18話

 7月29日。笠原さかはら真子まこの証言より――


「良いひとでした。学年は一個上なんですけど、誕生日とか記念日とかもちゃんと覚えてて、プレゼントもいつも用意してくれてて。私もピアスとかアクセサリーとか、彼バンドマンなんでギターピックとかもあげたことがあります。……はい、ピアスはいつも着けてくれてました。……付き合ってからは、来月でちょうど2年になります。

……赤井あかいって言うんですか? 会ったというか、話しかけられたことはあります。……確か2回くらい。……喫煙所です。その時は私がライターを忘れて、貸してもらいました。そしたらライターをあげるって私に言ったんです。その時は受け取りましたけど、私、なんだか気味が悪くて、すぐに棄てました。そしたらその人! 今度もまた渡してきたんです! ……はい、同じものでした。紫色のどこにでも売ってるやつです。『これ落としたよね』って。……その時は無視しました。本当に怖かったんです! ストーカーみたいで。

……そんなことより、赤井って人はどうなるんですか!? 死刑ですよね? 私の彼を奪ったんですよ! 刑事さん。あの人を殺してくださいっ! じゃないと私……私が……」


 笠原真子。20歳。女性。白木学院大学経済学部経営学科二年生。大友おおとも典久のりひさ(被害者)とは交際関係にあり。

※感情的状況のため、不明瞭な箇所多々あり。



 7月21日。箕田みのた謙一けんいちの証言より――


「興味半分で、後からつけて行ったんスよ。……はい、大友にも内緒でした。あいつ真子ちゃんっていう可愛らしい彼女がいるのに。面白さもありましたけど、真子ちゃんが可哀想だったから。だから、もし大友が半端なことしたら俺がガツンと言ってやろうって気持ちもあったんスよ。……ええ、もちろん小さなケンカはよくありましたけど、大友と真子ちゃんは順調でしたよ。

……手紙っスか? ええ、俺も読みましたよ、大友のギターケースに入ってました。確かにこの手紙でした。……スタジオです。毎週水曜日の昼間は、俺たちのバンドがスタジオを使うんです。俺も大友と同じバンドに入ってて、あいつがギターで俺はドラムなんですけど、その日はテスト前だったから、俺と大友の2人しかスタジオに居なかったんです。……いつもは4人です。

……1回だけ、赤井って奴が練習中にスタジオに来ました。ゴミ回収はとっくに終わってて、今日は妙な時間に来たなって思いました。多分、その時に入れたんじゃないかな?

……事件の現場ですか? 違う刑事さんに話したまんまッスけど、大友が駐車場に呼び出されて、俺は階段脇から隠れて見てました。……多分50メートルくらい。分かんないスけど。……はい。急に犯人が飛び出してきて、大友にスタンガン打ったんですよ。俺もびっくりして、でも1回目は大友が尻餅ついただけで、そっから取っ組み合いになったから、俺も慌てて駆け寄りました。でも遅かったんです。大友のやつ、泡吹いて倒れてて、頭から血も出てました。でも、犯人は動かなくなった大友にもずっと当てて続けてたんです。……何をって、スタンガンですよ! 俺が止めるまでずっと! たぶん、犯人は頭狂ってたんじゃないですか? コーヒー溢しの犯人も、映研の倉庫荒らしたのもあいつなんでしょ? きっと頭のネジの1本や2本、外れたんですよ」


 箕田謙一。21歳。男性。白木学院大学法学部政治学科三年生。大友おおとも典久のりひさ(被害者)とは友人関係にあり。

 本件の通報者、ならびに第一発見兼目撃者。



 7月23日。木下知鶴きのしたしずるの証言より――


「気味の悪い学生さんでしたよ。……ああ、学生じゃないんですよね。

……ええ、毎週水曜日の夕方は、決まって来店しました。いつも奥の席にひとりで座って、ブツブツ独り言を粒やいたり、笑ったりしてたんですね。まるで見えない誰かと向かい合って話しているみたいに。

……他に変わったこと? うーん。あ、そうそう、灰皿も2つ出せと決まって言うんです。

……大友くんなら知ってますよ。ええ、彼女の真子ちゃんも。彼イケメンだし。真子ちゃんも本当に可哀想ですよね。金髪でしたけど礼儀正しくて、よく笑う子で、ハスキーな声も可愛くて。お似合いアベックでした。あ、今はアベックなんて言い方はしないのかしら? よくうちの店に来てくれてました。私、顔覚えは良い方だから。

……そう言えば、事件があった前の週の水曜日に大友君もうちに来ましたね。……ええ、赤井さんも居ましたよ。……うん、ひとりで。……赤井さんの方が先だったかしら? そうよ、後から大友君が来ました。思い出しました。確かにそうでした。……2人が直接話していませんでしたけど、赤井さんは大友君が来てからずっと彼の方を睨んでました。……理由なんて分かりませんよ。私、その時は赤井さんも白学の学生だと思ってましたから、学校で何かあったのかくらいにしか。……はい? ええ、大友さんは赤井さんの方なんて見向きもしてませんでした。まるで他人みたい。

……奥原おくばる? 珍しい名前ね。初めて聞きました。……彼女も金髪なんですか? へぇ。……私が知ってる金髪の女の子は真子ちゃんくらいですよ。……さっきも言いましたけど、赤井さんはいつも1人でしたよ。奥原さんがどんな方かは知りませんけど、赤井さんが他の誰かと一緒に来店したことはありませんでした。……確かです。メビウスは私がほぼ1人でやってる店ですから」


 木下知鶴。61歳。女性。喫茶メビウスオーナー。大友おおとも典久のりひさ(被害者)とは知人関係にあり。



 7月22日。金子智充かねこともみつの証言より――


「仕事熱心な子でしたよ。他のアルバイターたちと違って、赤井君はきちんと回収も続けてたし。……みんな初めはそうなんですけど、ほら、慣れと言うか。みんな気付くんです。『これはサボってもバレない仕事だな』って。……はい、赤井君は毎週水曜日の勤務でした。……欠かさず、朝と夕方に学生会館のゴミを回収する。赤井君くらいでしたよ、全部のゴミ箱の中身を律儀に回収していたのは。

……変わったことですか? うーん、正直あんまり話はしませんでしたから。赤井君ってどこか掴み所のないキャラだったんです。あ! でも、桃口杏子の話には食い付いてたなぁ。……ええ、アイドルの。僕もそうなんですけど、赤井君も好きそうでした。直接は聞いてませんが。そんな感じがしたんです。

……事件のあった日ですか? 一昨日の20日ですよね? ……はい、水曜日。彼は普通に帰ったと思いますよ。……その日はイタズラは……あ! 違う。赤井君、確かその日は『イタズラの後片付けをします』と言って抜け出したんだった。……17時半ごろだったかな。……いつもはそうなんですけど、その日は特に学生からクレームがあって抜け出した訳ではなかったと思います。彼が自らイタズラの片付けをするからと言って、待合室から出ていきました。

 そう言えば、被害にあった学生の彼女、笠原さんでしたっけ? ……あ、いえ、特に関係ないかもしれないですけど、アイドルの桃口杏子に似ている気がして。……ええ、なんか雰囲気がね。本当に関係ない話ですみません」


 金子智充。43歳。男性。人材派遣サービス結カンパニー勤務。勤務地は白木学院大学学生会館。赤井あかい帆信ほのぶ(容疑者)とは同僚関係にあり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る