第9話 レベルアップリン
「わ、分かった分かった! 分かったからちょっと落ち着け!」
「ぷぅ~。了解なのですぅ……」
何だよぷぅ~って、可愛いじゃねえか。それにシュンとなってる姿も実に癒される。
俺はそいつを床の上に置き、まずは挨拶をする。
「初めましてだな。俺は坊地日呂だ。お前は俺の『使い魔』のソニックオウルで間違いねえよな?」
「はいなのです! あ、でもぉ……」
「ん? どうした?」
「そのぉ……できればご主人に名付けてほしいのですぅ」
「あ、名前か? そうだなぁ…………じゃあソルでどうだ?」
「!? ソル……いいですぅ! じゃあ今日からソルはソルなのですぅ!」
あはは、どんだけ嬉しいんやら。翼をバタバタとはためかせて喜んでいる。ああ、やっぱ人間と違って動物は癒されるわぁ。この無邪気さがたまらん。コイツが良い子そうでマジで良かった。
するとソルが何だかウズウズし始めたので、「どうかしたか?」って聞いてみると、
「あ、あのぉ……お腹減ったですぅ」
「おおそっか。ちょっと待ってな……って、お前って何食べんの?」
「何でも食べますですぅ! あ、でもニオイの強いものはちょっと苦手かも……です」
「なるほどな。じゃあ生肉や野菜でも問題ねえってことか?」
「問題ないのですぅ!」
「よっしゃ、ちょっと待ってろ」
俺は冷蔵庫から、まだ残っていた野菜やら肉やらを取り出して、それを皿に乗せてソルに出してやった。
「いただきますなのですぅ~!」
ソルは嬉しそうに、小さな口でガツガツと食べ始めた。
俺はそれを微笑ましいと思いながら眺めていると、突然ソルが食べるのを止めて、大きく息を吸い始めたのだ。
そして――ボォォォォッ!
いきなり火を吹いたのである。
「おわっ!?」
「あ!? ご主人!? 驚かせてしまったですか!? ご、ごめんなさいですぅ!」
しきりに謝ってくるので、俺は「気にすんな」と軽く頭を撫でてやると、「えへへ~」と目を細めてきた。
ああ、いい。人間関係で荒んだ俺の心が浄化されていくようだ。
「ていうか何で急に火を吹いたんだ? しかも食料に向けて」
「あ、そのぉ……ソルには食べ方にこだわりがありましてですね。最初は生で食べて、残り半分は火で炙って食べるのですぅ」
「ほう、そんな特性がソニックオウルにはあったのか」
「いえ! これはソルだけの個人的嗜好なのですぅ!」
「あ、そうなの」
どうやら人間と同じように、フクロウにも食べ方の好みとかがあるみたいだ。
「――けぷっ。ぷぅ~、とても美味しかったのですぅ!」
「そりゃ良かった。ところでソニックオウルは、その名の通り音速で飛ぶことができるらしいけど、マジでできる?」
「ん~今のソルは生まれたばかりなので難しいですぅ。もう少し成長すればできるようになりますよぉ」
モンスターにも成長度合いというものが存在するわけか。そこらへんも人間と変わらないらしい。
「なるほどなぁ。今の状態でもスライムやゴブリンと戦ったりできるのか?」
「問題ありませんです! ソルのランクはこう見えてもDランクなので!」
そういえばモンスターにはランクがあったのを思い出した。
「ただ先程も申しましたが、生まれたばかりですので同じDランクの中では最弱かとぉ……。でもでもぉ、成長すればDランクの中でも上位に入るはずなのですぅ!」
モンスターにも当然個体差はある。ランクが同じだからといっても、能力や相性などで強さは上下することだろう。
確か『使い魔』専用の商品もあったはず。
その中には『使い魔』を成長させたり強くさせる効果があるものもあった。
名前やランク、そして弱点などの他に、〝レベル1〟という文字が新たに加わっていた。
これは〝SHOP〟から購入することができる《レベルアップリンⅠ》というものを、『使い魔』に食べさせればレベルを上げ、全体的な強さが劇的にUPするのだ。
しかもこれ、結構高い。百万もするのである。ちょっと手を出すのが躊躇してしまう値段だ。
試しに一つくらいと思い、《レベルアップリンⅠ》を購入して、ソルに与えてやった。
「わぁ~! 食べてもいいんですぅ?」
「お前専用の食い物らしいしな。遠慮しないで食え」
「やったですぅ~! いっただきまーす!」
見た目は完全なプリンだが、美味そうに十秒程度で平らげたソル。
するとソルの身体が淡く発光し、全体的に灰茶色をしていたのに、少し赤みがかった色へと変化した。
「おぉ~! 何か力が湧いてくるようなのですぅ!」
どうやらレベルアップが成功したようだ。鑑定してもレベル2になっていた。しかもランクもDから〝C〟へと上がっている。
《レベルアップリン》は、他に〝Ⅱ〟と〝Ⅲ〟があるが、この二つは嘘だろと思うほど桁違いに高い。〝Ⅰ〟とは比較にならないほどだ。さすがにおいそれと購入はできない。つか圧倒的に金が足りないし。
「ソル、どうやらレベルアップしてCランクになったみてえだぞ。おめでとう」
「え? ほんとなのです? やったぁ! これでもっとご主人のお役に立てるですよぉ!」
うんうん、無垢で可愛い奴め。お前の忠義、実に期待しておこう。
何せ『使い魔』は裏切らない存在らしいからな。信頼することはできるだろう。
「それじゃ、ソルの強さを見せてもらおうかな」
「はい! いつでもソルはやる気満々なのですぅ!」
俺はソルを自分の肩に乗せて、そのまま外へと出て行った。
俺は《ボックス》からある物を取り出した。
「ご主人? それは何です?」
「これか? ちょっと前に購入した《ダンジョン探知図》だ」
俺の手元にはA4用紙ほどの紙がある。
そこには周辺のマップが映し出され、現在俺がいる地点には青い印が光っていた。
まるでナビアプリみたいに、どんどん地図は更新されていって周辺の状況を映し出してくれるのだ。だから普通に地図としても扱える。
そしてマップ上にダンジョンがあると、赤い印が発現するのだ。
「これさえあればバカみたいに探し回らなくても良いからな」
「さすがはご主人! 頭良いのですぅ!」
別に俺みたいなスキルを持ってたら、誰だって思いつくことだろうけどな。
「あ、一応俺以外の人間の前で喋ったりするなよ? 他人に聞かれたら面倒なことになるし」
「了解なのです!」
打てば響くような応えに気持ち良さを感じる。
すると少し先にある建物に赤い印が発現していた。
「ソル、ダンジョン発見だ。ちょっと急ぐぞ!」
「はいなのです!」
とはいっても、ソルは俺の肩に乗っているので、実際に急ぎ動かすのは俺の足なのだが。
《パーフェクトリング》によって体力も増強されているので、ちょっと走ったくらいじゃ息も切れない。
そして一キロほど走って辿り着いたのは――。
「――――ここはダメだな」
そこはマンションだったのだが、すでに警察が周りを囲っている状況だった。
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