第33話 それが俺の道

「おかえりなさーい、鳥本さん!」


 福沢家に帰ってくると、真っ先に環奈が笑顔で出迎えてくれた。


「あれ? ちょっと疲れ気味?」

「あはは、少し歩き過ぎたよ。やっぱり交通手段が限られてるのはしんどいね」

「そうだよね。電車とか使えないし、バスだってほとんど運休してるんでしょ?」


 まあ疲れてる理由はソレではないが。

 ただ今後、地方へ行く時に電車などが使用できないとなると痛手だ。


 やはり〝SHOP〟で足を手に入れる必要がある。

 環奈が晩御飯どうすると聞いてきたので、食べてきたと言って、すぐに自室へと向かいベッドに飛び乗った。


「……ふぅぅぅ~」


 ぼ~っと天井を見上げながら、我ながららしくないことをしたと溜息を吐く。


「何で助けに行ったかなぁ……」


 正直なところ自分でも分からない。そもそも十時がいた病院へ向かったこと自体も変だ。

 もう完全に決別した連中だった。どうでもいいクラスメイトの一人だったはずなのに。


「ちっ、こんなことなら公民館ですぐに別れてりゃ良かった」


 アイツには今、両親がいない。父親はおらず、母親は海外へ出たっきり。

 姉妹二人だけで生活を余儀なくされていた。だからか、もしかしたら僅かに同情でもしてしまったのかもしれない。


 俺と似たような境遇のあの姉妹を――。


「……はぁ。まあ……何事もなく終わったから良いか」


 別にメリットがなかったわけじゃない。

 流れ的に倒すことになったレッドアーマーだが、その素材は高く売れたし、《コアの欠片》だって手に入った。


 それに……メリットと言えるか分からないが。

 最期に見せた王坂の表情が脳裏に浮かぶ。


「はは……ざまあねえなぁ、王坂」


 もう関係ないと決めていても、やはりまだ自分の中では怒りや憎しみがあったのかもしれない。

 だから奴を自分の手で仕留めたことで、どこかスッキリとした気分が心にあった。


「でも……人を殺すってこんな感覚なんだな」


 悪党は悪党だし、殺しても良心の呵責すら湧かない相手ではあったが、それでも人の命を奪ったという事実にはショックを受けている。


 当然だ。動物や虫の命じゃないんだ。


 俺と同じ人間の……命。


 それを奪ったのだから重みもあって当然である。

 けれど後悔はしない。あの場ではあれが一番正しい選択だったから。

 アイツを放置していては、きっとその後の俺の人生にも障害となっていたはず。


「……ご主人?」

「ソル……何でもねえよ」


 心配そうに俺の顔の傍で「ぷぅ」と鳴いているソルの頭をそっと撫でてやる。


「今日はお前にも大分頑張ってもらったしなぁ。明日、特別に大盛りマッシュポテトでも作ってやるから」

「わぁ、ほんとなのです!?」

「ああ、マジマジ」

「やったーなのですぅ!」


 俺は「よっと」と口にしベッドから立ち上がると、そのまま窓の方へと向かう。

 今日は満月だ。


 憎らしいほど美しい金色の輝きを地上へ注いでいる。

 今回、ダンジョンに関してまた新たな情報を得ることができた。


 それはダンジョンコアをモンスターが有していることもある、ということだ。

 これでいよいよ人間はダンジョン攻略が遠のいていくだろう。

 コアを見つけさえすれば、わざわざモンスターを相手せずとも良かった。


 しかし凶悪で凶暴なモンスターを倒さないと、ダンジョン攻略できないとなると……。

 もし相手が、人間には到底敵わない圧倒的なモンスターだとしたら?


 俺だって《ショップ》があるからこその成果だ。

 スキルを持たない人間が、現状の兵器だけでAランクやSランクのモンスターを討伐することができるだろうか。


 Cランクでさえあの強さなのだから。


「人間の世界は、どんどん終わりに近づいてるってことか……」


 しかしそれでも……。

 たとえ世界のすべてがダンジョン化したとしても、俺だけは生き抜ける自信がある。


 何と言っても俺には――。


「この《ショップ》スキルがあるからな」


 万能過ぎるスキルさえあれば、ダンジョン化した世界でも楽勝だ。

 そしてどんな障害も乗り越え、俺をバカにした連中がいれば嘲笑ってやる。


 これは迫害された俺の、最強ざまぁライフなんだから。





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