第33話 親友の為に

店員さんは、耳を疑いました。 ジャンボステーキは、通常のグラム数の3倍近い量なのだから。 レディース用の為か、少しばかり量は少なめ。 それでも重さは、何と700グラム。 男性でも、食べれないくらいの量。


「 お客様。 お残しすると、罰金が発生しますが宜しいでしょうか? 」


お察しの通り、遊び半分やインスタ映えの為、注文が殺到しましたが残す人が続出。

店長の采配により、本当はやりたくなかったが、罰金システムにより食べれない人は注文しにくくなり、お残しは激減していた。

現在、光の様な華奢きゃしゃな女の子が食べれる筈もない…… 店員さんは、心配で聞いてくれたのです。


「 問題ないです。 結構食べるので♪

食べきれば、無料にもなって賞品もあるんですよね?? 」


全くおくする事も無く、注文するのでした。 むしろ、賞品を気にする余裕すら感じられる。


「 かしこまりました…… 賞品は、食べきれた人にしか分からない限定の物になります。 少々お待ち下さいませ。」


店員さんは、駆け足で注文しに厨房へ向かう。 最近は、罰金により注文が激減していた為、お店側も対応に困惑する模様。


「 光。 大丈夫?

罰金取られちゃうかもよ?」


「 姫は安心して食べてね。 ウチの底力魅せてやるわよ♪ 」


心配する姫に対して、どうにか自分の大食いを披露して元気にさせる作戦だ。 まるで男の様なアイディア。 3人はお喋りしながら待っていると、お肉の良い匂いが漂って来る。

店員さんがお肉を2つ運んで来ました。 熱々なのが、湯気や音で分かる。


「 お待たせ致しました。 サーロインステーキ、200グラムミディアムレアで御座います。」


姫とすずめの目の前に、ステーキが置かれる。 姫はチェーン店とは思えないクオリティに、感激して目を大きくする。


すずめ。 これ凄いね! 私、こんなにお肉美味しいそうなの初めて見たわ♪ 」


「 うるさいわね。 田舎もんと間違われるわよ? まだまだね笑。」


すずめは、熟練者の貫禄出しまくりな態度で対応する。 姫はただただ、戸惑ってしまう。 姫はステーキソースを取ろうとすると。


「 最初は何もかけずに食べるのよ!

次は直塩よ! これ常識。」


二人はすずめのお肉愛は知っていましたが、まさかこれ程だとは思いませんでした。 熟練者の言うことを聞き、何も付けずに食べる事に。


「 じゃあ、いただきますわ。 もぐもぐ…… えっ? お肉柔らか過ぎて、ほっぺた落ちちゃいそうですわ♪ 」


姫は、お肉をそんなに好んで食べる訳では無かった為、美味しいサーロインを味わい感動していました。 やっぱり、食わず嫌いは良くありませんよね。


「 本当に、姫は田舎もん丸出しよね。 静かに食べなさいよ♪ 」


すずめもステーキを堪能する。

二人がステーキを食べていると、二人係りで店員さんがステーキを運んで来る。


「 お待たせ致しました。 ジャンボステーキレディース用で御座います。 御ゆっくりどうぞ。」


それは、ステーキと呼ぶにはあまりにも大きく、お上品とは程遠い存在。 牛さんが鉄板で、寝てるようなステーキ……

二人は、唖然としてしまう。 すずめでも、頼んだ事が無かったからです。


「 おっほい! ウチ好みのステーキね。

いただきまぁ~す☆ 」


大きな口で一口食べる。 熱々で塩と胡椒が利いている最高なステーキ。 デカいからと言って、手抜きではない所を見せ付ける。


「 だひゃあ~~! 最高ね。 これで賞品に無料なんて天国じゃん笑 」


光は男勝りに食べ始める。 制限時間は60分。 食べれるのでしょうか?

姫は光の食べっぷりを見るのが大好き。 ニコニコしながら、サーロインを一口食べる。


「 本当に美味しいですわ。 今度、辰巳たつみに作ってもらおう♪ 」


辰巳たつみって誰よ笑。」


咄嗟とっさ辰巳たつみの名前を出してしまったが、普通に考えたら誰だよってなってしまう。


「 叔父さんよ。 料理上手いから笑 」


「 叔父さん何かじゃ、ここの味とは程遠いわよ。まだまだね。」


すずめにバレなかったが、笑われてしまいました。 姫は少し恥ずかしくなっていた。


( 姫もしっかりしなさいよ。 もぐもぐ。

あのシェフの名前出しても、分かる訳ないじゃない。 相変わらずなんだから…… )


光は食べながら、当事者よりもハラハラするのでした。 そして、黙々と食べ続ける。 一口一口が大きい。 ゴリラが人間に変身しているかの様に。 店員さん達が遠くから見守っていて、唖然としてしまっていました。

それはその筈。 女の子でこんなに食べる人が、ここのお店に来たことなんて無かったからだ。 シェフ川崎も見守っていました。


「 凄いなあの。 それにしても、辰巳たつみって名前久しぶりに聞いたなぁ。 俺の師匠も辰巳たつみって名前なんだよね。 関係ないけど、思い出しちゃうなぁ…… 」


何と、チェーン店の産みの親の川崎の師匠が辰巳たつみとはまだ誰も知らない。

さすがは、天下の辰巳たつみシェフでした。


50分の時間が過ぎ、姫とすずめはデザートのイチゴミルクを堪能していました。


「 本当に美味しいですわ♪ 私の名字も川崎にしちゃおうかなぁ笑 」


ご機嫌になり、冗談まで言っている。 フラれた事何か忘れてしまっていました。

人間の娯楽に、食事が入るのが良く分かる。

嫌な事があったり、楽しいとき、美味しい物を食べるのが幸せな行動なのかも知れません。


( 姫……。 元気になってきたわね。それじゃあ、フィナーレを見せてやるわよ! )


凄い勢いで、バグバグと食べ進める。 時間が迫って来て、二人に動揺が走る。

光が最後の一口を食べる……

そして時間終了!! 完食!


「 やったぁ! 光凄い! 凄い! 」


「 ちょっとぉ! 私以外、田舎丸出しじゃない。 でも、最高な瞬間に立ち会えて良かったわ……。」


拍手喝采。 お店の中は光を祭り上げる。

何故なら、ここのヒーローなのだから。


「 食ったどぉ! 早食いは苦手だわ。」


余裕な表情を浮かべる。

すると、店長達が賞品を手に近寄って来る。


「 お客様。凄い食べっぷりでしたね。

こちらも、良いもの見せてもらいました。

賞品は…… 川崎のロゴ入りエプロン!! 」


「 えっ!? なんじゃそりゃ! 」


光の返答と賞品を聞いたお客さん達が、爆笑するのでした。 皆、賞品はもっと凄い物を期待していたからです。 現実はこんなものでした。 川崎シェフは恥ずかしそうに、エプロンを受け渡しました。

最後に、食べ終わった記念に3人で写真を撮ってもらい、お店に飾ってもらいました。

3人は、満足そうにお店を出て行きました。


すずめは門限の為、走って帰りました。 すずめのお肉博士は凄かった……

姫は光と帰る事に。


「 光。 もしかして、フラれたの知ってた?」


姫は今日1日の光の行動を見ていて、何となくバレていることが分かっていたのです。


「 何となくだけどね。バレてたかぁ……

元気にしたくてね。 上手く出来なくてごめんね。 難しくて…… 」


「 そんな事ないよ。 今日は3人で居れて幸せでしたわ♪ この学校に来た理由は黒崎くんだったけど、今は友達も出来て全然寂しくなんてないですわ!

光。本当にありがとう♪ 」


姫は笑顔で帰ってしまいました。 その笑顔は作り笑いではありませんでした。 純粋な喜びの表情。 光はそれを見えなくなるまで見ていました。


「 元気になって良かったぁ。でも、ウチの快進撃はこんなもんじゃないわよ! 」


何かまた、余計な事を考えていました。

そして、家とは違う別の所へ向かうのでした。


健は近くのスーパーのバイトを終え、家に帰って来ていた。


「 はぁ…… 疲れた。 お金稼ぐの辛すぎ。

バイト代で、新しいウィッグと服でも買おうっと。 疲れたなぁ……。」


家に着くと、玄関の前に光の姿が。


「 えっ!? お前何しに来たの?

惚れちまったのか?? 」


光はどんな思惑があるのでしょうか??


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る