第10話 ソルの強さ

 恐らく誰かが警察署にでも駆け込んで助けを求めたのだろう。

 さすがに俺みたいなガキが入っていくのは絶対に止められる。


「ご主人、周りを飛んで様子を見てきましょうか?」

「いいね、ソル。ナイスアイデアだ。けど下手に近づくな。モンスターと判断されて銃撃されるかもしれんしな」


 まあ、Cランクほどのモンスターが銃弾を受けたところで致命傷を受けるとも思えないが、せっかく手に入れた『使い魔』を失いたくはないから念のためだ。

 ソルが大きく舞い上がりマンションの頭上で旋回し始める。


「……やっぱ、この状況でも会話ができたらいいな。……そういうの売ってねえかな」


 検索ワードで、使い魔・意思疎通・遠距離などと入れて検索すると、望み通りのものがヒットした。


「《念話用きびだんご》……か。これいいな」


 人語を話せる『使い魔』に食べさせることで、頭の中で会話をすることができるようになる。ただし主人を中心にして半径十キロ圏内でのみ有効。

 意外に安く一万円だったので、購入しておく。


 しばらくするとソルが戻ってきたので、報告を聞く前に《念話用きびだんご》を食べさせた。

 そして試しに頭の中でソルを意識しながら話しかける。


〝聞こえるか、ソル?〟

〝! はい! 素敵なお声が聞こえましたですぅ!〟


 どうやら問題なく作用してくれているようだ。


「よし、これからは離れて行動する際には、できるだけ連絡を取るようにするぞ」

「了解なのです!」

「ところで上空から見た様子はどうだった?」

「建物の屋上にソードラビットマンがいましたです」

「強いのか?」

「同じD……あ、今ソルはCでしたです」

「Dランクのモンスターってことか。お前一人でもやれる相手っぽい?」

「レベルアップした今のソルなら問題ありませんです!」

「……そうか」

「倒してきますです?」

「……いや、あまり人目に触れるのもあれだしな。やっぱりここは諦めて違う場所を探そう」


 それに屋上で戦われても、その姿を見ることができないので、戦い方を知りたい俺としては不服なのだ。

 ただこうして空を飛んで情報収集できる存在を手に入れたことは、これからの俺の生活にもずいぶんと役立つことが分かった。


 俺はソルとともにその場を離れ、もう少し小さいダンジョンを探す。

 すると小さな公園にダンジョン反応を掴んだので、さっそく向かうことにした。


 住宅地の中にある小規模の公園で、遊具もそれほど豊かではない。

 精々が砂場に滑り台、そして鉄棒があるくらいだ。


 それに嬉しいのは、周りに誰もいないことである。

 物陰から隠れて確認してみると、公園内にはゴブリン四体に、豚を擬人化させたようなオークというモンスターが動き回っていた。

 恐らくはオークがボスで、その近くにコアがあるのだろう。


「よし、行けソル!」

「参りますです!」


 さすがはフクロウ。高速で飛行しているのにもかかわらず、まったくといっていいほど羽音がしない。

 しかも、だ。


 ――ズシュッ、ズシュッ、ズシュッ!


 立て続けに三体のゴブリンの胸に突撃し、そのまま貫通させ瞬時に撃滅した。

 仲間がやられたことに気づいたもう一体のゴブリンがハッとなったが、ソルの素早過ぎる動きに気づけずに、背後から胸を貫かれてそのまま消失。


 そして最後はオークだが、こちらもいまだにソルの存在を掴めていない様子だ。

 ソルはオークの頭上から火を吹き、一瞬で火達磨にしてしまった。


 驚くことなかれ。この間――三秒ほど。

 瞬きすれば見逃すほどの瞬殺劇だった。


「お、おいおい……アイツ凄くね?」


 まさにソニックという冠名に相応しいほどの動きで、あっさりとモンスターを一掃してしまった。

 最後にコアを見つけたソルだが、これも一瞬で破壊できると思った矢先、コアはソルの攻撃は見事に無効化したのである。


「……ふむ」


 何度も攻撃を繰り出すソル。火球をぶつけても無意味だった。

 これはまた面倒な真実を知ったな。


 恐らくだがコアは、人間の手による攻撃じゃないと破壊できないのかもしれない。

 俺は周りを警戒しながら公園に入りソルへ近づく。


「ぷぅぅぅ~! ごめんなさいですぅ~! これ壊せません~!」


 泣きついてきたソルの頭を撫でてやり、俺は《アシッドナイフ》でコアを傷つけた。

 するといとも簡単にコアは破壊され、ここのダンジョン化が解かれたのである。


「お前はよく頑張ってくれたよ、ありがとな」

「!? ぷぅ~!」

「けど、どうもコアは俺しか破壊できねえみたいだな。厄介な設定だよ、まったく」


 それにしても、とソルを見る。

 この子の身体には血が一滴もついていない。

 それほどまでの速度による攻撃だったということだろうか。


 ……凄まじいもんだな。


 それと同時に、やはりモンスターは人の手に負える存在じゃないことも知る。

 仮に、ソルが百体襲ってきたとしよう。


 ものの数分ほどで一つの街は滅びそうな気がする。

 これでもまだCランクなのだ。その上にはまだ、B・A・Sという三階級があるらしい。


 ソルから判断するに、Aクラスで一国レベルなのではなかろうか。

 じゃあSは……となると、それこそ国同士が同盟を結んで事に当たっても勝てる相手かどうか分からない。


 もし攻撃一つ一つが核レベルだったら、さすがに俺も自分を守ることができないかもしれない。

 いや、たとえどれだけ相手が強くとも生き残る術は確実に存在する。


 そう――《ショップ》のスキルには。

 一つ例を挙げれば、こちらもSランクのモンスターを『使い魔』にすればいい。それで守ってもらうという選択肢がある。


 しかしそのためには、やはり天文学的な資金が必要になってくるのだ。

 幸い、まだ国を壊滅させられるほどのモンスターが出現し暴れている様子はないので、どうかそれまでに対策を講じる必要がある。


「とにかくソルの強さは理解したぞ。お前なら立派に俺を守ってくれそうだ」

「ぷぅ! 全身全霊でお守り致しますですぅ!」


 こうして俺は人間なんかよりも頼りになる従者を手に入れたのであった。




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