第8話 使い魔購入

 いわゆるこれは号外というやつなのだろう。

 学校にモンスターが現れてから五日が経ったが、ポストに入っていた新聞を見て、世界の現状を知ることになった。


 そこには日本だけでなく、世界中に異変が起こり、あちこちでモンスターが出現している様子が書かれていたのだ。


 突如建物がダンジョンのように変貌し、中にはモンスターに対抗する一般人もいたようだが、多くは返り討ちに遭ってしまっているらしい。

 家を追い出された人たちは、親戚のもとへ身を寄せるか市が仮設住宅を設置して、そこで世話になっていた。他にも地震などの災害時に、避難場所として指定されている体育館などに集まって過ごしている写真まで貼られている。


 自衛隊などの国家戦力が、世界中で動きモンスターたちの鎮圧に従事しているようだが、ダンジョンによってはかなり難航している模様。

 小規模のダンジョン――俺が攻略したようなダンジョンならば、すぐに制圧できているらしいが、学校や大型デパートなどの大規模ダンジョンは、制圧に苦労していると書かれている。


 また海や無人島などにも突如として現れたモンスターに悩まされているとのこと。

 船が襲われ転覆した記事や、無人島でサバイバルをして楽しんでいる者が命からがら逃げ帰ってきている記事も事細かに掲載されている。


 とにかく世界は、五日前を境にガラリと変貌した。

 この五日間で、推定三十万人近くの死傷者が出たのではと記載してある。

 そして犠牲者は今後も増え続けていくだろうと絶望の意を示していた。


「大変だな、世界中」


 午前八時、俺はリビングでカップ焼きそばを食べながら新聞を読んでいた。

 この五日、俺の周りには特に変わったことはなかったが、どうも近所の人たちはこぞってどこかへ避難したようで、周囲はシーンとしている。


 家が突然ダンジョン化するという報せを受けた一般人たちは、普通安全であるはずの家を信じることができずに、多くの者たちが集まる場所へと避難していったのだろう。

 何が起きても人手さえあれば、自分たちは何とかなるとでも思っているのかもしれない。


 そう思って集まっている連中が多いのだから、結局は災害が起きた時はランダムに犠牲が出るに決まっているのだ。

 それでも確かに人手があれば、できることも豊富にあると思うし、生存率だって上がるかもしれない。


 今じゃ、この世界のどこに安全地帯があるか分からない。

 何故なら森や砂漠といったフィールドもまたダンジョン化しているらしいから。


 そのうち地球そのものがダンジョンと化し、そこらの道路にでも普通にモンスターが出現することも考えられる。

 そうなったら人間は生活を追われ、その数をどんどん減らしていくことになるだろう。


 人間が持つ兵器だって数に限りがあるし、その兵器だって中には効かないモンスターも出てくるだろう。

 漫画に出てくるようなドラゴンや魔王などといった存在が出てきたら、多分それで人間の天下は終焉を迎える。 


 いや、すでに今、もうこの世界は終末へと向かっているのだ。

 恐らく新たな時代――モンスターの天下を示す世界へと。


「その中で生き残るには、やっぱ自衛力を鍛えるしかねえよな」


 さすがにドラゴンを単独で討伐できるような〝ナニカ〟があるとは思えないが……。


「……いや、あったし」


 俺は〝SHOP〟の検索ワードに〝ドラゴン討伐〟という文字を入れて検索した。

 するとヒットするものがちゃんとあったのである。


「龍殺しの異名を持つ剣――《ドラゴンスレイヤー》か。それにドラゴン種だけに効く毒なんてのも売ってる。探せば結構バリエーションもあるんだな」


 つまりこの世に殺せない存在はいないということなのか? てかこんなもんがあるってことはドラゴンがいるってことだよな……マジか。


 調べてみれば、どのモンスターにも弱点というのはあるらしく、そいつだけに効果抜群の武器やアイテムなども結構ある。

 要は遭遇しても諦める必要はないということだ。


「けど俺限定だとは思うけどな」


 新聞を見ても、俺のような特別な力を有する人間が現れたという報告はない。

 この五日で見つかっていないのなら、もしかしたら究極的に数が少ないか、まったくもっていないかのどちらかの可能性が高い。


 なら絶対に俺の能力は他人にバレるわけにはいかないだろう。

 そうなれば人間が取るべき行動なんて大体決まってくる。


 利用するか、排除するか。


 まあこの状況だ。排除するにしても、俺から能力を搾り取れるかどうか、散々人体実験などをしてからだろうが。


 だから多くの場合は、俺を利用しようとしてくる。

 何故なら俺の傍にいれば安全を買えるからだ。逆に俺でもそんな相手がいれば縋りつくかもしれない。死にたくなければ、だ。


 別に自給自足しなくとも、金さえあれば自由に衣食住を手にできるのだから、俺は他人からしたら救世主みたいな存在だろう。

 しかし悪いが、俺はもう誰一人として人間を信じようとは思わない。


 人間を利用することはあっても、心を許すことはもうできないだろう。

 結局のところ、人間ってのは自分だけが可愛いし、その気になったらいつでも裏切る。

 たとえ友人だろうが恋人だろうが、身内だったとしてもどうだろうか。


 この世に無償の愛なんてもんがあるなら、それは親と子という間にしか存在しえないと思う。

 あいにく俺にはもう、そんな繋がりは無くなってしまった。


 故に心から信頼できるような存在は…………もう手にすることはないんだろう。


「はっ……別に問題ないか。スキルのお蔭で俺は一人でも生きていけるしな」


 ただたまに孤独感を強烈に感じてしまうことがある。

 そんな時は、いつもテレビやネットなどで気を紛らわせていたが、今の世界ではそれもできなくなってしまった。


 しかし他人と触れ合おうとは思えない。

 こういう時、ペットがいれば少しは気も紛れるかもしれない。


「……! ちょっと調べてみるか」


 俺は検索ワードでペットを購入できないか調べてみた。

 すると面白いことに、『使い魔』としてモンスターを購入することができることが分かったのだ。


「へぇ、面白そうだな」


 『使い魔』は主人に絶対の服従を誓っているので、決して裏切ることがないという文句がさらに魅力的だった。

 友人はいらないが、こういう存在なら傍に置いておいてもいいかもしれない。

 俺は手頃で癒されるようなモンスターがいないか探してみる。


「こういう時、物語だったらスライムとかが多かったりするよな。汎用能力も高くて相棒として立派だし、それに可愛らしいからな」


 けどそれじゃ何だか面白みがない。


「あ、喋ることができるモンスターってのはいないのかね?」


 これならさらに意思疎通が簡単にできそうだから有りだ。


「…………お、コイツなんかいい感じかもな」


 俺の目に留まったのは――フクロウである。

 実はこう見えても俺は動物好きで、特にフクロウはいつか飼ってみたいと思っていた。


 見た目がクールでカッコ良いし、頭も良くて、大人しい奴は本当に静かに過ごしているのでペットとしても大人気である。

 ただそこはやはりモンスターなのか、見たこともないフクロウばかりだ。


 説明文には性格や性別など、ちゃんと個体に関した情報も掲載されているのでありがたい。


「ん~迷うなぁ。まず小型にするか中型にするかで迷うし……」


 大型はデカ過ぎるので、とりあえず今回は保留という形にしておく。


「おお、コイツはあれだな。俺が好きなアフリカオオコノハズクに似てるぞ」


 白い顔に太い黒緑模様を持つ小型のフクロウだ。正確にはアフリカ大陸の北側に棲息しているアフリカオオコノハズクと、南側に棲息しているミナミアフリカオオコノハズクに分けられるらしい。

 普通に買えば40万円程度とのこと。フクロウの中でもメジャーで一等人気がある。


 ただこれはもちろん普通のアフリカオオコノハズクの特徴だ。

 コイツはモンスターであり、違う特性も持っている。


 一番の驚きは、口から火を吹くことができるということ。一体どういう生体構造をしているのか謎だが、モンスターにいちいちツッコんでも仕方ないので納得しておく。


「よし、コイツにするか」


 俺は購入の手続きをすると、何の躊躇いもなく70万円という金を注ぎ込んだ。


「さあ――来い!」


 いつものように購入して《ボックス》に贈られた『使い魔』を取り出した。

 すると目の前にボボンッと忍者が現れるような感じで、そいつは姿を現す。

 そして俺はそいつと目が合い、しばらく見つめ合うことに……。


「……! ご主人~!」

「わぷっ!?」


 いきなりそいつが俺の顔面に飛びついてきた。しかも話しながらだ。本当にフクロウが喋ったこともそうだが、このモフモフ感に思わず顔がニヤけてしまう。




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