第37話 王子として

父、龍平は重い口を開く。


「 君の気持ちは良く分かったよ。 君が優しくて、誰にでも親切に出きる事を、私は知っているよ。

娘が少し前に迷子になったときがあってね、その時に助けてくれた人に一目惚れして、無理を推しきって同じ高校に転校してんだよ。」


黒崎は思い当たる節がありました。 姫子を助けたのは自分だったのだから。 こんなに思われてる事も全然知りませんでした。 黒崎はびっくりの連続でした。


「 私は感謝しているんだよ。 あの子があんなにも優しくなれたのも、君のお陰なんだよ? 傲慢にワガママに育ててしまって、思いやりの心を忘れていたんだ。 でも、君と出会ってあの子は変わったんだ。 君に親切に優しくされたのを、忘れずに他人を思いやる事によって、今は沢山友達も出来て毎日があんなにも笑顔に過ごしていたんだ。 本当にありがとう。」


龍平は最初から、セバスチャンに全てを聞いていて、黒崎の事や友達の事も全部知っていました。

毎日の変化に、自分の事のように嬉しかったのです。 知らないフリは、とても大変だった筈です。

当然妻も知っていました。


「 白鳥さん。 僕はそんな事、何も知りませんでした…… 当たり前な事しかしてないのに、そんなにも想ってくれる人が居るとは思わなくて。」


黒崎の心に深く突き刺さりました。 だから、姫を傷つけてしまった事や、想いに全然気付かなかった事が悔やまれました。もっと、もっとちゃんと見ていれば気付けたのでは? と思ってしまうのです。


「 黒崎君。 今回の一件を全く怒ってないのだよ? いつかは起こる事だと思っていたのだから。

実の所、今は家に姫は居ないのだよ。」


「 えっ!? 一体何処に行ったんですか?」


姫は一人になりたくて、家を出て何処かへ行っていました。 一体何処へ行ってしまったのでしょうか?


「 分からない……。 君なら見つけて、慰める事が出来るのかも知れないね。 出来るかな?」


「 必ず見つけます。 絶対に! 」


そう言い、深く頭を下げて自転車で移動するのでした。 龍平はその姿を、見えなくなるまで眺めていました。 そして小さな声で一言囁ささやく。


「 お財布を拾ってくれた、お礼じゃよ。」


龍平はどうにか黒崎へ恩返ししたかったのでした。 今回の後押しは、せめてお金に頼らないプライドを気付けない方法での恩返しでした。

龍平の隣に奥さんが近寄って来ました。 ずっと近くの監視カメラで観ていたのです。


「 あなた。 珍しく姫子の同級生に優しかったのね。 いつもなら、直ぐに追い返すのに。」


「 あの子のお陰で、姫子はあんなにも良い子に成長出来たのだから、当たり前な対応をしたまでだよ。」


「 本当にそれだけ? 後、少し嘘なんてついちゃって。 姫ちゃんの居場所が、分からない事なんか無いじゃない笑。」


龍平は姫子が心配で、GPSやセバスチャンによって姫子の安全をいつも守ってきました。 だから、居場所が分からないと言うのは嘘なのでした。


「 ん〜。 姫子が好きになった男なら、誰の力も借りずに姫子を見つけられると思ったからだよ。 そんな事も出来ないなら、見込み0だよ。

おっほっほい! 」


「 優しいんだか、優しくないんだか。 居場所くらい教えてあげればいいのに。 本当に男の人は不器用ね。」


百合は男の謎な絆に、少し呆れながらも可愛く思ってしまっていました。


「 姫ちゃんの可愛いプリンスは、見つけられるかしらね? 見つけられたら、彼氏として認めてあげる?? 」


「 バカ言うんじゃないよ! 彼氏何て遠過ぎる。 ボーイフレンドぐらいにはしてあげるかな……。」


まだまだ、子離れ出来そうにない龍平でした。


その頃、姫は何処に居るのでしょうか?

それは、ホットドッグ屋さんでした。 初めて出会った所に来て、染々想いに浸っていました。ここが、全てが始まった場所なのだから。


「 はぁ……。 転校しないとダメだよね。

折角楽しくて、沢山友達出来たのになぁ。 寂しいなぁ。仕方ないんだけどね。」


それを聞いていた、ホットドッグ屋さんの店長が優しく対応してくれる。


「 お嬢様。 気にする事何かありませんよ。 お嬢様なら、何処に行っても問題ありませんよ! 」


「 おじさん! 適当な事ばかり言わないでよ。 誰が投資してると思ってるのよ! もっと、最高な答えないのぉ?? おじさんは人の事だからって、適当何じゃないの? 」


少し姫子は、イライラしていたので八つ当たりしてしまいました。 でも、仲良しになっていたからこそ本音が沢山出てしまいます。


「 すいません。 にしても、お嬢様の言う王子は来て来れませんね。」


「 王子はもういいの。 他の姫にガラスの靴持って行ってるのかもしれないし……。」


皮肉を言い、どうにか諦める様に自分に言い聞かせるのでした。


「 おじさんごめんね。 今日はもう帰りますわ。また来るね。」


そう言い、ゆっくり歩いて行きました。

店長さんも、寂しげに見届けました。


黒崎は必死に自転車をこぎました。 姫と遊んだ場所や、お寿司屋さん。 色々な場所に行きました。

光やハラケンに聞いても、当然知りませんでした。


( はぁ、はぁ…… 何処に居るんだ? 今まで一緒に行ったとことか、色々行ったけど全然分からない。 今まで見つけられなかった事なんか、一度も無かったんだから今回も見つけられる筈だ。)


息を切らしながら、そこら中を走り回りました。

それでも、全然見当たりませんでした。黒崎は必死に探すのでした。


黒崎は考え方を変えてみました。 姫なら何処に行くかを。 今までは、行ったことある所を中心に探していましたが、姫の気持ちになって考えました。

一つの答を導き出しました。


初めて出会った場所でした。

その場所以外は、考えられませんでした。 無理な運転をしていたので、自転車のチェーンが切れてしまいました。 自転車を置いて、黒崎は走って公園へ向かいました。


光も黒崎の連絡の後に、必死に探していました。

カラオケやお寿司屋さん、ホテルや雑貨屋。 色々行きました。 でも見つかりません。

すると、他にも探してる人を見つける。 ハラケンでした。 ハラケンは人の気持ちを考えるのが苦手でしたが、姫の事が気になっていたのです。 不器用なりに頑張っていたのです。


「 ハラケン。 何してんのよ? 」


「 俺も…… 姫の事気になって。 だって、友達だもん。 また遊びたいし! 」


二人で探す事にしました。 ハラケンが居てもほとんど変わらないと思いつつ、光は探しました。


ハラケンが唐突に世間話をし始めました。


「 そう言えば、姫が前に言ってたんだけど美味しいホットドッグ屋さんがあるって言ってたなぁ。

そのホットドッグ屋って、黒崎も行きつけなんだよね! 」


「 ん?? それよ!! ボンクラ良く覚えてたわね。 それが分かれば、もう安心よ。 でも、ここからだと結構距離あるわね…… そうだ! 姫の為だし、おじさんにもらった緊急スイッチ押してみよう! 」


ポチッ!!


すると、あっという間に大きなリムジンが来て龍平と百合が現れました。 さすが、緊急スイッチ。


「 光ちゃん。 久しぶりね。 どんなご用件かしら?? 」


「 おば様。 姫の場所分かったかもしれないの。

連れてってもらえませんか?? 」


その目的地は、GPSの指していた場所と同じ場所でした。 龍平と百合は動揺してしまう。


「 おっほっほい! じゃあ、一緒に行こうか。」


と言い、二人を乗せてホットドッグ屋さんに向かいました。


( さぁ。 黒崎君よ。君が先か、私達が先か。

どちらが早いかな?)


龍平はそう思いながら、車は目的地に走り出しました。



姫は迷子のときに来た公園に居ました。

夕方になり、お腹も空いてきました。


「 はぁ。 そろそろ帰ろうかな? 考えてても仕方ないからなぁ……。」


そこに、息を切らしながら汗だくの黒崎が現れました。


「 あれ? ズル休みのお嬢様。また迷子になってましたか? 」


姫もびっくりして声が出ませんでした。

黒崎は姫を説得出来るのでしょうか!?

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