第36話 君に出来る事

健から突き付けられる現実と、新たな道への誘い。 周りとの格差に、特別扱いされるのであれば、やっぱり前の生活に戻るしかありません。


「 ありがとう。 でも、もう少し考えてみようかなぁ……。折角出来た友達も居るから、少し抵抗あるしね。」


姫は、まだ少しの時間しか共に生活してないこの学校生活に大変満足しており、もっともっと皆と、友達と共に生活したい気持ちでいっぱいでした。 でも、先程の様子ではそれも上手く行くかは分からない不安でいっぱいでした。


「 そうか。 いつでも言えよ? 俺はいつでも、どんな時も姫の味方だからな。」


ゆっくりうなずくと、そのまま静かに

帰って行きました。 健の手には、使う事の無かったハンカチが悲しく残っていた。


「 結局俺は、何にも出来ないのかな……」


健は一人でベンチに座り、考え込むのでした。 今まででお金の力や地位を使い、あの手この手を使って気を引こうと試みましたが、いつも怒らせたり興味を示しませんでした。

でも、健には前までは分からなかった元気にさせる方法が一つだけ分かっていました。

それは苦渋の決断……


「 やっぱりどう考えても、これしかないよなぁ……。 よしっ!!」


健は決心を固め、行動に移すのでした。


それから3日が過ぎ、姫は学校休んで居ました。 風邪と言う事だが、絶対に違うだろう。 黒崎や光やハラケン、すずめは凄い気になっていた。 連絡をしても、出てはくれませんでした。 光は家を訪ねましたが、本人の要望により帰ってと言われてしまい、会うことは出来ませんでした。

黒崎はずっと気がかりなっている事が、沢山ありました。 知らないとはいえ、姫を傷つけてしまった事。 謝りたくても、お金持ちへの嫌悪感により、どうしてもその一歩が踏み出せずに居ました。


( 結局、姫は大金持ちでこの高校には遊びに来てただけなんだよなぁ…… 良い友達かと思ってたから、凄いショックだなぁ。)


黒崎は放課後に一人、学校から帰って行く。 校門の前には、何気に姫と同じ日から学校に来てなかった、健の姿がそこにはありました。


「 健? 今まで何してたんだよ。 心配したんだぞ。」


「 悪いな。 ちょいツラ貸せや。」


そう言うと、健は黒崎を連れ公園へ。

二人はベンチに座り込む。


「 翼よ。 何をそんなに悩んでいるんだ?」


健は黒崎の様子の変化に気付いていました。


「 ん。ちょっとな。 白鳥さんが学校来なくて、ちょっと気になって……。」


「 会いに行かないのか? 」


「 どうせ門前払いされちゃうよ笑

だって、白鳥さんのお父さんの悪口は言ったし、お金持ちへの嫌悪感も話ちゃったし。

やっぱり、同じ時間では過ごせなかったんだよ。 全然生活も違うんだし……。」


散々溜まっていた不満や、悩みを全て言ってしまった。


「 翼よ…… 俺達は友達であり、親友だよなぁ? 」


「 当たり前じゃないか。 親友だよ!」


「 なら、何故姫はダメなんだ? 俺と同じ金持ちなんだぞ? 」


黒崎はその矛盾に、答えが出せずに居ました。 本当にその通りだと思ったから。


「 黒崎は姫が、高校の皆や一般庶民を下に見ていると思うか? 」


「 …… 多分、見てるんじゃないかな?

だって、あんなにも大金持ちなんだよ?」


そう思わずにはいられませんでした。

今までずっと、お金持ちはそう言う人ばかりだと思ってきたのだから……。


「 少しの時間しか過ごしてないけど、姫と過ごして、お前にはそう見えたのか?」


黒崎には、自分や光やハラケンとかと何も変わらない様にしか見えませんでした。

それ所か、姫の笑顔や楽しかった事しか思い出せまんでした。


「 俺様も最近気付いたんだよ。 俺達は何にも変わんないって。 ただ、産まれた時に裕福かどうかが違うだけだ。 何も変わんないんだよ…… 良い事教えてやるよ。

お前の大事にしてる、バイト先で貰った手紙見せてみろよ? 」


黒崎はいつも大事に持っていた、手紙を健に見せた。


「 お前さんは、こんな優しくて普通な子が好きなんだろ? 」


「 ……今は関係ないだろ? その手紙書いてくれた子は、白鳥さんとは正反対なチェーン店のお寿司を沢山食べて、見ず知らずの働いてる人に手紙を書く子なんだよ。」


そう言われると、健は鞄から姫の学校に忘れていたノートを出しました。


「 この字見ても同じ事言えんのか? 」


その字は、手紙の女の子と同じペンやクセでした。 二つを見比べたら、ハラケンでも気付いてしまう。


「 ……えっ!? そんな事って……。」


それはびっくりする筈です。 自分が探していた、優しい彼女はいつも隣の席に居たのだから。


「 これで分かったろ? 何にも変わんないんだって。 姫が一般人バカにしてたら、こんな事するか? しないんだよ。 本当は姫が下に見てない事くらい、お前なら気付いてんだろ? 頭良いんだから簡単だろ?」


黒崎は涙を流しながら、自分の愚かさに呆れてしまってしまう。 勝手に下に見てると思い、お金持ちを差別していたのは自分だったのだから。 涙が止まりませんでした。


「 ほいっ。 これ、姫の住所ね。

行って謝って、学校に連れ戻して来いよ♪」


「 ……うん。 ありがとう。健は俺の最高な親友だよ! じゃあ、行って来る!! 」


そう言うと、自転車で猛スピードで駆けて行きました。


「 これで良いんだよな…… お金や地位じゃなく、俺のハンカチなんかよりあいつには翼の存在が一番の特効薬なんだよなぁ笑。」


そこに、ずっと見ていたパパが寄って来ました。 健のお父さんはずっと遠くから、健の成長を見ていたのです。 勘当かんどうしてはいなかったのです。


「 健よ。 これで良かったのか?

姫子ちゃんには、この答えが良かったのかも知れないが、お前は良いのか?

想いを告げずに、諦めてしまって。 」


「 パパ。 全然良いんだよ。

だって、初めて好きな人を笑顔に出来るんだったら、俺は満足だよ。

俺にとっても、あの高校に行った事は良かったんだよ……。

最高なハンカチになるとは思わないかな?」


泣きそうになりながら、健は笑顔でパパに語っていた。 満足そうな笑顔で……。


「 よし! 二人で外食でも行くか?

旨いもんでも食べよう♪ 」


「 よっしゃあ! じゃあ、回転寿司食べに行こうよ? すげぇ楽しくて、旨いんだぜ?

パパもびっくりするよ♪ 」


「 本当か? じゃあ、早く行こう!

男になった記念に、沢山食べて盛り上がろう! あっはっはっは! 」


二人は車に乗り、お寿司屋さんに向かいました。


その頃、黒崎は大豪邸の白鳥家に辿り着いて居ました。


( でけぇ…… 門があるのに、お屋敷はあんなにも遠くにあるよ。

桁違いのバケモンだなぁ……。)


勇気を出して、チャイムを鳴らせる。

ピンポーーン!!


「 はいっ! 白鳥家で御座います。

どんな御用件でしょうか? 」


「 あの…… 僕は白鳥さんと同じ高校に通う、クラスメイトの黒崎翼くろさきつばさと申します。 姫子さんにどうしても会いたくて来ました! 」


「 少々お待ち下さい。」


そう言うと、インターホンが切れる。


( はぁ……。凄い怖いなぁ。

こんな大きな家初めてだし、圧倒されちゃうよ……。)


すると、ゆっくり歩いて来る人影が見える。 それは、白鳥夫婦とセバスチャンでした。 父龍平には、この前会って居たので会うのは二回目でした。


「 黒崎くんかな? 何の用だね。

ウチの子に何かあるのかね?」


凄い威圧感…… まるで、蛇に睨まれた蛙の様な気分。 ガクガク震えてしまう。


「 …… あっあの……、姫子さんにどうしても、謝りたくて。

沢山傷つけてしまったから……。

だから、だから……

どうしても会いたいんです! 本当に会いたいんです。 宜しくお願いします……。」


深く、深く頭を下げる。

黒崎の気持ちは、龍平の心に響くのだろうか?

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