第14話 人助けの報酬

「出た? 何がです?」

「怪物だよ! 全身が緑色の気色の悪い怪物!」


 どうやらゴブリンかそれに類似するモンスターだろう。

 つまりコイツらの家が突然ダンジョン化したというわけだ。

 これはいい。《コアの欠片》もそうだが、金になるモンスター素材のゲットのチャンスである。


「家を放っておいていいんですか?」

「は、はあ? しょうがないじゃないか! あんな怪物が現れたんじゃ!」

「そ、そうよ……ああもう、新築だっていうのに!」


 女性の方も悔しそうに唇を震わせている。

 新築か、これは都合が良い。ならなおさら奪い返したいはずだ。


「……なら俺が怪物たちをやっつけましょうか?」

「……はあ? 君が? いや……できるわけないだろう?」

「大丈夫ですよ。前にもやっつけたことありますし」

「そうなのか!?」

「はい。それに一度モンスターを全部討伐したら、その家は安全になるって噂もありますよ?」

「「それは本当!?」」


 ……食いついた。


「まあ、あくまでも噂ですけどね。どうです? 俺ならあなた方の家を取り戻すことができるんですけど」

「是非! 是非お願いしたい! せっかく建てた念願のマイホームだったんだ!」

「ええ、これからこの子も生まれて楽しく過ごしていく予定だったのに」


 女の腹には少し膨れた様子が窺える。なるほど妊婦だったか。ならなおさら安全な拠点が欲しいだろう。


「でも俺だって命がけですしね。相応の見返りを期待したいんですが」

「み、見返り? ……食べ物か?」


 ここで金かと言わないところが、この世界の時代が変わった証拠だな。


「いえいえ、俺が欲しいのは――金です。あ、貴金属などの高価なものでもいいですよ」

「へ? ……金かい? もうほとんどの店は機能してないし、金の価値も無くなりかけてるってのに?」

「確かに現状はそうです。でももしかしたら今後必要になるかもしれないじゃないですか」

「食料や衣服などの方が貴重だと思うけど……」

「いいんですよ。無駄になったらなったで。これは気まぐれみたいなもんですし。さあ、どうします?」


 まあ俺にとっちゃどっちでもいい。上手く行けば金が手に入るし、ダメなら現状維持なだけだ。


「…………分かった。金くらい幾らでもやる! 家を取り戻してくれるならな!」

「……交渉成立ですね。じゃあ十分ほど待っててください」

「じゅ、十分?」


 俺は目を丸くしながら聞いてきた男を無視し、足早に彼らのマイホームとやらに向かって行った。

 前に侵入した家と規模はそう変わらない。恐らくだがそれほど強力なモンスターはいないと推測される。


 そもそも強力なら、こんな小さな建物なんて軽く破壊しているだろうから。

 都合よく玄関が開きっ放しになっているので、俺は大胆にもそこから中へと入る。

 すぐに左側に障子があり、その奥の部屋にのそのそと動いている生物の気配を感じ取ったので、障子に小さな穴を開けて中を覗き見る。


 ――ゴブリンか。二体……いるか。ま、簡単にいけるだろう。


 何といってもこっちにはソルがいるのだから……と、そう思ったが、俺もたまには戦闘経験を積んでおいた方が良いと思ったので、ソルには二階のモンスターを討伐してくるように指示を出した。

 そして俺は素早く障子を開くと、一番近くにいたゴブリンの首を《キラーナイフ》で刈った。


 よし、まず一匹!


 だがそこで棚の上にいた何かが俺に向かって体当たりしてきた。


「ちっ!?」


 咄嗟に腕でガードし、その何かの正体を掴む。


 スライムもいたのか!?


 棚の上にいたので気づかなかったみたいだ。しかし問題はない。

 すぐにナイフで突き刺して殺し、背後から叫びながら駆け寄ってくるゴブリンのこん棒による攻撃を回避する。


 そしてすぐさまゴブリンの腹にナイフを突き刺すと、その直後、ゴブリンが一瞬にして弾けたように光になって消失した。


「……今のは?」


 これまで倒してきた連中とはまた違った消え方だった。

 首を刈ったとしても、ほんの数秒ほどは、まだゴブリンは遺体としてその場に残るが、今のはナイフで刺した直後に消失したのである。


「……あ、そっか。今のが《即死効果》ってやつか」


 《キラーナイフ》の特性だ。たまに相手を即死させることができる。それが発動したのだろう。


「なるほどな。《即死効果》が成功した場合は、今みたいな感じになるのか。勉強になった」


 俺はそうやって次々と室内を調べていき、遭遇するモンスターを討伐しながら探索する。

 やはり今度も二階が怪しいようで、案の定、戻ってきたソルから、二回には骨でできた不気味なゴブリンがいたとの報告を受けた。


 きっちり倒したが、そいつがいた部屋へとソルに案内してもらうと、そこにはダンジョンコアらしきものが壁に埋め込まれていた。

 俺はそれを《アシッドナイフ》で破壊し、これで任務完了となったのである。


「――おおっ! ありがとう! マジでありがとう!」


 あの夫婦のもとに戻って事情を説明し、家の中に案内すると、真っ先に男に手を握られ感謝された。

 奥さんの方も、信じられないといった様子で室内を見回している。


「けどあんなバケモノをよく倒せたね! 君は凄いよ!」

「はは、こう見えて昔武術をかじっていたんで」


 真っ赤な嘘ですけどね。完全なアイテム頼りなんだなぁ、これが。


 まあスキルだって俺の力なんだから、使えるものは使って悪いわけがない。だから俺は胸を張って俺の力だと言える。


「ところで例の報酬の件ですが」

「……おお、そうだったね! とはいってもこんな経験初めてで……相場はどれくらいなんだい?」


 そういや相場ってもんを決めてなかったな。

 実際家を守ったんだから、考えてみれば大金が発生してもおかしくはないが……。いやでもいきなり吹っ掛けてもどうだろうな。


「そうですね。俺もこの仕事をし始めてからまだあまり経ってないんで、今日は特別にこれくらいで」


 そう言いながら人差し指を立てる。


「ん? 十万円かい? そのくらいでいいの?」


 ……はい? えと……最初ってこともあって、一万円のつもりだったんだけど。


「それとも百万かな? あーちょっと待ってくれ。現金じゃないけど、最近自分のご褒美に勝った《ロレックスの腕時計》があるんだ」


 旦那さんはそう言うと、慌てて二階へと駆け上がり、すぐにまた戻ってきた。

 その手には小さなトランクが抱えられている。


「僕はね、腕時計を集めるのが趣味でさ。ほら――」

「おお、これは凄い」


 開かれたトランクの中には、十点もの高価そうな腕時計が収められていた。

 俺は興味ないが、きっとこの場に出してくるのだから高額なのだろう。


「まったく、そんなもんを買うより車とかの方が良いって言ってるのに」


 奥さんは呆れたように溜息交じりで旦那さんを睨みつけている。


「何を言うんだよ! これくらいが唯一の趣味なんだ! 誰に何と言われても止めないぞ!」

「はいはい。もう諦めてるからいいけど」


 聞けば旦那さんは、小さいながらも会社の社長をしていたらしく、そこそこの金持ちなのだそうだ。この家も一括の現金払いで購入したそうだ。


「確か高額なものなら何でも良かったんだよね? どうだろうか? これなら百万くらいは価値があると思うけど」


 そう言って一つの腕時計を俺に手渡してきた。

 とはいっても俺に腕時計の価値なんて分からない。


 俺は手に取ってマジマジと見るフリをして、二人に見えないように《ボックス》の中に入れて、売却値を調べてみた。

 すると驚くことに、百二十三万円で売却できることが分かったのだ。

 すぐさま時計を《ボックス》から取り出す。





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