第42話 今後の展望

「ここ数日でずいぶんと稼ぐことができたな」


 俺は〝SHOP〟を開きながら、残高を見てほくそ笑んでいた。


 現在の残高――約三億四千万円。


 普通の世界だったが、これだけあったら悠々自適に暮らせることだろう。かなり無駄遣いしたとしても余るほどに。

 しかし現代世界は、人間の天敵ともいえるモンスターの存在がある。

 今はまだそこまで絶望的に強いモンスターと遭遇していないが、今後はどうか分からない。


「そろそろ自分だけの拠点を築くのもいいかもな……」


 核シェルターのような優れた防備性が整っている拠点が良い。

 できれば周りには他の人間がおらず、自然に囲まれたような落ち着ける空間で過ごしたい。


「拠点……拠点なぁ……」


 検索ワードで調べてみると、やはり様々なものがある。

 ウサギ小屋のような頼りない拠点から、それこそ要塞のようなものまで幅広い。


「無人島拠点ってのもあるのか……なるほど、無人島ね」


 確かにそこなら誰もいないだろうし、緑豊かな場所を選べば問題ない。


「無人島の護衛として、ソルみたいな《使い魔》も増やしていく方が良いよな」


 《使い魔》は、主に絶対忠実なので裏切ることなどない。だから信頼することができる。

 それは今までのソルの態度を見ても十二分に理解していることだ。


 ただそれなりの強さを持つ《使い魔》を何体も購入するとなると、やはり幾らあっても金が足りそうにない。

 どこかの無人島で拠点作りをしたとして、条件に合う無人島を見つけることはそう難しくないはず。ファンタジーアイテムを使えば楽勝だし。


 だが無人島自体がダンジョン化した場合、ハッキリ言って面倒この上ないし、突然そんな現象が起き、パニックになっている状況でモンスターや罠で死ぬ可能性だってある。

 できればすでにダンジョン化している無人島か、無人島そのものを購入した方が良いかもしれない。


 前者は、準備さえ整えればコアを破壊して、ダンジョン化から防ぐことができる。後者はそもそもダンジョン化しないという特典があるのだ。 

 しかし前者の場合だが、一度ダンジョン化して攻略すれば二度とダンジョン化しないという保証はどこにもないのが不安である。


 あくまでも今までがそうだっただけで、今後そのようなルールが撤廃される恐れだってあるのだ。


「だったら最初からダンジョン化の危険がない無人島を購入した方が賢いかもな」


 だとすると、さらに大金が必要になる。


「うげっ、やっぱ土地ってのは高えんだなぁ」


 1000坪の無人島を例に取ると、軽く一億五千万ほどする。

 中には3000坪で一億の格安無人島があるが、砂浜と岩だけの殺風景な島だ。


「いや、でもあれか。殺風景でも広い方が良いかもな。緑だってファンタジーアイテムを駆使すりゃ、作ることだってできるし…………有り、かもな」


 欲しいのは安全な広々とした土地であり、それさえあれば後付けで豊かな無人島にすることはできる。それこそプラモデルのように、少しずつ理想の無人島を作り上げていくというのも面白いかもしれない。


「いいな、よし! じゃあできるだけ安くて広い無人島を購入することにするか。……いろいろあるし、これは時間かけて選んでいこう」


 何だかワクワクしてきた。自分だけの王国を作る気分だ。

 そういえばゲームでもこういうクリエイト系のものは好きだった。


「ご主人、島を購入されるのです?」

「そうだぞ。周りは自然と海に囲まれた穏やかな島。そこで一緒にのんびり暮らせるぞ」

「ぷぅ! それは素敵なのですぅ!」

「ソルだってそろそろ仲間も欲しいだろ?」

「仲間……なのです?」

「ああ。拠点ができたら、多くの《使い魔》たちを購入して、俺だけのパラダイスを作るつもりだからな」

「わぉ! お仲間いっぱいですか!? 楽しみなのですぅ!」


 しかしそのためには、やはりまだまだ金が足りない。

 ただ今後の目標ができたのは良いことだ。それに向けて突っ走ることができるから。


「……そういや、あれから明人さんはどうしただろうなぁ」

「? 見てきましょうか?」

「そうだなぁ……! そうだ、ソルには田中さんの家に行ってほしい」

「了解なのです。ですがそこで何を?」

「悪いとは思うが、田中さんが所持していた預金通帳を探してほしい。もしあれば、だが」


 襲撃した『イノチシラズ』にとって、金は必要ないし、通帳だけあっても仕方ないので、恐らくは放置したままのはず。

 こんな世界になって、金を必要とする者はほぼいなくなった。田中さんの所持金も、そのままでは無価値のまま。その金が無駄に消えていくなら、せめて俺が有効活用させてもらう。


 ソルに命じると、彼女はすぐに飛び去り田中家へと向かった。

 俺はその間、ゆったりと菓子でも食いながら過ごそうと追っていたその時だ。


 突如どこからか悲鳴が聞こえてきて、すぐに音の方角へと顔を向けたが、一階では何が起きているのか確認することができず、仕方なく二階へ上がり窓を開けて見回した。

 すると遠目に、十数人ほどのバイクを乗った者たちが、逃げる一般市民数人を追いかけ回していたのである。


「……暴徒の連中か」


 連中は楽しそうに、弱者をいたぶっている。

 追いかけられている者たちは、鉄パイプやバッドなどで突かれ走らされていた。


「あんなことして何が面白いのやら」


 どう見ても生産的じゃない。ただ人を傷つけることに快楽を覚えているだけの異常者だ。

 するとバイクのまま、民家の中へ押し入り庭へと回っていく者たちもいる。


 バイクを降りた奴らが、武器で窓ガラスや扉などを破壊して、無理矢理侵入していく。直後に悲鳴や怒号などが轟き、連中の下品な笑い声がこだまする。


「……マズいな」


 別に俺以外の誰かが犠牲になろうと構わないが、連中が徐々にこの家の方角へと向かってきている。

 もしかしたらこの家まで襲撃されてしまうかもしれない。


 この家は両親が残してくれた大切なものだ。失うわけにはいかない。


 どうする……? アイツらを殲滅するか?


 できないことはない。ただ殺しておかなければ、いずれ報復に来る可能性だってある。

 あんな奴らを殺したところで良心の呵責があるわけじゃないが、それでも面倒なのは変わりない。


 ソルはまだ戻って来る気配はないし、この家を守るためにも何かしら対応策が必要だろう。


「……周りの目もあるだろうし、できれば無人島を購入してからにしようと思ってたがしょうがねえか」


 俺はそのまま家の外へと出て、庭に降り立ち家の壁に手で触れた。

 そして《ボックス》を開いて〝収納〟を選択する。


 直後、目の前にデカデカと存在感を見せていた俺の家が、一瞬にして消失した。

 そこそこ大きな一軒家が、突然消失するという不可思議な現象に、周りの者たちが視たら驚嘆することだろう。


 いつでもここに取り出すことはできるが、そんなことをすれば誰かが興味を持って近づいてくるかもしれない。それは厄介なことに繋がる可能性がある。

 だからできれば家を移動するのは、もっと後にしておきたかった。


 しかしこうなったら、家を守るためにもこうする他はない。

 俺は着用しているフード付きのパーカーで顔を隠しながら、その場から素早く離れていく。


 そのまま少し距離がある場所にある公園の方へと向かう。

 とりあえずここまで来れば、暴徒に見つかる恐れもないだろう。それに家からもそう離れていないので、戻ってきたソルとも連絡を取ることができる。


 俺は公園のベンチに座り、うるさいバイクの音に耳を傾けながら、近づいてこないかどうか警戒し続ける。

 するとしばらくしてバイクの音が遠ざかっていくので、やはりこちらには向かってこないことにホッとした。


〝ご主人! ご主人! 聞こえるですかぁ!〟


 そこへ慌てた様子の声音が頭の中に響いてきた。


〝ああ、聞こえるぞ〟

〝良かったです! 帰ってきてみれば、家がなくなっていて! どこにおられるですか!〟


 俺はソルに居場所を告げ、ソルがすぐさまこちらへと姿を見せた。


「ぷぅ~、ご主人! 何があったのですか!? ご無事ですか!?」

「ああ、心配かけたな。実は――」


 何が起きたのかソルに伝えると……。


「ご主人、少しお時間をくださいです。そいつらを掃除してきますので」


 暗黒的なオーラを醸し出すソル。明らかにそいつらを殺る気である。


「放っておけ、ソル。別に家に被害が遭ったわけじゃない」

「ぷぅ……よろしいんですかぁ?」

「ああ、それよりも通帳はどうだった?」

「おっと、そうだったのです!」


 フワフワモコモコの身体に嘴を突っ込んだソルが、そこから一冊の通帳を取り出してきた。


「これだけしか見つからなかったのです」

「いや、十分だ。よくやったぞソル」


 頭を撫でてやると気持ち良さそうに鳴く。

 俺は手に取った通帳を開き、反射的に頬が緩むのを止められなかった。


 何故ならそこには約四億以上もの大金が記載されていたからだ。


 超売れっ子作家ってすげぇぇぇぇ!


 さっそく《ボックス》に入れて売却作業を行う。


「ククク、すげえ。すげえぞソル。これで七億越えだ!」

「ご主人が嬉しいならソルも嬉しいのですぅ!」


 弥一さん、この金は大切に使わせてもらうよ。

 俺はソルと一緒に、意気揚々と、その足で福沢家へと向かったのであった。



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