第2話 ショップスキル

 突然呆気に取られてしまうような現象が起き、数秒間止まってしまった。


「……! えと……何だ? ユニーク……スキル?」


 やっぱりスキルってあったんだな。しかもユニークってことは、結構強力なヤツじゃないのか? たった一人にしか発現しないし、ゲームとかなら大抵そうだから期待が持てそうだが……。


「でも何で覚醒? こういう時は取得しましたとかじゃないのか?」


 覚醒という言葉に少し違和感を覚えた。その言葉は、元々俺の中に備わっていた力ということを意味する。それが何らかのきっかけて目覚めたってことだから。

 だとしたら、スキルっていう言葉を口にしたからか?


「……まあいいか。とりあえず……《ショップ》」


 そう口にすると、またも違う画面が開く。


「……何だかネットショッピングのホームページみたいな映像だなこれ」


 そこには様々なジャンルが左端に書かれていて、上部には大きく〝SHOP〟と記載され、その右端には検索ワードを打ち込めるのか、そういう枠が備わっている。

 他にも注文履歴やカートの表示、よく分からないが《ショップポイント》なるものもあって、現在3000ポイントが貯まっているらしい。その下には《現金》という枠も存在して、今は0になっていた。


 そのまま画面を指でスクロールしていき、一番下の欄には、《ボックス》という文字が刻まれている。

 最後に、一番目の引く中央画面には、誰がお薦めしているのか分からんが、お薦め商品と銘打ったいろいろなものが写真付きで記載されているので分かりやすい。

 ただお薦めとは書いているが、どれも馴染みのないものばかりだ。


 例を挙げると、《パワーポーションC》や《スピードポーションC》などがあって、何故かセール中と表示されている。

 指で《パワーポーションC》をクリックしてみると、商品に対応した画面が開き、商品説明を見たり購入するための手続きを行えたりできるようだ。


 この《パワーポーションC》、飲めば一時的に〝力を向上させる〟効果があるらしい。

 単純に物理的な力が二倍にも跳ね上がるという、普通だったら確実に信用できないイカサマ商品である。


 しかしこれはスキルの効果だ。実際に試してみないと、絶対効果が無いとは言い切れない。

 こんな感じで、地球には有り得ないような商品が、いろいろ購入することができるらしい。

 もちろん元々地球にある物だって購入可能みたいだ。


「つまり金さえ……あれ? 購入するのって金が必要なのか?」


 俺はとりあえず《パワーポーションC》を〝カートに入れる〟をクリックして、その先の購入画面へと進んでみた。


 そこではカートに入れた商品を確認することができ、次に〝レジに進む〟をクリックする。

 次に支払方法という画面が現れ、《ショップポイント》で購入するか、現金引換えで購入するかを選べるようだ。


 俺はとりあえず、せっかく3000もサービスされているので、《ショップポイント》で購入してみた。

 すると最後の確認として、商品の説明と値段などが記載され、その横には〝購入する〟という文字がある。


「へぇ、《パワーポーション》って150ポイントだけでいいんだな。……あ、そういやセールだったっけ」


 本来ならその倍の300ポイントを消費するようだ。

 俺は少し恐る恐るといった感じで〝購入する〟をクリックした。


 すると――。



〝《パワーポーションC》を購入しました。ボックスに送ります〟



「《ボックス》? ああ、そういや画面の下にそんなのがあったっけ?」


 俺は指で画面をスクロールしていき、一番下に書かれた《ボックス》をクリックする。

 直後、またもや別画面が開き、そこには《ボックス》と称し、確かに購入した《パワーポーションC》が入っていた。


 しかもまた新たな発見がそこにはあったのである。

 《パワーポーションC》をクリックすると、〝取り出す〟・〝捨てる〟・〝売却〟というそれぞれの文字が浮かび上がったのだ。


 どうやら《ボックス》の中にある物は、この〝SHOP〟で売却することも可能らしい。そうすることで現金に変えてもらえるのだ。

 一度〝取り出す〟をクリックしてみると、どこからともなく、目の前の床の上に《パワーポーションC》が、立体映像を映し出すように出現した。


 持ってみるとちゃんと触れることができたし、重みもひんやりとした感触もある。

 また《ボックス》には〝収納〟の機能もあるらしく、これは触れている物を《ボックス》へと収納することができるらしい。

 一応何度か出し入れを試してみて、《パワーポーションC》だけじゃなく、スマホや財布なども収納できたことに驚く。


 《ショップ》もそうだが、この《ボックス》も双璧を為すほど使い勝手が良い。

 現金も、《ボックス》に収納すると、ホームページに残金として記載されるようなので、さっそく所持金を一万円だけ残して収納しておいた。


「……待てよ。預金通帳を《ボックス》に入れるとどうなるんだ?」


 試しに収納してみると、〝売却〟と〝入金〟という文字が現れた。

俺は〝入金〟を試してみると、驚くことに残金が通帳に記載されている分が加算されたのである。


「おお、これはマジ便利だ!」


 親が俺のために遺してくれた金だ。大切に使わせてもらおう。

 ちなみに残金から、通帳へ〝入金〟することもできるらしい。


「なるほどな。段々とこのスキルの要領が掴めてきた」


 ただ惜しむらくは、物語の主人公のようにカッコ良いスキルじゃなかったことだ。

 例えば《即死魔術》とか《透明化》などといった強力無比なスキルだったら、こんな世の中でもカッコ良く立ち回れたかもしれない。


 しかし別に悲観はしていない。この《ショップ》。確かに攻撃力や防御力には直結しないものの、使いようによっては最強のスキルになる。

 まず大きいのは、わざわざ食料や日用品などの生活必需品を求めて彷徨う必要がないこと。

 金さえあれば、ここから食料なんていつでも購入できるのだから。


「あとは確かめてみるだけ……だ」


 俺は購入した《パワーポーションC》を――飲んでみた。


「んぐんぐんぐ……っぷはぁ、意外に美味かったな。まるでスポーツドリンクだ」


 飲み干したその時、何だか身体の奥から熱が込み上げてきた。

 説明文通りならば、十分の間は力が増している状態だ。

 俺はキッチンに行ってフライパンを手に持つ。普段の俺なら、当然力を入れても曲げたりすることはできない。


「さあ……どうなるか。せーのぉっ! うぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃっ!」


 驚くことに、グニャリグニャリとフライパンが簡単に丸まっていく。僅か数秒後には、もう使い物にならなくなっていた。


「ふぅ……マジかこれ」


 半信半疑の部分もあったが、これはもう疑いようがない。

 試しに腕立て伏せもしてみたが、確かに自分の身体じゃないって思えるくらいに軽く、なかなかの速度でこなすことができた。


 そして十分が過ぎると、まるで重力が増したかのような重さを身体に感じ、フライパンを戻そうにも、今の力ではそれも叶わなかった。


「どうやらマジでゲーム効果みたいなもんがあるらしいな」


 しかも今ので《パワーポーションC》だ。さらに上級のB、A、Sなんかもあるが、服用すれば凄まじいことになりそうだ。

 こんな感じの、RPGにか存在していないであろう商品が山ほどある。


 スキルとか魔法とか売ってたら一番良かったが、さすがにそう都合良くはいかないようだ。

 それでもこのスキルを駆使すれば、モンスター渦巻くこの世界でも十分に生き抜いていくことは可能である。


「はは……こいつは良いや」


 まさかいじめられっ子の俺に、こんな能力が備わるなんて誰も思わないだろう。




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