第26話

「え、は?」


 世界から音が消えたような錯覚に、陽は目を閉じて腕で顔を隠す。一時的に視覚と聴覚を失った彼は身体に感じた衝撃にあおられてその場に座り込んだ。

 そして彼の耳が音を取り戻してゆくと、誰かの声が聞こえてきた。その人物は彼の名前を呼んでいることが分かった。


「─ウ!ヨウ!大丈夫か?」


 陽は少しずつ目を開ける。霞んでいた視界がクリアになってゆくと、声の主の正体が浮かび上がる。


「ステラ、さん……?」


 座り込んでいる彼の目線に合わせるように屈み、肩を掴んで呼び掛けるステラの姿があった。陽が感覚を取り戻したことを確認すると、ステラは彼の肩から手を放し立ち上がる。


「すまない、君の前に敵がいたのを見て、咄嗟に魔法を放った。そのせいでそれに巻き込んでしまった」


「い、いえ、俺は大丈夫です。それよりもクラムが……!」


 陽は部屋の奥へと飛ばされていったクラムの様子を見る。彼は何かを言おうとしていた、その何かをまだ聞けていない。


「うっ……!」


 ステラの魔法が直撃したクラムの身体は焼けただれ、手足があり得ない方向に折れ曲がっていた。その生死など言うまでもないように見えた。

 その無残な姿に、陽は喉の奥から込み上げてくるものをぐっと堪える。


「……クラムと言うのは、それの事か?」


 ステラが部屋の奥に転がっているクラムを指差して言う。陽の目からは、彼女がクラムを殺したことに対して何も感情を抱いていないように見えた。


「それ、って……」


 陽は、直前まで会話していた人に対してゴミでも見るような目を向けるステラに怒りを覚えた。


「ステラさん、三日月の人達と会話が成立しないって言っていたのは嘘だったんですか?」


「何だって?」


「彼……クラムと俺は、意思の疎通が出来ていました。それに、あのまま会話を続けていれば、彼らや自分についての事、何か分かったかもしれませんでした」


「……!」


 陽の言葉を聞き、ステラの眉が少しだけ動く。


「なにもいきなり攻撃するなんて事しなくてもいいじゃないですか!それに、人の事を物みたいに……!貴方達は、人を殺しても何も感じないんですか!?」


 彼は心のどこかではわかっていた。この問いかけは無駄だと。先程の行為はステラが自分を助けるためにした事であると。

 彼女達は自分とは違った考え方で、これは自分の倫理観を押し付けているだけに過ぎないと。

 

 しかし、彼は吐き出さずにはいられなかった。彼女達にとって当たり前の事だとしても、許容する事は出来なかった。

 作戦が開始され、敵と戦闘になった時に感じた恐怖。その恐怖を生み出す根源は、襲い掛かって来る敵達だけでは無かった事。

 流れ作業のように手際よく人を殺してゆく彼女達にも、同じく恐怖を抱いていたのだ。


 彼はグロムとの手合わせや敵との戦闘時、目覚めた場所で初めて力を使った時よりも放たれる力の威力が弱いように感じていた。

 それは自分が無意識のうちに力を抑えていたのだと理解した。人を殺したくなかったのだ。


 陽の問いかけ。その内容をステラは咀嚼する。


「人を殺しても何も感じないのか……か。君の言う人というのが、三日月達の事を指しているのなら、何も感じない。私だけでなく、他の皆も同じ意見だと思うよ」


「なっ!?何故、なんですか!?」


「私達とは違うからだ」


「違う?それは容姿ですか?会話が出来ないからですか?それだけの理由で、人を、殺せるんですか?」


 ステラは陽から目線を外し、倒れているクラムを見ていた。


「ヨウ、致命傷を与えても、数分でそれが治って立ち上がる、身体を切り離さないと死なないようなものを、君は人と言えるのか?」


「え?」


 ステラの視線の先には、あらぬ方向に曲がっていた腕が元に戻り始めているクラムの姿があった。

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