うのだから、油断すれば死んでしまう危険性だってある。

 しかしそれについてもできるだけ緩和できるように策を練っていた。


「よし、ソル。これからお前の仲間を手に入れようと思う」

「仲間……ですかぁ?」

「そうだ。前に言ってたろ?」

「けれどそれは無人島を購入してからのお話では?」

「ああ、それも間違いない。無人島を購入したあと、護衛役とか整備役とかいろいろ入用だしな。でもその前に、仕事用としての仲間を増やそうと思う」

「ぷぅ……ソルがいますよ? もしかしてソルはもういらない子ですか?」


 目を潤ませ不安気に尋ねてくるので、笑いながら彼女の頭を撫でる。


「そんなわけないだろ。ただ戦力を増やして、より安全に仕事をするってだけだ。ソルは強いけど、その小さな身体と高速飛行を合わせて、できればお前には戦闘よりも諜報や調査などを重視してもらいたい。そして俺の護衛重視に別の《使い魔》を当てる」

「おお、なるほどですぅ! つまり適材適所というわけなのですね!」

「そういうことだ。賢いじゃないか」


 ツンツンと頬を突いてやると、嬉しそうに「ぷぅ~」と鳴き声を上げる。


「てことで、一応候補は幾つかいるんだが……」


 〝SHOP〟を開きながら腕を組む。


 大金が入ったことで、一気に高ランクのモンスターを購入することが可能となった。

 しかしながら、普段連れていても不自然じゃないモンスターでなければならない。あるいは周囲に悟られないような力を持った奴か。


 その中で能力やら見た目やらを重視した結果、三つまでに絞ってみた。


「まず一体目は、Bランクのシールドブック。値段は5600万円。攻撃力はあまり期待できないが、その分、防御系の能力を有し、Aランクモンスターの攻撃も防ぐことが可能な守護型モンスターだ」


 コイツがいれば、不意打ちの攻撃でも防いでくれるし、見た目は広辞苑くらいの本なので、所持していてもまあ言い訳はつく。

 能力は良いんだが、ただ外見が本というのが……。できればソルのような生物系の方が俺的にはありがたい。


「二体目は、これまたBランクのシノビキリ。値段は7500万円。コイツは攻撃も防御もバランスが良い。特に素早さに関しても一流らしい。しかも見た目がカッコ良いしな。カマキリと人間が合体したような……どっかのヒーローものに出てくる感じだ。両手についた鎌がまたイカしてる」


 素早さに特化しつつ、攻防にも優れているモンスターだ。ただオスのみらしく、メスのソルと気が合ってくれるかどうか不安ではある。

 ただシノビというだけあって、忍者のような能力を有しているのは便利だ。


「最後は、Aランクの竜人・ドラグノース。値段は断トツの六億五千万。Sランクにも匹敵するほどの潜在能力と攻撃力を持つ。まあ超再生能力も所持していて、死なない限りどんな傷を負っても治るのは魅力的だな」


 盾としても十二分に役立ってくれるだろうし、攻撃に転じても無類の強さを発揮する。仲間にすればこれほど心強いことはないだろう。


 しかし見た目が完全に竜と人とのハイブリット。コイツを連れて街中に出るのは大騒ぎしてくださいと言っているようなもの。まあそれもファンタジーアイテムを使えば何とかできるだろうが……。いかんせん六億五千万円という高値だ。所持金が一気に飛ぶ。


「う~ん、ソルはどいつが良いと思う?」

「ぷぅ……三者三様で難しいのですぅ」


 だよな。できるなら全員を仲間に入れたいところだが、さすがに金がもったいない。


 金に見合っていて、かつ俺の好みに合うとなれば……。


「よし、コイツに決定だな」


 俺はソイツをカートに入れて購入することにした。


「ソル、周囲の警戒を頼むな。誰かこの部屋に近づいてきたら教えてくれ」

「はいなのです!」


 福沢家の一室なので、特に環奈の襲来には気を配る必要がある。

 俺は購入した《使い魔》をその場に取り出す。


 さあ、出て来い――。


 ソルの時と同じく、ボボンッと煙とともにソイツが姿を現す。


 茶褐色の鎧を纏っているかのようなボディに忍装束を着込んでいる。

 俺よりも少し小さい身形で、二本足で立ちながらも、両腕には鋭い鎌が備わっていて、明らかに人ではないその風貌。


 ソイツは閉じていた目を見開き、俺を視界に捉えると、スッと片膝をついて頭を垂れた。


「この度は、某をお選びくださり、まことに感謝致します――我が殿」

「え、あ、うん」


 どうやら結構お堅い性格のようだ。ただその仕草から、忠に溢れたモンスターだということが分かり、俺としては安堵しているが。

 俺が購入したのはシノビキリである。やはり見た目がカッコ良いのと、忍者のスキルを持っているのが決めてになった。


「まずはお前の名を決めようと思う」

「おお、ありがたき幸せ」

「そうだなぁ…………シキってのはどうだ?」


 またモンスター名から安直に考えたが……。


「シキ……素晴らしい! さすがは我が殿! これからはシキと名乗り、殿を未来永劫守護する所存でございます」


 まるでどこぞの侍のよう……あ、いや忍者かな。


「さっそくだが仲間を紹介しようか。ソル」

「はいなのです! ソルはソニックオウルのソルなのです!」

「ソル殿でございますね。ともに殿をお守り致しましょうぞ!」

「はいなのですぅ!」


 良かった。性格的に衝突することはなさそうだ。


「ところでシキ、忍者の術が使えるんだな?」

「はっ、某はシノビ故、数々の忍術を扱えます。よろしければ幾つかご覧にいれましょうか?」

「うん、やってみせてくれ」

「では――《分身の術》!」


 するとシキの身体が三人、五人と分身し、俺では見分けがつかないほどのクオリティだった。


「おお、すげえな! さすがは忍者だ!」

「お次はこれでございます! ――《壁縫い》!」


 分身全員が、壁や天井に張りつく。

 おお、これもまた忍者っぽい。


「いいぞいいぞ。変化の術とかもできるんだよな?」


 一応説明欄にはそう記載してあった。


「もちろんでございます! ――《変化の術》!」


 白い煙がシキを包み込んだと思ったら、その中から出てきたのはすべてソルだった。


「ぷぅ~! ソルがいっぱいなのですぅ!」


 これは凄い。ていうかコイツだけですべてを賄えるほどに万能だ。

 しかしシキは言う。たとえ変化したとしても、その者の能力を使えるわけではないと。


 高速飛行もできないし、本物のフクロウのような無音飛行もできないらしい。

 シキは一体に戻り、元の姿にもなる。


「なるほど。いろいろ制限はあれど、それでも便利なのは確かだ。変化ができるなら、その大きな身体を小さくすることも可能だよな?」

「無論でございます」

「うん、それなら普段は、俺のポケットにでも入ってもらっていれば問題ないか」

「そのようなことをせずとも――《影落ち》!」


 シキが俺の影の中へ入り込み、その姿を消したのである。

 そしてすぐに飛び出てきて、また俺と対面した。


「このように殿の影の中に潜み続けることも可能なので、率いることは十分に可能かと」


 うわぁ……コイツマジですげえわ。便利便利、チョー便利。

 やっぱり購入して正解だった。



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