第27話
ステラは、倒れているクラムを背にして自分を見ている陽に対して、彼の背後を指差しながら告げる。
「クラムと言ったか、見てくれ。もう戻り始めてる。もう少し時間が経てば起き上がって来るはずだ」
「何を言って……」
陽は振り返り、死んでいるはずのクラムを見る。ステラの魔法を受け、折れ曲がっていたはず腕が治り始めているクラムの姿を見る。その光景を見た彼は息を呑む。
「な、なんで……」
「理屈は分からないが、彼らは時間が経つと復活する。それに君の怒りも理解出来なくはないが、今は割り切って欲しい。上に行くことが最優先だ」
この状況を考えると、最もな意見だった。陽がクラムについて考える間も無く、ステラは話を続けてゆく。
「君の話は目的を達成した後で聞く事にするよ、とても重要な事だと感じている」
真剣な表情で彼女はそう話した。その表情に、陽は言葉を詰まらせる。
彼女の言うとおりだ。助けてくれたのに、感情に任せて酷い事を言ってしまった。と、彼は反省した。
「……すみません、気が動転していました。あの、ステラさんはどうやってここに?敵に囲まれていたはずなんじゃ……それに、塔の前には敵がたくさん……」
陽は自分を塔の中へと逃がしてくれた、ボロボロになったローウェンの姿を思い浮かべる。あれから少し時間が経った、彼はどうなったのだろうか、と不安そうな顔をする。
「あぁ、グロムが加勢に来てくれたんだ。敵の様子がおかしい事に気付いたらしい。それで、敵を撒いた後、先に侵入していた隊員達と合流し、急いでここに来た」
「ローウェンさんは!?俺をこの中へと逃がしてくれたんです。塔の前で戦っていたはずです!」
「君をここまで連れて来た隊員だな。彼は無事だ。私達の到着がもう少し遅れていたら危険だった。彼は1人で敵を食い止めていたよ」
ローウェンの命が無事だと分かると、不安そうだった陽の表情は、落ち着いたものへと変わった。
「そうですか。よかった……」
「グロム達には、外がある程度片付いたらこちらに合流するように言ってあるんだが……あぁ、来たようだ」
ステラは振り返り、部屋の入口を見て呟く。複数の足音が近付いて来るのが聞こえていた。そして開いたままの扉から、グロムとギブリとローウェンの3人が姿を見せた。
「ステラ!無事ヨウと合流出来たみたいだな」
「あ、番人も倒したんだね~」
グロムとギブリがステラに話し掛け、彼女はそれに応えている。陽は、番人という言葉が少し気になったが、2人に対して会釈をし、その後ろにいるローウェンのもとに駆け寄る。
「ローウェンさん、さっきは助かりました。もう動いても大丈夫なんですか?」
「正直、立っているので精一杯といった所です。まさか、あんなにも早く敵が復活してくるとは思いませんでした。ステラ様達が加勢に来てくれていなかったら今頃どうなっていたか」
ローウェンは胸に手を当てて安心したように息を吐いた。彼は敵が復活してくるのを知っていたが、陽が塔の最上階まで登り切るのには間に合うだろうと考え、伝えていなかった。
「どうしてかは知らねぇが、三日月の奴ら、前よりも強かったような気がしたな」
2人の会話を聞いていたグロムが会話に入って来る。敵の強さが上がっているという事は、前に三日月と戦った事のある他の3人も感じていた事だった。
「えぇ。あの数なら対処出来ていた筈なんですが」
「外ではまだ戦いが続いてて、ローウェン君は怪我が酷くて1人じゃ街の外まで戻れなさそうだったから一緒に来てもらったんだ~」
ギブリの説明を聞き、ステラは腕を組んでこの状況をどうするかについて考える。
「……私とヨウは上に行くよ。グロム達は番人の事を見張っていてくれないか?」
「殺さないのか?それに見張るって」
グロムがステラに向けたその問いに、陽は少し反応してしまう。そして彼はステラの返答を待った。
「殺さない。そして起き上がったら、そのまま捕らえておいて欲しい」
「捕える?ステラ様、それは何故でしょうか?」
ステラの意図が分からず、ローウェンは問いかける。これまで彼らが行っていた復活への対処は、一度倒した後に即首を落とすというやり方だった。
「あぁ、調べたい事があるんだ。そこに倒れている番人、名をクラムと言うそうだ。ヨウは、彼と会話をする事が出来るみたいなんだ」
陽とステラ以外の3人が息を呑む音が聞こえる。そして陽も、これを話してしまうとまた疑われてしまうのではないか、と内心で焦りながら3人の反応を待った。
「会話だと?」
「えぇ~ヨウ、ホントに?」
グロムとギブリが驚きの声を上げる。
「う、うん、本当だよ。こっちを攻撃してくるような素振りも無かった」
「私が咄嗟に倒してしまったせいで会話が途切れてしまったんだ。だから、捕えておいて欲しい理由はそれを確認するためだ」
ステラの言葉に3人は黙るが、その表情は煮え切らないといったようなもので、言葉を探しているようだった。
「ま、とりあえずこいつが起きたら捕まえておけばいいんだな?お前らはもう行くのか?」
「あぁ、よろしく頼む」
「ステラ様、本当に2人だけで大丈夫なのですか?」
「問題無い。この先に敵はいない筈だ。それじゃあヨウ、急ごうか」
と言ってステラは階段の方へと歩き始める。陽は階段でこの塔を上るのは厳しいと思った。そしてその時、その階段の反対側にエレベーターがある事を思い出した。
「あの、ステラさん!これを使えば上まで一気に行ける……と、思います」
彼はエレベーターの前まで歩き、上方向へ行くボタンを押す。すると扉が開き、中に入れるようになった。
彼はエレベーターの中に入ってゆく。ドラゴンも彼の後に続く。中には数字が書かれたボタンやドアの開閉するボタンなどがあった。彼は、やっぱり俺の知ってるエレベーターそのままだ。と、その挙動や内装から思い至った。
「ん?そうなのか?」
ステラも、少しだけ不思議そうにしながらエレベーターに乗り込んだ。陽は一番大きい数字が書かれているボタンを押し、扉を閉めるボタンを押した。
閉まってゆく扉の隙間から、不思議そうにエレベーターを見つめているグロムとギブリの姿が目に入る。その横には顎に手を当てて何かを考えているローウェンの姿も見えていた。
彼は扉が閉まる寸前に顔を上げ、口を開いた。
「ヨウさん、目的を果たしてくださいね。この事も、後で説明してもらいます」
あぁ、やっぱりまだ疑われているんだ。陽はそう思った。しかし、その間にも扉は閉まってゆき、彼が口を開こうとした瞬間にはエレベーターの扉は完全に閉まり切ったのだった。
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