第28話
モーターが駆動する音が鳴り、陽とステラの2人は、身体が地面へと軽く引き寄せられるような感覚を覚える。
透明な扉からは部屋の様子を見ることが出来たが、2人がエレベーターに乗り込んだ階層を過ぎると周りは黒い壁に囲われているようで一気に暗くなる。天井にある照明と、階層を示すランプの光だけが2人を優しく照らすために灯っていた。
上層へと進むエレベーターの中をステラは興味深そうに見回して、こんな物があったとは。と、彼女は声を漏らしている。
「ステラさん、さっきはどうしてクラムを殺さずに捕えておくように言ってくれたんですか?その……ステラさん達からすると、殺すのが普通なんですよね?」
陽は2人になった所で、先程からステラに聞きたかったことを話した。ステラの行動は、彼女が持つ倫理観から
一瞬の沈黙がエレベーターに広がる。彼女は天井を見つめて少し考えた後、横にいる陽へと顔を向ける。アメジストのような瞳が彼を見る。
「君の考えも分からなくはない。そう言っただろう?それに、会話が出来るという事は新しい情報が手に入るかもしれないんだ、試してみる価値はあると思ってね」
「俺との会話を……ですか?」
「あぁ、成功すれば君の疑いもきっと晴れるだろう」
「俺が疑われていた事、気付いていたんですね。……ステラさんは、俺の事を敵だって疑わないんですか?」
陽は下を向き自分の掌を見つめる。その視界の端には、彼を心配そうに見つめるドラゴンの姿が見えた。
「正直に言うと、全く疑っていないというわけではないよ。だけど、君がいないと今回の目標は達成出来ない、だからそれを優先しただけだ」
彼は完全に信用されているわけではなかった。
ステラさんは助けようとしてくれただけなのに、俺はわざわざ疑われるような真似をしてしまった。行動で示すと言った割に、何も出来ていないじゃないか。
彼は数分前にもした反省を繰り返す。
「本当に、さっきはごめんなさい。俺は──」
「謝罪はもうさっき聞いたし、怒っているわけでも無いから大丈夫だよ」
彼の言葉を遮るように、ステラは手を振って微笑み、気にしていない事を告げる。
「っと、そういえば、これはあとどのくらいで上に着くか分かるか?」
「あ、えっと……今20階だから……半分くらいまで来ています」
「なるほど、君の言った通り階段で上るよりもずっと早いな。しかしこれを使えばいい事に良く気付いたな、もしかして君はこれの事を知っていたのか?」
ステラは床を指差しながら陽に問いかけた。
「あ、はい。エレベーターと言って、好きな階にすぐ移動する事が出来る乗り物なんです。俺が住んでいる場所だと一般的で、皆が使ってます」
「エレベーター、か。使い方は君のを見て何となく理解したよ。次からは役立てられそうだ」
2人がそんな事を言っている間にもエレベーターは進んでゆき、甲高いベルの音が目的の階に着いた事を知らせる。「着いたみたいです」と陽が言うと、二重の扉が開き、その先の様子が見えてくる。
そこは窓が無い大きな部屋になっていた。大木のような太い柱が何本も規則正しく建ち並ぶその部屋には、外からの光は届いていないが、部屋の中は昼間のように明るくなっていた。光を発生させているものが部屋の中央にあるからだ。
それは巨大な球体だった。巨大な台座に取り付けられたそれは、中の様子が透けて見えるようになっており、白い光が大きな音を鳴らしながら高速で走り回っていた。その光は球体の上に開いた穴から天井へと伸びていた。
「これが壁を生み出しているものですか?」
「あぁ、これを壊せば作戦は成功だ」
何かの機械のようだ。原理などは全く理解出来ていなかったが、台座に存在しているタッチパネルのようなものや、そこから伸びて球体に接続されているケーブルを見て、陽はそう確信する。
これが壁を発生させている装置で間違いなさそうだ。
「それじゃあ、よろしく頼む」
陽は頷き、早く終わらせよう。と心の中で呟いてドラゴンに声を掛けた。彼の呼びかけに応じて、ドラゴンは姿を変えて彼の身体に鎧を形成する。
彼の身体が黒い鱗に覆われ、装置を破壊するために腕をそれに向かって突き出した。
その瞬間、天井の一部が爆発した。爆音と衝撃に2人は思わず腕で顔を覆う。天井には大きな穴が開き、瓦礫が部屋の中に落下してくる。
その瓦礫に混ざり、巨大な何かが轟音と強烈な光を放ちながら降下して来るのが見えた。それは2人と装置の間に降り立つ。
「巨人……!」
陽の耳がステラの呟いた言葉を拾う。彼は降り立ったものを見据える。そこには後方の装置を守るようにして、巨大な人型のロボットが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます