第30話 招かれざる再会
屋上へ到着した俺は、建物の陰に身を潜ませながら、さっそく購入した物品を使って、そこから見える物置小屋を確認した。
――《透視鏡》。
これは《鑑定鏡》と同じ造りではあるが、その効果はまったくもって違う。
文字通り、視たものの中身を透視することができるのだ。
するとレンズを通して、物置小屋の中身が透けて見えた。
中には確かに人間がいる。その中で、十歳程度の子供が一人、五歳程度の子供が二人いた。そのうちの一人は、間違いなくまひなちゃんだ。
どうやら全員生きている様子だ。表情から見るに、疲弊と恐怖で支配されている。
ただその子供たちに向けて睨みを利かせている男が二人いた。
一人はナイフを持って、何やら干し肉のようなものをかじっている。
そしてもう一人は、銃を所持しているみたいだが、背中向きでどんな顔をしているか分からないが、銃を持っているということは、コイツが賊のリーダーなのだろう。
十歳児が、怯えているまひなちゃんたちを両脇に抱えている形だ。少しでもお兄ちゃんとして、小さな子たちを守ろうとしているらしい。
しかしふと気になることがある。
……コアはどこだ?
そう、ダンジョンコアが見つからないのだ。てっきり物置小屋の中にあると思っていたが……。
そこへソルが俺の肩の上へと降りてきた。
〝ご主人、これからどうされますです?〟
〝無論子供たちは助けるつもりだ。せっかくここまで来たしな〟
〝あの物置小屋に子供たちが?〟
〝ああ。そしてここを襲撃した賊が二名いる。コイツらは放置して構わん〟
〝了解なのです。ですが、他のモンスターならともかく、レッドアーマーはどうされますか? ソル一人じゃ、少々手に余るです〟
……《レベルアップリンⅡ》を購入してソルに与えるか?
しかし一億円もするのだ。正直購入するのに躊躇してしまうほどの高額商品だ。
《レベルアップリンⅠ》はたった百万円だったのに、冗談としか思えないほどの格差である。
残高で購入できるとはいっても、さすがにここで一億を注ぎ込むのは……。
〝ソル、他の五体のモンスターをまずは一掃だ。行け〟
ランク的にソルよりも格下であるモンスターを先に始末することにした。
ソルは返事をしたと同時に、目にも止まらない速さで飛翔し、モンスターへと襲い掛かっていく。
当然レッドアーマーも、自分たちが攻撃されていることに気づき臨戦態勢に入る。
腰に携えた巨大な剣を抜き、高速で動き回るソルに向かって振るっていく。
しかし速度は圧倒的にソルの方が上で、そう簡単に攻撃は当たらない。そしてソルは、レッドアーマーの攻撃を回避しつつ、他のモンスターたちに火炎をブチ当てたり、いつものように貫通力のある突進で仕留めて行く。
いいぞ、ソル。その調子だ。
そうして時間をかけて五体のモンスターが、ソルによって大地へと沈んだ。
残りはレッドアーマーただ一体。
しかしソルが吹く火を弾き飛ばすは、突進は鎧が軽く傷つくくらいで終わっている。
まるで防御力のバケモノだ。
だがソルが奴を引きつけている隙に、《透視鏡》を見ながら物置小屋へと近づいていく。
突然起こり始めた戦闘に興味を持ったのか、窓の目張りを取って、男たちが外を確認し始めている。
そして俺は、そんな窓から覗き込む賊のリーダーと目が合った。
刹那、思わず呼吸をするのを忘れてしまうほどの衝撃を受ける。
何せ、もう二度と会いたくないと思っていた奴がそこにいたのだから。
「――――――――――王坂……?」
そいつはまさしく王坂藍人だった。
人を常に見下すような目つきと、傲慢な態度そのままに、何も変わっていない奴の姿がそこにあったのである。
すると王坂は、助けが来たと思ったのか、窓を勢いよく開けると、
「おいそこのオッサン! 俺を助けろ!」
バカっ……そんな大声を出したら――っ!?
案の定、王坂のせいで、レッドアーマーが俺の存在に気づいてしまった。
ソルの相手を中断し、俺のところへと駆け寄ってくる。
マジでこのクソ王坂、ろくなことをしねえな!
「き、来やがったっ!? おいこらてめえ、さっさとそのバケモノを倒しやがれ!」
相変わらずの物言いだ。まったくもって救い難い。
ただこのままでは俺が餌食になってしまう。
すぐさま距離を取って離れようとするが、レッドアーマーが大剣を薙ぎ払ってきて、俺は間一髪回避するものの、大剣はそのまま物置小屋へと届いてしまう。
物置小屋の壁をあっさりと叩き潰してしまい、同時に悲鳴と鮮血が周囲へ飛び散った。
まさか子供たちが今ので……!?
そう思い入口から中央にかけて半壊してしまった物置小屋を注視する。
すると王坂の手下が、身体を真っ二つに引き裂かれたような状態で横たわっていた。
その傍に、腰が抜けたように尻もちをついている王坂と、部屋の隅っこで縮こまっている子供たちを発見する。
どうやら今ので死んだのは賊一人だったようだ。
いや……。
「いてぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
どうやら今の攻撃で、足をやられたのか王坂は血が噴き出ている右足を押さえている。
しかしそこへレッドアーマーが近づいてきた。
「ひ、ひィィィィィッ!?」
レッドアーマーを前にし、王坂は情けない叫び声を上げ、あまつさえ失禁までしていた。
そんな王坂を見下ろす、レッドアーマーが再び剣を振り被る。
このままだと子供たちまで巻き添えになってしまう。
俺はすぐさま駆け出し、レッドアーマーの横っ腹を蹴ってやった。
《パーフェクトリング》で向上した膂力は、ここでも通じるようで、レッドアーマーが、数メートルほど吹き飛ぶ。
〝ソル! そいつを引きつけろ!〟
〝了解なのですっ!〟
ソルがレッドアーマーの周りをチョロチョロと翔け周り挑発する。
その間に、俺は子供たちに顔を向け近づく。
「怪我はないか?」
「う、うん……」
十歳の少年は涙目だが、まだ強がれる意思はあるようだ。
「あぁぁぁぁんっ! ママァァァァ~ッ!」
まひなちゃんではない、もう一人の幼児は、さすが我慢できずに泣きじゃくっている。
「ひっぐっ……ぐすっ……おねえちゃ……ん……!」
そしてまひなちゃんは、十時のことを思いながら小さくなっている。
だが……。
「お、おい! 俺だ! 俺を助けろ! 金でも食べ物でも何でもやるから!」
俺は王坂の言葉を無視し、子供たちを立たせる。
「今すぐ逃げるぞ。そこの出口まで走れ!」
俺がそう言うと、十歳の少年は幼児と手を繋いで出口へと向かっていく。
あとはまひなちゃんだけだと思い、彼女を抱きかかえようとしたその時だ。
――パァンッ!
乾いた音が屋上中に響き渡った。
見ると、王坂が銃を俺に向けて構えていたのだ。
「い、いいか? そんなガキより俺を……この俺を優先しろ! さもねえと殺すぞぉ!」
「…………」
「な、何黙っていやがる! マジで殺すぞこらぁっ! ていうかそのガキを殺す! 殺されたくねえなら、まずは俺を助けろクソ野郎が!」
必死な形相を浮かべ、この期に及んでまだ脅してくる。
俺は堪らず大きな溜息を吐き出し、気づけば怒気を込めた言葉を奴にぶつけていた。
「――何も変わらねえな、お前は」
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