第13話 ファンタジー食材は格が違う
俺は家に帰ると、自然と大きな溜息が漏れ出た。
まさかあんな場所で十時に会うとは……。
学校に様子見に行った時に、何十人かが救出されていたから、その中にでもいたのだろう。
十時恋音。確かに一年の頃はクラスメイトとして仲良くしていたが、状況が変われば人も変わる。それはアイツも……俺もだ。
もう二度とアイツと関わることはないだろう。
ただ全員が俺を敵視、あるいは見捨てる中、最後まで俺に声をかけていたのは十時だけ。
王坂を怖がって、奴がいない時限定ではあるが、それでも俺を気にかけていたことは事実らしいので、一応無事だったことは素直に喜ばしいことだと思っておく。
もし王坂がいなかったら、もしかしたら今も繋がりは切れてなかっただろうが。
ま、今となっちゃどうでもいいことか。
「……ちょっと気分悪いし、こういう時は例のアレだな」
俺は《ボックス》から調理器具と食材を取り出す。
ただ今回は、普通の食材というわけではない。
《オークの肉》、《
肉に関しては、オークを倒した時に入手したもので、《姫恋芋》は〝SHOP〟で購入したもの。
こんなふうにこの世界にはない食材も売っているので、たまに購入して調理して食べるのだ。
見たこともない食材の調理方法などは、購入時の説明などを見て理解している。
普通の食材よりも、ファンタジー食材の方が高価なので、毎日食べることはしないが、たまにストレス解消にこうして使うのだ。
しかも一般的な食材よりも美味く、調味料なども明らかにワンランク上で、料理人がいたら何が何でも手にしたい代物ばかりだろう。
「そうだなぁ。今日はハンバーグとマッシュポテト、それに豚汁でも作るか」
慣れた手つきで食材を調理していく俺。思わず鼻歌が出てしまう。
「お、美味しそうなニオイですぅ~」
「……よだれが出てるぞ、ソル」
「あ、すみませんですぅ! じゅるる」
「ちゃんとお前の分も作ってやっから待ってろ」
「はいなのですぅ!」
いつか《ドラゴンの肉》や《不死鳥米》などといったものも食してみたい。金に余裕ができて、何か記念な日が来たら購入しよう。
また他にも〝SHOP〟には調理器具も売っている。
これもまた普通ではなく、今回俺が使うのは《火溜め鉄板》といって、予めこの鉄板に火をかけると、その火の熱を吸収し貯蓄することができるのだ。
そうしていつでも使いたい時に、貯蓄していた熱を発して調理に使用することが可能。
ちなみに火はソルに吹きかけてもらって溜めた。
こんな感じで、調理器具についても便利なものが豊富にあるので、俺はその気になれば、どこにいても最高の食材と調理器具を使って料理をすることができるのだ。
「うし、これで完成だ!」
俺は食卓に、完成した料理を見て満足して頷き。
今日も良い出来栄えだ。この香ばしいハンバーグのニオイや、豚汁のほのかに甘さを漂わせる香りに、思わず腹の虫が合唱し始める。
「ほら、こっちはお前の分な」
小柄な身形でも結構食う奴なので、大きな皿にハンバーグとマッシュポテト、そして鉢に豚汁を入れてやった。
「んじゃ、いただきます」
「いっただきまーす!」
まずは当然ハンバーグだろう。《オークの肉》をミンチにして作ったから《オークバーグ》といったところだろうか。
箸で割ってみると、凄まじいほどの肉汁が洪水のように溢れ出てくる。
とにかく絵力が凄い。見ているだけでご飯一杯はペロリといけそうだ。
「あーむ。んぐんぐ…………んん~っ! んむぁいっ!」
普通の牛や豚を使ったものとはまた違う味わい深さがある。霜降り加減がオークの方が上のようで、この舌の上で蕩けるような食感はたまらん。
噛めば噛むほどに口いっぱいに旨みが広がっていく。
気づけばご飯をかっこみ、たった一口で茶碗のご飯を半分以上も食べてしまっていた。
「次はマッシュポテトだな。《姫恋芋》のポテンシャルを見せてもらおうか」
とはいっても作ってる途中にちょっと味見をしたから軽く分かってるんだが。
「う~ん、この滑らかさこそマッシュポテトだよなぁ。それにこの仄かな甘さ。これで大学芋とか作ったらマジ最高っぽいな」
それがきっと《姫恋芋》が持つ甘みなのだろう。
まさにお姫様の淡い恋のような仄かな甘さが特徴とでもいうかのような芋である。
「ご主人! ソルは! ソルはですね! この白いの好きなのですぅー!」
どうやらソルはマッシュポテトが大好物になったようだ。
次に豚汁だが、こちらも《オークの肉》を使っている。ただ他の野菜は冷蔵庫に保管されているものを使用した。
肉からも良い出汁が出ていて、飲めば身体が心から温まる美味さである。
煮込んだ肉は、またハンバーグと違って噛み応えのある弾力を残し、豚肉特有の淡白な味を伝えてきた。
あっという間に、そこそこ大量に作った料理だったが、一時間もしないうちに完食となったのである。
「ぷぅ~。やっぱりご主人の作ってくれるご飯は美味しいのですぅ~」
「そりゃ良かった。今日はお前には頑張ってもらったからな。そのご褒美だ。ほれ、まだデザートもあるが食うか?」
「食べるのですぅ!」
腹をパンパンに膨らませて横たわっていたくせに、まだデザートは食べるらしい。別腹とはよく言ったものだ。
デザートは普通の食材で作ったプリンだが、ソルは美味そうにがっついている。
俺はその間に、冷蔵庫を開いて中身を確認した。
「これでほぼ食材や調味料は使い尽くしたかぁ」
電気が通っていないので、〝SHOP〟で購入した氷を入れて冷やしていた。
すっからかんになっている冷蔵庫を見て、これからは出来る限り食材は《ボックス》に入れておくようにする。
実は《ボックス》に入れておくと、腐らないし劣化もしないので保管場所としてはパーフェクトな場所なのだ。
ただどうやら《ボックス》には保管できる数に限りがあるので、あまり多く保管し続けるのは現実的ではない。どうしても必要なものだけを購入し保管しておかなければ。
「ご主人、明日はどうするです?」
「ん~ソルの実力も分かったし、特にこれといってすることはないかな」
でもずっと家にいるのも暇だ。ゲームや漫画をし続けるのも、あまりに自堕落過ぎて、すぐに飽きてしまいそうだし。
「…………となれば金集めにでも行くか」
「ぷぅ?」
「いや、明日も外に出掛けるか」
「はい! お供致しますです!」
まだちょっと早いかもしれないが、金を集めるには他人を利用するのが一番手っ取り早い。
そのためにもいろいろ情報集めが必要になってくるので、明日はそれに当てようと思った。
――翌日。
朝食を食べたあと、すぐに家から出てソルと一緒にダンジョンを探しつつ街を歩き回っていた。
昨日は公民館の方角に行って面倒なことに出くわしたので、真逆の方角で探索することにしたのである。
すると二軒ほど先の一軒家から、悲鳴を上げながら飛び出てくる男女二人組がいた。
もしかして、と思ったが、こちら側に駆け出してくる男女に向かって、
「どうかしたんですか?」
と尋ねると、男が代表して真っ青な顔で、
「あ、あ、で、出たっ、出たんだよっ!?」
どもりながらそう答えた。
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